背後

 最近、誰かが後ろに立っている気がする。


 この間、朝会社に来るときにエレベーターに乗ろうと一人で立っていた時、後ろに人が立っていると思っていた。しかし、実際には誰もいなくて、エレベーターに乗ったのは自分だけだった。その人は、途中でエレベーターに乗るのをやめたのかと思った。


 しかし、その日から仕事をしていると、右斜め後ろに誰かいるような気配がする。

 決まって必ず右側。左はない。


 立っているのはスーツ姿の男だという気がしている。

 振り向かなくても、気配で男か女かはわかったりするものだ。


 もう30年近く前のこと。学生バイトをしていて、会社の人と外出したことがあった。一緒に役所に行ったと思う。その人は「後ろに人がいるのがダメで・・・」と言ってバスの最後尾に座っていた。待合室でも壁側に座っていた。強迫神経症の人なのかと思っていた。または、霊感があるのか。


 歩くのもすごく早足で、何かにせかされているようだった。

 歩くのが遅いからと言っていた。全然、そんなことはないのに。

 その人のことを思い出してしまった。


 俺も誰かに追われているような気がする。


 今は怖くて鏡が見られなくなった。

 小さな手鏡で顔を覗くだけ。

 自分の顔の輪郭の外には、何か灰色のものが写っている。

 怖いけど、鏡を見ないわけにはいかない。


 知っている人だろうか。それとも、俺がその人に魅入られてしまったのか・・・。

 最近、亡くなる人が多いから、どちらなのかわからない。


 生きてるだけであなたはラッキーですよ。

 そう言われている気がする。

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