アル中
高校時代、いつも一緒につるんでいる友達が5人いた。
そのうちの1人がヤバイやつだった。
クラスにいる、大人しい男子をいじめていた。
そいつは学校に来なくなって、結局出席日数が足りなくて、中退してしまった。
俺たちは傍観していた。
友達と言っても本当に親しかったわけじゃない。
ただ、寄って来るから、何となく、一緒にいただけだった。
心の底では、怖いと思っていた気がする。
去年、地元に帰ったから、そいつに30年ぶりに会ったら、アル中になっていた。
みんなで飲みに行ったのに、金を持っていなくて、そいつの分も出さないといけなくなった。みんな怒っていた。俺は、そいつが落ちぶれてかわいそうだと思っていた。
今は仕事をしてなくて、昼から飲んでいるということだった。
独身で実家暮らしだとか。親も持て余している状態だと思う。
入院でアル中を直すという方法もあるらしいが、他人だからそんなことは言わない。
人が転落して行くのを見るのは怖い。自分がそうなってしまいそうな気さえする。
俺は普段酒は飲まないし、付き合いで飲むだけなのに。
東京に戻って1月くらい経った頃、そいつから、グループLineに連絡があった。
「今から死にます。生前はありがとう。明日はお通夜になると思うから、空けといてね」
ちょっとびっくりしたけど、誰も連絡しなかった。
そんな軽いノリで言われても・・・という感じだった。
心のどこかで、多分、決行しないと思っていた。
次の日、彼の父親から電話が来た。
「息子が亡くなりました。生前はお世話になりました。遺書があって、お名前があったのでご連絡させていただきました。友達がいない子でしたので・・・。ご迷惑かもしれませんが」
「とんでもない。大変急なことで驚いてます。お通夜はいつでしょうか・・・伺いたいので」
俺は地元まで行く交通費や、会社を早退しなくてはいけないことなどを考えて、できれば行きたくなかった。
「そういうのは一切やりません。火葬して終わりです」
「そうですか・・・」
親も彼の供養方法なんか気にしていないようだった。悲しんでいる様子もない。
しばらく話していたが、彼は会社でトラブルを起こしたり、借金、家庭内暴力など色々あったらしい。
「落ち着いたら墓参りでも・・・」
「いえ・・・共同墓地に埋葬しますので・・・」
あ、墓にも入れてもらえないんだ・・・。
俺はちょっと気の毒になった。
他の友達は。誰も彼のことを心配していなかったらしい。
中には高校時代、同級生をいじめていたから、罰が当たったんだというやつもいた。
俺は時々、彼のことを考えてしまう。
虐める方も心を病んでいるからだ。
中年になって、自殺してしまう人も多いとか。
だけど、故人に同情なんか禁物だ。
亡くなった人にとっては、思い出してもらうことが何よりも供養と言われる。
おかげで彼が俺の所に来てしまった。
夕飯を食べていると、彼が目の前に座っている。
俺が飯を食べていると涎を垂らしながら見ている。
俺は目を合わせないようにする。
すると、俺の顔を覗き込む。
すぐ目の前に彼の顔が浮かんでいる。
俺は飯を食うのを諦める。
そして、彼の代わりにビールを飲む。
うまい、うまいと彼が喜んでいる。
ビールを飲んでいないと、彼は俺の側から離れてくれない。
毎日飲んでいて、量も半端ないから、次第に手が震えて来る。
朝、起きれなくて会社にも行けないようになる。
仕事に行っても、ミスだらけで、周囲から見放される。
彼女も友達も、みな去って行った。
今、俺の傍にいるのは彼だけだ。
酒は俺を裏切らない。
俺ももうそろそろ、グループLineを送る頃かもしれないと思う。
いや・・・やっぱりやめよう。
負の連鎖は断ち切らないと。
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