火事

 俺の実家の跡地は、曽祖父の代に2回も火災に遭っていた。

 もともと大きな屋敷で、西洋風の洋館を建てていたそうだ。残念ながら火事で焼けてしまったとか・・・もったいない。もし、今もあれば、入館料を取って一般公開できただろうに・・・。曾祖父はその豪邸を失って、建て直したけど、さらに火事に遭ったらしい・・・。それで、貧乏になってしまったそうだ。


 昔は今と違って火事が多かったようだ。避雷針は明治5年頃の富岡製糸場が最初らしい・・・。うちの実家にそういうのはなかったのか、なぜ何回も火事になったのかはわからない・・・。昔火事が多かったのは、照明に火を使っていたり、台所からの失火、放火などのせいもあったようだ。


 そんな土地にうちは建っていた。


 母親は、いつか我が家が火事になると思っていたそうだ。

 いつも台所に荒神様の御札が貼ってあった。

 そりゃ、そうだろう・・・鼠が配線を齧っているかもしれないし・・・。うちの実家は鼠に浸食されていた。


 しかも、俺の実家のガスコンロはマッチを擦って火をつけるタイプだった。

 他所の家がどんなコンロを使っているかなんて考えたことがなかったから、それが当たり前だと思っていた。それでも、ガス栓を開けてマッチで火をつけるのが怖かった。だから、俺は自分でコンロに火をつけたことがなかったと思う。


 ガス栓を開けっ放しにしていたら、一酸化炭素中毒になってしまうし、しばらくガス栓を開けた状態で火をつけたら爆発するだろう。現在はマッチで火をつけるのは業務用くらいじゃないだろうか・・・。家庭用のコンロは「調理油過熱防止装置」と 「立ち消え安全装置」がついてないと販売できなかったと思う。

 

 俺は今もマッチで火をつけるのが苦手だ。火が怖い・・・中学くらいまでは、ライターもつけられなかった。タバコを吸わないからいいんだけど、ダサい。俺は暗闇も、火も、高い所も怖い。水だけは平気だけど・・・。


 俺は幼い頃、よく実家が火事になる夢を見ていた。

 心のどこかで火事になるんじゃないか・・・と心配だったからだろう。


 暗闇の中でうちが赤々と燃えている。メラメラと空に火の粉を振り撒きながら・・・。

 そして、鼠が家から一斉に逃げて行くんだ。


 俺はなぜか鼠がいなくなったことにほっとしていた。

 そして、俺は自分の部屋のものも何もかも燃えてしまって、明日は学校休めると思っていた・・・そんな夢を見たことがあった。


 俺の実家は火事にならなかったけど、2軒隣の家が火事になって、全焼してしまった。もともとは、俺の実家の敷地だった所に立っていた家だった。だから、やっぱりその土地は火の神様に取りつかれているのかなと思う。

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