動物園

 先日、動物園に行く機会があった。というか、自ら進んで行って来たのである。


 動物園というのは奇妙な場所だ。オスとメスの生きた標本が飾ってある。


 〇〇サルの群れというのが展示されていたが、十匹くらいの集団で生活すると説明書きがあった。みんな仲良く木の上で走り回っている。


 俺はと聞くと身構えてしまう。俺が集団で生活するのは不可能に近いと思っている。会社などの限られた時間だけ周囲に合わせることはできるが、家に帰ってまで一緒だと精神をやられてしまうに違いない。


 猿の群れでも発達障害がある個体の場合は、周囲から孤立していじめに遭ったりしているのではないかと心配になる。そんな心配をするのは、猿にも発達障害の個体がいるからだ。


 何年も前の話だが、自閉スペクトラム症様個体の自然発生例がニホンザルの中で世界で初めて発見されたという記事を見た。そういう個体には他者の行動に関係する脳細胞がほとんど存在しないらしい。それに、ヒトの自閉スペクトラム症や精神障害と関係する2つの遺伝子に変異(異常)があったとか。


 最近、こういう猿に犬との触れ合いの時間を与えたら、次第に落ち着きを取り戻し、犬と交流できるようになったという動画を見た気がする。しかし、ネットで検索しても出てこないから、勘違いかもしれない。

 俺もこの年まで拗らせているのだから、犬でも飼うしかないような気がして来た。


 動物園に話を戻すと、発達障害の個体と定型発達の個体とが番いになっている場合などは、片方が相手を脅威に感じているということはないのだろうか。定型発達の個体の方が意図せずに孤独な生活を強いられているかもしれない。

 そうでなくても、勝手に配偶者を連れて来られたりしたらたまらない。


 人間の場合、40代の男性と10代の若い女性の番いだったら、女性の方が嫌がるだろうし、40代の女性と10代の男性の組み合わせだったら、男性の方が果たして女性に対して欲情できるだろうか。無人島のように、その人しかいないというならありかもしれないが。絶滅危惧種なら、そういう組み合わせもあるかもしれないとして、そうでなかったら釣り合った相手を選んだ方がいいだろう。


 いつか地球が宇宙人に侵略されて、ニホンザルの隣に「人間アジア人」、「人間アフリカ人」、「人間白人」などと展示される世の中が来たら気持ち悪いなと想像してしまう。


 しかし、過去には人間動物園というのが実際にあったようで、16世紀のルネッサンス期にはバチカンに様々な動物と人種が集められていた。そこには、イスラム教徒の人やアフリカ人、インド人、タタール人というシベリアから東ヨーロッパにかけて居住していた民族が収容されていたらしい。


 18世紀のイギリスの病院では、精神病患者が見世物にされていた。また、初期の動物園には、小人症、アルビノ、脊柱側弯症等の身体障害者もいたそうだ。昔の身体障害者は見世物小屋のスターであり、ブロマイドなどを売って稼いでいたようだ。完全な差別対象であったら、ブロマイドなど誰も買わないだろうから、珍しいということで人気があったのかもしれない。


 2000年代に入ってからも、希望者を募って昼間動物園の猿の厩舎内に人間の展示を作ったり、他の動物園では原住民の建物が展示されたようだ。


 自分の意思で見られたい願望のある人ならいいが、どこかから連れ去られて見世物にされるなんていうことがあったら、それこそ地獄だなと思う。昔見た『猿の惑星』のようだ。人間というのは、どこまでも利己的で一方的な尺度でしか物事を判断しないと感じてしまう。


 猿の惑星のストーリーはあまりよく覚えていないが、猿に支配されているという設定はトラウマだった。


 自分がある朝起きたら動物園の檻の中にいて、知らない相手と夫婦として飼われている光景を想像してしまう。


 全裸で排泄も何もかも外から見られているから、明るい時分は一日中背中を向けて寝ている。俺みたいなのは、ファンサービスゼロの生き物として動物園の厄介者になるだろう。


 もしかして、あの中にそんな動物がいるかもしれない。

 そんな想像しながら、檻の中でじっとしている個体たちを眺めていた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る