神隠し

 最近は不登校の子が多いらしい。

 俺が小学校から中学まで、不登校の人は学校に一人もいなかったと思う。

 学校に行くのが当たり前だったからだ。


 俺は部活の顧問が嫌で逃げ出したかったが、そんなの無理だった。

 だから、殴られても学校に通っていた。

 今だったら行かないと言う選択肢があっただろうか。

 しかし、その選択ができるかどうかは親次第だ。


 下記は、前の会社のパートの人、Aさんから聞いた話だ。

 Aさんには小学生の子供2人がいて、2人とも不登校だったそうだ。

 Aさんはよく仕事を休んでいたので、俺には事情を話していたが、いじめではなく、どちらも神経過敏な性格だったようだ。


 Aさんの子供たちは2人でフリースクールに通っていたが、学校に行かずにどこかに行ってしまうこともあったと聞く。


 うちの会社はパートの人が複数いて、期限がない仕事だったから、休んでもそれほど支障がなかった。だから、子供たちがいなくなると、Aさんが早退して迎えに行くということが何度かあった。


 フリースクールではいじめがあって、子供たちは行きたくないと言っていたらしい。

 いじめっ子も社会不適合者なので、普通の小学校にいづらくなってしまい、フリースクールに通う場合もあるそうだ。こういうのを聞くと、人間関係のいい学校というのはないと思ってしまう。


 Aさんも大変そうだった。

「仕事は気にしなくていいから、家庭を優先していいですよ」俺は言った。

 もう、Aさんが仕事を続けても、やめてもどっちでもよかった。首にするつもりもなかった。


 Aさんの旦那は俺より稼いでいて、働く必要は全然なかったのだが、不登校の子供たちと向き合うのに疲れてしまったのだそうだ。


 2人の姉弟、BちゃんとC君はよく近所の神社に行っていたそうだ。

 公園にいると、幼稚園くらいの子供がいて、そのお母さんに「学校は?」と聞かれるからだそうだ。

 神社は危ない気もするが、そこは昼間神社の人が常駐しているような割と大きなところだった。


 そこで二人はゲームをしたり、携帯をいじったり、漫画を読んだりして遊んでいたそうだ。

 その姿を想像するとちょっとわびしい。

 Aさんが家にいた方がよかったんじゃないかと思う。


 子供たちはそうして神社にいたが、そのままいなくなってしまったそうだ。


 2人の携帯に電話しても電源が切れているので、Aさんは交番に行った。

 夜になっても帰って来ないので、両親は仕事を休んで必死になって探した。


 その神社は夕方5時に社務所を締めるだけで、門などはなく、24時間で入りできるようになっていた。警察も神社の周辺を探したが見つからなかったそうだ。そこは、防犯カメラもついていなかった。賽銭箱は、社務所が開いている時間しかお金を入れられないようになっていたから、神社の人も必要ないと考えていたのだ。


 結局見つからなくて、2日後くらいに、行方不明者として全国に公開されていた。

 予想としては、神社にいるところを、何者かに連れ去られたのではないかと思われていた。

 

 それから、1週間ほどして2人は発見されたそうだ。

 夜遅くに公園で遊んでいたとか。

 どちらも行方不明時と同じ服装だった。

 2人はそれまでどこにいたか記憶がないそうだ。そして、その公園に行ったのも覚えていなくて、気が付いたら公園のベンチに寝ていたのだという。「自分たちがどこの公園にいるかわからなかったが、とりあえず遊んでいた」と、言っていたらしい。

 

 しかし、行方不明だった期間はどこかで食事を取っていたらしく、元気だったそうだ。


『神隠し』と言われたケースで、戻って来られた人はほぼ家出か、犯罪がらみのことが多い。


 恐らく、誰かに連れ去られていたが、犯人がテレビで全国ネットで2人が捜索されているを知って怖くなり、公園に置き去りにしたのだろう。

 しかし、子供たちがその犯人をかばっているようだ。


 Aさんはそのまま仕事をやめたから、子供たちがどうなったかは知らない。

 これは俺の想像だが、Aさんが精神的に荒れていて、子供たちがしんどくなって家出したのではないかと思っている。

 

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