42度

 さっき、夏休みで家にいる子どもからLineが来た。我が家の3階が42度もあるそうだ。うちは一戸建てなのだが、3階は特に日当たりがいい。

「やばいよ。42度もある」

「大丈夫?エアコン付けてる?」

「ベッドの部屋はつけてないよ。僕の部屋はつけてるけど」

「去年まで最高でも36度だったのに、いきなり6度も上がったのか・・・やっぱり地球温暖化だね」

 俺は、もうそろそろ地球も終わりなんじゃないかと不安になる。

 南極の氷はどんどん解けて、過去最高気温を記録している。南極の氷が全部溶けると、世界の海面は60メートルも上昇するそうだ。最も地球温暖化が進んだ場合のシュミレーションでは2100年に海面は約84cm上昇するとか・・・。南極の氷が解けて海面が見えてしまうと、氷で太陽の熱が反射されなくなるから、ダイレクトに海水が温まってしまう。それでますます氷が溶けやすくなる。俺は軽くパニックになる。


 いや、待てよ。息子は今家にいるわけない。彼は今日は別れた奥さんの所に行っているはずだ。さっきのLineは誰から来たんだろうか・・・。


「今日はママの所にいるんじゃないの?」

 俺は息子にLineを送った。

「ママがうちに来てるんだよ」

「え?何のために?」俺はぎょっとする。元妻はメンヘラで、我が家には出入り禁止にしているのに・・・。

「それで、ベッドの部屋で睡眠薬を飲んで寝てるよ」

「え!すぐ起こせよ!」

「全然、起きないよ」

「やばいよ熱中症になってない?」

「今、熱測ったら42度あるよ」  

 人間は体温が42度になると死んでしまうと何かで読んだことがあった。

「それ、やばいって!すぐ救急車呼ぶから!」

 俺は叫んで電話を切ると、すぐに119番に電話した。

 息子から何度か電話があったけど、出られなかった。


 俺は仕事を早退して、急いで家に帰ったら、息子が一人で家にいた。

 玄関にはいつもと同じように息子の靴しかない。

 インターホンを鳴らすと息子が3階から降りて来た。


「あれ、嘘なんだ。ごめんね。ママは来なかったよ」

 息子はポツリと言った。

 あ、そっか。寂しかったんだ。俺は怒る気になれなかった。

 

 

 

 


  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る