セフレ(エロ)

 俺が20代の頃。Aさんというイケメンサラリーマンがいた。大企業勤務。

 誠実な人柄で、俺みたいに二股をかけたりなんかしない、女性から見たら理想的な恋人。彼には大学から付き合った彼女がいたけど、性格が合わなくて別れたらしい。

 性格が合わないっていう意味が俺にはわからないから、掘り下げて聞いてみた。

「金遣いが荒くて、外食した時に店員さんとかにクレームを入れたりするのがちょっと嫌だったんだよね・・・それに、俺にもメールの返信が遅いって文句言ってくるし」

「ああ、そりゃ嫌だよね。別れたくなるのもわかるよ」


 Aさんはすぐに、職場で知り合った子と付き合い始めた。新しい彼女は、すごく性格が良くて、お金の管理もちゃんとできて、誰にでも優しい子だったらしい。俺もその子の方に魅力を感じてしまう。


 でも、元カノはAさんのことが忘れられなくて、毎週、連絡してくるということだった。4年も付き合ったから結婚するつもりだったし、別れるなんて想像もしていなかった。アナウンサーになれそうなくらい、ものすごくきれいな人だった。

 でも、周りの人はみんな彼女がいるし、Aさんを超える人がいなかったみたいだ。Aさんはちゃんとした人だから「俺、もう新しい彼女できたから。君も別な人探しなよ」と言ったそうだ。


 元カノはそれでも彼を忘れられない。Aさんを尾行して、今カノがどんな子か見てみることにした。見てみたら、顔はかわいいけど小柄でちんちくりんだった。身長180くらいある、スマートでイケメンの彼には合わないと元カノは思った。


 翌日彼女は元カレに電話を掛けた。

「彼女見たけど、どこがいいの?」

「え、わざわざ見に来たの?どうやって知ったの?」

「知り合いがいて・・・」

「えぇ・・・怖いよ」

 Aさんは気味悪がった。

「どこがよかったか教えて」

「性格がいいし、かわいい。料理もうまいし・・・」

「私も性格いいし、きれいだし、料理もうまいよ」

「だけど・・・君とは別れただろう?何で現実を受け入れられないの?」

「Aの彼女はもっときれいな人じゃなかったら、私納得いかない」

「いいじゃん、別に。君はきれいなんだから、俺よりもっとすごいのと付き合えばいいだろ?もっと金持ちで、イケメンの男と」

「じゃあ、紹介して」元カノはやけになってそう言った。

 

 で、白羽の矢が当たったのが俺だった。俺しかフリーの男がいなかったからだ。


 俺たちはAさんを介さないで会った。Aさんがもう元カノ(B子)と顔を合せたくないからだとか。Aさんは取り合えず男を紹介しないといけないし、それに俺が乗っかった。普通は元カノを紹介するなんて言われたら、ちょっと引くだろうけど、俺はそれまで付き合ったことないくらいの超美人が、普段どんな風か知りたかった。


 Aさんはすごい美人で、出るとこが出てて、スタイル抜群。しかも、気が強くて、プライドが高い。

「私、Aのことが忘れられないの」飯を食っている時に、俺にそう言った。

 俺はただ、「あ、そう」と言っただけだった。

「江田君も、忘れられない人っていない?」

「いないよ。何でA君がそんなにいいわけ?」

「紳士的でスマートで、大人なところ」

「ふうん。でも、君は釣り合ってないわけだ」

「そんなことないよ」

「だって、ふられたんだろ?」

「私のことまだ忘れられないと思う」

「いや・・・そうじゃなくて、君がまだA君を忘れてないだけだよ」

「私のことまだ好きだって言ってない?」

「全然。新しい彼女が好きだって」

「そんなことないよ。きっと私の方が好きだもん」

「まあ、いいや。もしそうなら、今カノと別れたら連絡来るかもね。待ってみたら?」

「うん。何年でも待つ」

「じゃあ、それまではもっといい女になれるように自分を磨きなよ」

「うん。絶対後悔させてやるんだから」

「なら、まず、肘ついて酒飲むのやめなよ。それに、酒飲み過ぎじゃない?女なんだから、ちょっとは飲めないふりしろよ」

 彼女は自分の酒の飲み方を否定されて、落ち込んでしまった。初めて男に振られたこともあり、自信を失っていたからだ。


 俺はいい具合にセフレにできると思って、会ったその日にB子をホテルに連れて行った。俺は彼女が何をしてもけなす。絶対に褒めない。彼女はどんどん自分に自信がなくなっていく。


「もっと研究しなよ。AV女優にでもなったつもりで、いやらしい感じでやってみてよ」

「え、見たことない」

「だからダメなんだよ」

「でも、借りに行くの恥ずかしい」

 昔はAVはレンタルビデオ店に借りに行くか、買わないと見れなかった。

 だから、見たことがないと言うのも嘘ではないと思う。本当に下手だった。

「恥ずかしくないよ。それを乗り越えないと。俺が一緒に行ってやるよ」

 

 外見もけなす。「意外と胸ないね。服着てる時は寄せてあげてるんだ。痩せすぎだよ」

「でも、太ると足も太くなるから」

「俺はもう少し、丸みがあった方がいいなぁ・・・あと、男受け狙ったような服もやめなよ。馬鹿に見えるよ。それに、足がきれいに見えるようにハイヒール履いて。俺と同じくらいになってもいいから。あと、化粧も変えて来て」

「はい・・・」

 次の朝、彼女のすっぴんを見た。

「化粧落とすと案外普通だね」

「そう?」

「うん。別にいいよ。俺、ブスも好きだから」彼女は私ってブスだったんだと思う。


「君、ちゃんと貯金してる?ブランド物のカバンなんか持ってるけど。金銭感覚おかしいんじゃないの?」

「実家だから、一応してるよ。結婚もしたいし」

「君みたいな金遣いの荒い女が結婚なんかできるわけないよ。ブランド物なんか持ってる時点でアウトだよ。次に俺に会うときは持ってくるなよ」

「はい・・・」

「君は実家暮らし?」

「うん」

「じゃあ、料理とか下手だろ?」

「はい」

「今度俺の家で何か作ってよ。あと、掃除もやって」

「はい」


 俺はそうやってB子を庶民的な女に仕立てた。前みたいな華やかさはなくなって、お嫁さんにしたい感じになった。俺に口答えはしないし、尽くしてくれるし、言いなりだった。セックスの時は恥ずかしがることを毎回させた。


 俺は絶対彼女をほめない。そうすれば、彼女はどうしたら俺に褒められるか考えるようになる。そして、ますます俺のことが気になって、生活が俺一色になる。俺はだんだん彼女が好きになるけど、そんなことは言わない。好きだなんて言うと女がつけあがるからだ。


 Aさんに会った時、B子のことを聞かれた。俺は空気読めない男だから「調子に乗ってるから、ブスだとか胸ないって言ってさんざんけなしてたら、すっかり大人しくなったよ」と言ってやった。そしたら、Aさんは怒っていた。俺は彼に無視されるようになった。


 AさんはB子のことが気になって、よりを戻したらしい。


 B子から電話がかかって来た。

「Aが結婚しようって言うんだけど」

「あそう。すれば?」

「止めないの?」

「うん」

「私のことどう思ってる?」

「好きだよ」

「ずるい。江田君、結婚してくれない?」

「まだ無理・・・」


 今思うと、B子は俺の彼女だったんだろうか。多分、3ヶ月くらいだった。


 AVを見せて、積極的に動けるようになったB子を見てAさんはどう思ってるだろうか。浮気したことを、きっと後悔してるだろうと思う。Aさんはもう口をきいてくれなくなってしまった。


 AさんとB子は結婚した。俺は結婚式に呼ばれなかった。

 俺はB子と結婚すればよかったなと思う。

 B子も同じことを言っている。25年前は、Aさんに勝てる自信がなかった。

 B子は今ではおばさん。Aさんもおじさん。2人は子どもが3人。

 

 俺はAさんに何も適わない。

 でも、B子は今でも旦那より俺の方が好きだと言っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る