埋葬(おススメ度☆)

 意外に思うかもしれないが、日本では未だに土葬が行われている。2017年の日本での火葬率は99.97%だったそうで、ほとんどの人は火葬にされている。この割合は世界一だそうだ。

 

 1960年には火葬率が63%しかないので、それ以外の人は土葬だったのだろう。

 俺はこれまで墓地を見ても全然怖くなかったが、わりと最近まで土葬だったと思うと、夜近くを通るのが少し怖くなってくる。


 現在のようにほとんどの亡骸が火葬されている中で、いまだに土葬を行うとしたら、一番最初に思いつく理由は、宗教上の理由で火葬がタブーな人たちだ。

 例えば、キリスト教では死後復活すると考えられているので、体を燃やしてしまうと復活できないとされているからだ。

 しかし、今はバチカンでも火葬が認められているそうなので、土葬のされる人のほとんどがイスラム教の人々だ。


 みんなは、土葬が一番多い県はどこかわかるだろうか。

 俺は沖縄などかと思っていた。

 

 答えは神奈川県だった。

 理由は、死産になったお子さんを、という両親が多いのだそうだ。

 火葬してしまうと遺灰がほとんど残らないからだ。

 こういう話を聞くと切ない。


 これは人から聞いた話だ。

 土葬でも火葬でもない方法で我が子を葬ったという話だ。 


 ある若い夫婦に初めての子供ができた。

 2人は生まれてくる子供のために、わざわざ家を買って引越した。

 2階に赤ちゃんの部屋を作って、子供が喜ぶように壁を飾った。

 洋服やおもちゃも揃えた。

 すでに、性別がわかっていたから、2人で名前を考えたりして、産まれて来る日を今か今かと待っていた。


 しかし、人生は時として無常なもので、そろそろ予定日という頃になって、お母さんのおなかの中で突然赤ちゃんの心臓が止まってしまったそうだ。


 夫婦は病院から赤ちゃんの亡骸を引き取った。

 産婦科では他の赤ちゃんは生きているが、その夫婦の子供だけは息をしていなかった。

 お母さんは、その子供をおくるみに包んで車で家に帰った。

 

 夫婦はまず我が子を赤ちゃんの部屋に連れて行った。

 それまでは、どちらも泣き崩れていたが、2人は気持ちを立て直して、赤ちゃんに話しかけた。

 お腹の中で生きている時は、いつもそうしていたからだ。

 すると、2人はその子がまだそこにいると思ったそうだ。

 赤ちゃんが笑った気がした。

 安らかに寝息を立てているようだった。


 2人はどちらも赤ちゃんを埋葬する気にはなれなかった。


 そして、悩んだ結果、赤ちゃんをホルマリン漬けにしたそうだ。


 赤ちゃんは名前も付けてもらって、今でも準備してもらった部屋で大切に保管されているということだ。

 

 夫婦はきちんと役所に死産届けを出し、埋葬許可証をもらった。

 しかし、埋葬しなかったということだった。


 これは俺が生まれる前の話だからもう時効だと思う。


 

 *この小説はフィクションです。

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