桜(おススメ度★)
今日は今年最後の花見にやって来た。
ソメイヨシノはもう8割くらい散ってしまってる。
人通りもまばらだ。
鳥が桜の花の蜜を吸うために、枝から枝に飛び移っている。あちこちから鳥のさえずりがする。
清々しい土曜の午前中。
桜のトンネルの両側にベンチが配置してある。
早く来ないと、ベンチは埋まってしまう。
今朝はその一つを占領して、のんびり腰かける俺。
不審者と思われてる可能性大。
時々、人が通る。
花の写真を撮る人、デート、散歩、ジョギング、家族連れ。
2個斜め向かいのベンチにおばさんが1人で座ってる。
こういう所には、女性は大体誰かと一緒に来ることが多いと思う。
おっさんなら、カメラ持って1人という人は普通にいるけど。
介護の合間に一息ついてるとか、旦那さんに死に別れたとか、勝手に想像してしまう。
むこうも、斜めのベンチに不審な男が座ってると思っていることだろう。
声をかけるとナンパだと思われるのでやめとく。
おばさんは黒いタートルネックに、緑の花柄のスカート。
黒い帽子をかぶって、色つきのメガネをかけてる。
おばさん、いつ帰るんだろう。
もう3時間も座ってる。
帰るとこがないんだろうか。
俺は本を読んだり、携帯いじったりして時間を過ごしてるけど、おばさんは微動だにせず、ただ座ってる。
よし、おばさんが帰るまでいよう。と思ったらいつまでも帰らない。
俺がトイレ行って戻ってもずっといる。
日が暮れてきた。
あ、もしかしたら、痴ほう症の人じゃないか。
俺の母親もボケたんで心得はある。
何で気がつかなかったんだろう。
思い切っておばさんに話かけよう。
急いで荷物をまとめて立ち上がると、もうおばさんはいなかった。
え?まさか、と思った。
そんな短時間で走ってどこかに行けるわけない。
でも、一瞬で消えてしまった。
そういえば、あのおばさん、母親の若い頃に似てた。
きっとお母さんだ。
俺は荷物なんか放っておいて、声を掛ければよかったと思った。
花見一緒に行ってやらなくてごめん。
俺は泣いた。
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