ネズミ

 俺の実家は昭和50年代で築40年近かった。俺はずっと家が怖かった。自分の家だけど、いつも落ち着かなかった。ネズミが床下を走り回って、いつもカリカリやっていたからかもしれない。屋根裏の床にはネズミの糞が落ちていて、尿臭く、木の屑がパラパラとあった。ネズミっていうのは一生歯が伸び続けるから、常に固い物を噛んでいないといけないらしい。そうやって固い物を齧っていると、上下の歯を使うことによって、削れて伸びすぎるということがないそうだ。だから、何で柱なんか齧るんだろうと思っていたが、やつらは手あたり次第、固い物を齧ってしまうのだ・・・。


 部屋にはあまり入って来なかった気がするが、台所には降りて来ていたらしい・・・時々、食品が齧られていた。棚なんかにも入る可能性があるから、食器を使う時は必ず洗ってから使うようにと言われていた。


 父親は家中に鼠取りを仕掛けていた。金網でできた鼠の捕獲機で、昔はそういうのが金物屋の天井にいくつもぶら下がっていた気がする。針金に餌をつけておいて、針金が引っ張られると入り口が閉まるようになっている。今でも買えるそうだ。


 朝起きて、ネズミがかかっている姿は衝撃的だった。チューチューと鳴いて暴れまわっている。その後も姿が一日頭から離れないほどだった。父は良心の呵責なく、鼠捕りごと水に沈めて殺していたものだった。生きている物を殺すのはかわいそうで、俺にはできなかったが、ネズミを飼っておくわけにはいかなかったから仕方がない。


 ネズミは大腸菌やダニ、寄生虫を持っているし、病原菌入りの糞はするし、ネズミ自体が家の中を走り回っているんだから最悪だ。ペストなども感染したら死んでしまう可能性もある。


 俺はそんな環境で高校まで生活して、取り敢えず病気にはならなかった・・・。

 うちだけに限らず、昔はそんな生活が普通だったんだろうと思う。

 でも、家にいるのは落ち着かなかった。常にストレスにさらされている感じ。

 寝ていても鼠がすぐそこにいるのがわかるんだから・・・。


 鼠がいる家なんてあり得ないと思うかもしれないが、最近は商業地だけでなく、住宅地まで鼠が生息エリアを拡大しているらしい。高齢者の世帯などは、手入れが行き届かなくて、深刻な状態になってしまうこともあるとか。


 幼い頃から鼠のいる暮らしだったから何とか我慢できたけど、今は無理だ。

 今も時々、床下や天井裏でカリカリやっている音や、捕獲機に入った鼠の姿を思い出してしまう。鼻をヒクヒクさせて、恨めしそうにこっちを見ている。死を間近に控えた鼠の姿が。

 もう30年以上前のことなのに、そういうトラウマは一生消えないものなんだろう・・・。

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