三角関係
三角関係というと、クラスの人気者を友達同士で争うなど、少女漫画ばりのライトなものを思い浮かべる。
しかし、その三角形を構成している面子によっては、殺し合いになるような極端なケースもあるだろう。
下記は取引先の社長(Aさん)の話だ。
本人から聞いたわけではない。
社長などの金持ちは、大体愛人がいる。というのは、昭和生まれの思い込みかもしれない。とにかくAさんは古いタイプの社長だった。年齢は60くらいだったと思う。社長業というのは、サラリーマンと違って明確な引退時期がない。
だから、ずっと金と時間がある。
会社の経費で交際費と称してキャバクラ、クラブ、スナックなどに行ける。
風俗店でも飲食店名義で領収書を出してくれるし、出会いには事欠かない。
Aさんは妻子がいたが、子供たちはすでに30代でそれぞれが独立していた。
長男はAさんの跡を継いでいなかった。
あまりに優秀な息子で、中小企業の社長になるのはもったいないような人だったからだ。
長女は結婚して遠くに住んでいたようだ。
Aさんは結婚したい女ができて、奥さんに離婚を迫った。
奥さんも同世代だから、今更一人になっても困ると思い、承諾しなかった。
すると、Aさんは恋人Bさんを家に連れて来て住まわせることにしたのだ。
そして、世間には奥さんとして紹介した。
本妻のことを世間には「おばあさん」と言っていたそうだ。
この段階で、Aさん、Bさんは人でなしと呼ばれても仕方ない人たちである。
夫婦は結婚して35年くらい経っているから、本妻のことを知っている人は多かったが、本妻は専業主婦で、会社の経理を手伝ったりなどはしていなかったから、会社の従業員たちは奥さんにほとんど会ったことがなかった。
だから、従業員たちは「きっと離婚して、若い奥さんと再婚したんだ」と思っていた。人事の人だけは本妻が役員になったままなので、あの一家には何かあると気が付いていたが、個人情報なので部署だけの秘密にしていた。
下記は、俺がA社の従業員から聞いた話を元にした、一部は本当で一部は推測の話だ。
Aさんの自宅は豪邸だったが、二世帯住宅ではなかった。
普通の家で同居しているのだから、60くらいの本妻と、30代の愛人が同じ台所、風呂、トイレを使わなくてはいけない状況だった。女たち2人はさすがに仲良くはできないが、穏便に暮らしていたようだった。
Aさんは夜寝る時は愛人と一緒。出かける時も、出張の時もB子さんだけを連れて行った。
本妻はその家にいないかのように扱われていた。
そのうち、愛人に子供ができた。
これも計画的だった。
愛人は里帰り出産して、1ヶ月ほど経ってから、赤ちゃんを連れてAさん宅に戻って来た。
本妻は赤ちゃんをかわいいと思ったのか、進んで世話をしてやった。
本当のお祖母ちゃんのようだった。
3人の関係は嘘のように改善して、まるで家族のようになっていた。
Aさんと愛人は、赤ん坊のいる生活に飽きて、旅行に行きたくなった。
それで、本妻に子供を預けて2人で出かけた。
普通ならここで何か起きると思うだろう。
本妻は子供を殺してやりたかったが、どうしてもできなくて、赤ん坊を捨てに行った。新幹線に乗って、できるだけ遠くまで移動した。
そして、ネットで見つけた乳児院の前に赤ちゃんを置いた。
本妻は赤ちゃんに危害を加えるつもりはなかったので、すぐに公衆電話から匿名の電話をかけた。
「今、玄関に置きました・・・」と。
奥さんはそのまま行方不明になった。
旅行から戻ったAさんたちは、子供がいないことに気が付いてすぐに警察に連絡した。
乳児院に置き去りにされた子は、すぐに身元がわかってAさんの元に戻された。
そして、本妻は誘拐で逮捕された。
本妻は不起訴になったと思う。
夫婦はほどなくして離婚した。
この話の結末に救いがあるとしたら、本妻が長男の元に引き取られたことだろう。
今は長男一家と一緒に暮らしているそうだ。
Aさんは本妻の子供たちから縁を切られてしまったが、愛人と再婚し、さらに子供が2人生まれて幸せにくらしているそうだ。会社もまだある。
どこかで天罰が下ればいいと俺は思っている。
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