うたた寝

 俺は基本電車の中では寝ない。

 乗り過ごしてしまうからだ。

 行き過ぎた所から、Uターンして戻って来る時間ほどもったいないものはないと思う。


 先日、電車に乗っていたら、隣の人が俺の肩に頭を乗せて来た。

 うたた寝してしまったようだったが、ちょっと起こしづらい。

 たまたま、女子高生だった。 

 どこの学校かは知らない。

 俺はドキドキする。

 

 げ、スカート短い。

 ちょっと足開いちゃってるし。

 向かいの人から見えてるかも。

 いや、何か履いてるだろう・・・。


 俺はかわいそうだから、女の子が起きるまで黙っていようかなと思った。

 女子高生に肩を貸すことなんて二度とないだろう、という下心もあったかもしれない。俺も眠くなってきたから、うとうとしていると、二人で終点まで行ってしまった。


 外は真っ暗だった。

 一回も起きないなんておかしいと思った。


「あの・・・終点ですよ」


 俺は初めて声を掛けた。


「すいません・・・」

 JKは恥ずかしそうに言った。でも、電車を降りようとしない。

 がらがらの電車なのに、俺から離れて座ったりもしなかった。


 なんだこの展開は。

 

 電車はまた折り返して、元来た方角に戻るはずだ。

 夜に都心に出る人は少ないから、電車は空いていた。


「降りなくて大丈夫?」

 俺はすぐため口をきいてしまう。

「はい。乗り過ごしちゃって」

「あ、そうなんだ。どの辺?」

「〇〇です」

「俺も大体そのへん。親が心配してるんじゃない?」

 これから戻るのに1時間くらいかかってしまう。

「いやぁ・・・」

 その子は口ごもった。

「うちの親は、私なんていなくていいと思ってるから」

 JKは恨むような口ぶりで言った。

 あ、俺も高校くらいの頃はそう思ってた。だから、正直にそう言った。

「今は?」

「親はどちらも死んじゃったから・・・親はそのうち死んじゃうから、親の評価なんて気にしない方がいいんじゃない?」

「どういう意味ですか?」

「君ももう高校生だから、もうすぐ親元離れることができるだろ?そしたら、君のことをもっと高く買ってくれる人と一緒にいればいいんじゃない?」

 JKは頷いた。

「私のこといくらで買ってくれますか?」

「は?」

 まずい展開になって来た。

 『高く買う』という言葉の意味が伝わらなかったようだ。

 かわいいのに残念な感じがした。

「0円かな。というかマイナス」

 俺は笑った。

「君といるのを知り合いに見られたら、俺が金払って付き合ってもらってると思われるだろう」

「私ってそんなに魅力ないですか?」

「いやぁ。おじさんと女子高生の組み合わせはまずいよ。同年代の子なら君をかわいいと思うだろうけど。君がいくらかわいくても、俺にとっては全然意味がない。あと2年くらいたって女子大生かOLになったら別だけど」

 JKは俺を面倒くさいだと思ったらしい。何も言わなかった。

 俺がまんまとその手に乗って、ホテルにでも行ったらそこで美人局が出て来て脅されるパターンだろう。

 裏をかいてやったのだ。


「私・・・家に帰りたくなくて」

「あ、そう。でも、俺が君を家に連れて帰ったら、誘拐罪になってしまうかもしれないから。ごめん」

 女の子は泣き始めた。

「なんで家に帰りたくないの?」

「親が暴力振るうんで・・・」

「え?お父さん?」

「パパもママも」

「警察行こう。児童相談所が保護してくれるよ」

「それは駄目」

「どうして?」


 俺はその子が嘘をついていると思った。


「殺される」

「そんなことないって。あっちが警察に捕まるだけだよ。一緒に行ってあげるから。飯食って、交番行こう。家から離れてるからちょうどいいじゃん」

 JKはなぜか渋っていた。俺は「行った方がいいよ」としつこく説得した。

 その子は嫌になったのか立ち上がった。


 すると俺はと首が落ちて目が覚めた。

「ちょっと、ちょっと」

 20代くらいの男の声がして、誰かが俺の肩を揺すっていた。

「かわいそうだから、人の肩に頭のせるのやめてあげたら?」

 俺は隣を見ると女子高生が俯いて座っていた。

「あ、すいません」

 俺はどうやら女子高生の肩に頭を乗せていたらしい。

 気持ち悪い中年男が、肩に頭を乗せて来るから、その子はずっと嫌がっていたらしい・・・というのが雰囲気で分かった。


「大丈夫?乗り過ごしちゃったんじゃない?」

 若い男はJKにいいところを見せようとして、親切なふりをしている。

「はい」

「どの辺?」

「〇〇です」

「じゃあ、送って行くよ」

 まさかのカップル誕生か。

「いえ・・・いいです」

 JKは男と目を合わせないで電車を降りた。

 俺もそう言えば折り返さないといけないんだ。

 慌ててその駅で降りた。


「さっきはごめんね。ちょっと疲れてて」

 俺はその子に一応謝った。


「いいんです。私、家帰りたくなくて・・・」

「え?」

「私のこと、いくらで買ってもらえますか?」

 俺は足がすくんだ。

 俺たちはそこから2人で、無限ループに落ちていきそうだった。


「お金を払うと児童買春になっちゃうから、俺の彼女になれば?」


 俺は前向きな提案をした。


 JKは馬鹿にしたような顔をして、俺から離れて行った。

 そして、さっき電車で声を掛けていた若い男について行った。 

 

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