ファンレター

 俺は学生の頃、ファンレターを何度か出したことがある。

 でも、一度も返事をもらえなかったと思う。

 ファンレターを出した後の数か月は、毎日ポストを確認して、今日は来るんじゃないかとそわそわして待っていた。


 これは結構前の話だ。

 俺が電車に乗っていたら、向かいの席にイケメン2人が座っていた。

 イケメンと言っても、普通よりちょっと小ぎれいな感じという程度だ。

 でも、スタイルがよくて、服のセンスがいい。

 どっちも紙袋を持っていて、1人の方がその紙袋から手紙を取り出して読んでいた。

 ちらっと見えたけど、写真の切り抜きとかが貼ってあった。


 あ、この人たちはアイドルで、出待ちしていたファンの子にファンレターをもらったんだと思った。

 2人が乗って来た駅もあれだし・・・と見当が付いた。

 多分、まだバックダンサーとかそういう感じなんだろう。


 2人は同じ駅で降りたので、俺はそのあとをついて行った。


 1人が途中で、持っていた紙袋を無造作にゴミ箱に捨てた。

 俺は驚いた。

 せっかくの好意を無にするなんて。

 何て酷いやつだと、俺は憤った。

 俺はその紙袋を拾った。


 その男たちは、そのまま颯爽と歩き去って行った。

 変装もしてないし、眼鏡もかけてない。

 ファンに見つかっても騒がれるほど有名じゃないんだろう。

 どんな所に住んでいるか気になるが、それより手紙を読んでみたかった。


 俺はワクワクしながら、家に持って帰った。


 手紙には「今日は〇〇君の応援のために鳥取から来ました。この間、〇〇〇〇(歌番組)に出てるのも見たけど、すごくダンスが上手くなっていて、一生懸命頑張って練習したんだろうなと思って胸が熱くなりました」と書いてあった。

 ありきたりで胸を打つ感じはなかった。


 別のには「私は今入院してますが、いつも〇〇君の出てるDVDを見て励まされてます」と書いてあった。今日は病院を一時退院してきたのかな。これは返事書いてあげなよ。と、俺は思った。


 俺はその子の住所にアイドルの子のふりをして、手紙を送ってあげようかとも思った。

 そしたら、きっと喜ぶだろう。

 しかし、それだと女の子を騙していることになる・・・。


 ネットで調べたら、確かに〇〇〇〇というアイドルが某事務所にいることがわかった。

 俺はそいつの事務所に電話をかけた。昨日「駅で〇〇〇〇君を見かけたんですが、ファンの子からもらったファンレターをゴミ箱に捨てて行きました。可哀そうなんで、返事を出してもらえませんか?特に病気の子の方には絶対」


「申し訳ありません」

 電話に出た人は謝った。

「返事、書かなかったらファンレターをゴミ箱に捨ててるってネットに書き込みますよ」


 俺はその紙袋を事務所に送り返した。

 

 それから数日後、俺はまた事務所に電話した

「手紙に返事出してくれましたか?」

「はい。本人が出したと言ってました。本人も他のゴミと間違って捨ててしまったと反省してますので。」

「いえ、紙袋だけを捨てて行きましたよ」

 俺はむかついて言い返した。

「はあ。申し訳ございません。まだ若い子なので・・・これからきちんと教育していきたいと思います。この度はありがとうございました」


 俺は女の子がちゃんと返事をもらっているか心配になって、病院にお見舞いに行った。

 事務所の人のふりをして・・・。

 花を持って行ったら、喜んで泣いていた。

 あの後、本人から返事が届いていたそうだ。

 

 病室にも手紙を持って来ていて、見せてもらった。


 よかったね。

 俺はその子を幸せにできて嬉しかった。


 その子とは今も交流が続いている。

 その男だって、太いファンを一人増やせたんだからいいだろう。


 そいつは、今ではみんなが知ってるくらい超有名になっている。


 *この話はフィクションです。



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