紅白饅頭
子育てに正解はないと言われけど、本当にそうだと思う。僕の親は何も言わなかった。勉強しろと言われたことがない。俺は親から何かを習った覚えはない。ネグレクトまでいかないが、完全な放置状態だった気がする。
今は子どもに手を掛け過ぎているんじゃないかという気がしないでもない。少子化で一人っ子や二人兄弟ばかりだ。こんなことを独身の俺が書いても、説得力がないだろうけど、子どもは放って置いても育つもんだ。
でも、完全な放置はダメだ。だから、その線引きが難しい。
僕が通っていた学校に、親がネグレクトしてる子がいた。服は汚れていて、ちょっと臭いし、学校は遅刻して来るし、宿題はやって来ない。家が貧乏らしく、服は全部お下がりでださい。弟もいたけど、そっちも薄汚れた感じだった。
可哀そうだけど虐めに遭っていた。今思うと気の毒だけど、その当時はそれがわからなかった。みんなで汚いと言ってはやし立てていた。授業で当てられて、何か答えるとみんなで笑ったりしていた。
その子はそのうち学校に来なくなった。弟も同じ頃から見かけなくなった。みんな事件が起きたみたいで大喜びしていた。その頃は不登校の人なんていなかったから、珍しくて、家まで見に行ったりしていた。放課後に友達何人かでランドセルを背負って行ったら、家の中から子どもの笑い声が聞こえて来た。
「家で遊んでるんだ!」
「ずるい!」友達は口々に言った。
「僕だって学校行きたくて言ってるんじゃないのに!」
「家でテレビ見てた方が楽だよね」
ますます、その子たちは嫌われるようになった。もし、学校に来たっていたたまれないくらいだろうと思う。彼はまったく学校には来なかった。
みんなで、「〇〇君は死にました」と言って笑っていた。
ある朝、先生が「〇〇君は転校することになりました。全員に紅白饅頭を持って来てくれたから、家に持って帰って食べるように」と言った。
俺はあまりお饅頭が好きじゃなかった。外側が小麦のようなふかふかの生地で、中には餡子がいっぱい入っている。今はあまり聞かないけど、小学生の頃は何かあると紅白の大きな饅頭が配られた。運動会でももらったような気がする。
みんな「いらねー」、「毒入りだ」、「食中毒起こす」と言っていたが、先生が無理やり持って帰らせた。
***
家に帰って、僕がキッチンのテーブルに置いておくと、おばあちゃんが来たからあげた。お祖母ちゃんは和菓子が好きだった。
8等分して、お皿に乗せて食べたら、しばらくして苦しみだして倒れてしまった。救急車を呼んだらいっぱいですぐに向かえないから、車かタクシーで大きな病院に行ってくださいと言われた。お母さんがお祖母ちゃんを抱えて車に乗ろうとしたけど、重くて持ち上がらなかった。すごく時間がかかってしまった。隣の人を呼んで一緒に車に運んでもらって、降ろす時も手伝いますよと言ってくれたから、一緒に病院に行ってもらった。
でも、お祖母ちゃんはその夜に死んでしまった。
こういうのは、うちだけだと思っていた。
でも、その夜、クラスの半分が死んでしまったんだ。
この中には、〇〇君も入っている。
彼らは同じ夜に無理心中したからだ。
被疑者死亡のまま不起訴っていうのかな。
紅白饅頭を見ると、その日のことを思い出す。
結局、僕があげたから、お祖母ちゃんは死んじゃったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます