フィアンセ

*別の作品にしていましたが、短いため、こちらに再編しました。


 敏子と初めて出会ったのは、幼稚園の年少の時だった。


 彼女は俺にとって運命の人だった。


 俺たちは将来を誓いあった。


「A君と結婚する」敏子は挨拶のように、毎日、そう言っていた。


「いいよ!結婚しよう」俺も彼女と結婚したかった。


「じゃあ、私はA君のお嫁さんだね」


 俺たちは誓いのキスをした。俺たちどちらにとってもファーストキスだった。




 彼女の家はボロいアパートの2階だった。


 高齢者と生活保護の人が多い木造アパート。


 でも、小学校に上がる時に、引越していった。


 念願のマイホームを買ったからだ。


 俺たちは住所を交換していたから、毎年年賀状を交換していた。


 印刷だけでコメントはなかった。


 それが、中学に上がる時にぷっつりと途絶えた。




 俺は心配だったから、敏子に会いに行った。セーラー服を着てて、背がすらっと高い。巨乳だけど、清楚な雰囲気の美人だった。俺は友達0のオタク。完璧に陰キャだ。敏子は俺のことを覚えてなかったけど、幼稚園で一緒だったAだというと、喜んでくれた。




「結婚の約束、今でもいきてる?」俺は今更だけど確認した。


「あれは子どもの頃だったし・・・」


「俺は今でも本気にしてるから」




 敏子は微妙な笑みを見せた。私も。という意味だと俺は受け取った。




「電話して」




 でも、かかって来なかった。


 俺の思いを綴った手紙を書いたけど、返事が来なかった。


 俺は手紙を送り続けた。


 彼女からは返事はなかった。




「君と暮らしたら使えるように皿を買ったよ」


「君との結婚に備えて、貯金を始めたよ」


「貯金が100万貯まったよ」


「君と結婚するために、酒とたばこをやめたよ」


「君と住むために、ミルク(猫)を殺したよ。これからは匂いもアレルギーの心配はないよ」


「君と住むために、姉と弟を始末したよ。だから、親せきづきあいしなくて大丈夫だよ」


「君と住むために、母親を殺したよ。だから、嫁姑問題で悩まなくていいよ」


「君と住むために、父親を殺したよ。だから、俺には遺産が入るよ」


「君と結婚するために、君の母親を殺したよ。もう障害はないよ」


「君と結婚するために、君の父親を殺したよ。もう2人きりだね」


「君と結婚するために、今から君を迎えに行くよ」


「君の家に行ったら、君は引越した後だったね。僕は君が約束を反故にしようとしているなんて思いたくない。君がこの手紙を読むころ、僕は多分君の家に着いているよ。だって、ポストに直接入れたから。僕は君がさっき玄関でこの手紙を開封したことを知ってるよ。それがいつも君の癖なんだ。玄関で手紙を開いて、いらないのはその場で捨てる。そんな風に合理的なところにますます惚れてしまうよ。僕は今どこにいると思う?


 びっくりすると思うけど、下駄箱の棚板を全部外して、下駄箱に忍び込んでるんだよ。嘘だと思うなら開けてごらん」




 敏子は恐る恐る玄関の靴箱を開けた。中は前と変わらず靴が並べられていた。


 ほっとして泣きそうになる。




「敏子。好きだよ。


 でも、僕は本当はいないんだ。


 君のお父さんとお母さんを殺したのは君自身。


 僕は心配だよ。君が一人ぼっちで、これからどうやって生きて行くのかが」 




「待って!行かないで!」


 


 敏子は幼稚園の幼馴染にすがりたくなった。




「全部嘘だよ。安心して。君は僕と2人で生きて行くんだ」


 大きな影が後ろから敏子に抱き着いた。




 敏子は悲鳴を上げた。

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