仕返し(おススメ度★)

 俺はもう結婚情報サービスを利用しなくなった。

 趣味を通じて恋人を探すような元気もない。


 俺の場合、結婚情報サービスの会費はずっと無料だが、女性からの申し込みは40代の頃と比べてかなり減った。

 政府の調査によると、2015年時点で50歳まで結婚してない男は、何と23.4%(!)もいたそうだ。

 俺の会社に独身の男はほとんどいない。

 大企業のグループ会社だからかもしれない。


 俺が逆玉を狙っていた時期に知り合った弁護士の先生は、月1くらいでメールを送って来る。

 毎回、たわいない話を振って来て、最後に食事に行きませんか?という結びになっている。

 俺はずっと「今度」と言って先延ばしにしている。


 俺は実は色んな女から誘われている。

 ハイスぺ男子の最後の売れ残りだからだ。

 

 弁護士さんと最初に出会って何年か経ってから、結婚情報サービスを通じて、もう一度交際申し込みがあった。

 俺は先方の親が反対した過去があるからと言って断った。

 

 しかし、それで終わらなかった。

 しばらくして、両親が会社に尋ねて来たのだ。

「どうやったら会えるかわからなくて、ごめんなさい」

 母親はすっかり丁寧になっていた。

「すみません。せっかくお越しいただいたのですが・・・今仕事中なので」

 明らかにその人たちは非常識だった。

「仕事終わりにちょっとお話できませんか」

 

 俺の仕事終わりを待って、3人で会社の近くのちょっといいお店に行った。

 2人とも上流階級の人たちらしく上品だった。

 両親の話によると、娘の有紀ちゃんが俺のことを未だに忘れられなくて不憫でならないということだった。

 

 俺は有紀ちゃんの野暮ったい姿を思い出して、気の毒だけど無理だと思った。


「あの子も最近はすごくおしゃれになって、江田さんに好きになってもらえるようにって頑張ってるんですよ。ほら」

 と、言ってスマホの写真を見せた。


 清楚な感じの美人が写っていた。

 メガネはかけていなかった。

 え、まじで?俺は彼女が整形したのかと思った。


「娘にもう一度チャンスをもらえませんか」

 元財務官僚の父が懇願していた。

「はい・・・私でよかったら」

 俺は快諾した。

 

 それから、俺は有紀ちゃんと付き合うようになった。

 お互いにとって初めての交際相手だ。

 

 弁護士だからキツイ人かと思いきや、俺のプライドを傷つけるようなことは絶対言わない。 

 料理も上手だった。

 さらに婚前交渉も許してくれた。

 結婚したら俺の家で一緒に住んでくれるそうだ。

 さらに両親は、お祝い金として1億円も準備しているらしい。

 他人事ながら、贈与税がかかるんじゃないかと、いらぬ心配していた。


 2人で俺の家のリビングにいた時だった。

 自然な流れで、俺は人生で初めてプロポーズした。

「そろそろ結婚しない?」

「ははは!」


 彼女は突然けたたましく笑い出した。

「ああ、よかった。これでやっとあなたを克服できたわ!」

 大声で彼女は言った。


 俺は急に彼女がおかしくなったので、あっけに取られていた。

 あまりに芝居がかっているのでまるでミュージカルを見ているようだった。

 女は笑い続けていた。


 そして、笑いで引きつりながら「前は好きだったけど、今は何でそう思ってたか全然わからない!江田さんって本当つまんない男だよね。友達0なのもわかる! あはははは!大した大学出てないし、勤務先は三流だし。実家も貧乏だし。こんな家に住むなんてありえない。恥ずかしくて、あたし友達に言えない。はははは!」

 

 その瞬間気が付いた。

 この女は俺に仕返しするために、俺に近付いて来たんだ。

 頑張って化粧して、綺麗になって、俺がその気になったら一転、こうやって手のひらを反すつもりだったんだ。


 彼女は人生で名門私立幼稚園、有名大学、弁護士資格と数々の難関をクリアしてきた。

 だから、俺ごときにつまずいて、人生に汚点を残したくなかったのだ。


 俺は真剣なプロポーズを鼻であしらわれたのはショックだったが、つとめて大人のふりをした。


「いや。俺は好きだったよ。有紀ちゃん。」

 彼女は鼻で笑っていた。

「俺は構わないよ。君はきれいだし、完璧だ。もう俺を卒業したんだ」 

「きもい!」 

 

 彼女はすぐに鞄を持って帰って行った。

 最後の言葉は「じゃあね」だった。 


 俺はしばらく彼女を忘れられなくて、メールが来ないかと本気で待っていた。

 しかし、来るはずがない。


 失恋を経験させてくれてありがとう。

 有紀ちゃん。

 と、俺は今でも彼女に感謝している。


 2人の思い出は永遠だよ。

 俺の寝室、カメラついてるんだ。

 だから、俺は君との思い出をいつでも取り出せるんだよ。

 

*この小説はフィクションです。

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