幽霊ビル(おススメ度★)
これは、仕事関係で会った不動産会社の人に聞いた話だ。
ある会社A社は、複数のオフィスビルを所有して賃貸していた。
その会社の本業というのは事業者向けの金融だった。
みんなはローンを組んだことはあるだろうか。
住宅ローンだとネット銀行の金利が安いけど、ビジネスローンはちょっと違う。
都市銀行(MUFG、三井住友、みずほのような大手銀行)が一番金利が安くて、その次が地方銀行や信金。その辺から借りれないとノンバンクという金利の高い所からお金を借りることになる。
どこの会社も、5年後には売上2倍とか甘々の事業計画を立ててるけど、現実はそんなに甘くない。
大体は金を借りても返せないから、それを返すためにまたどっかから借りて来る。
2010年6月に貸金業法が改正になって、上限金利が下がったが、昔は出資法上限金利が年利29.2%だったから、ものすごく金利が高くて、返すのが大変だったと思う。昨今は起業ブームだが、自営業っていうのはリスクがあるから、俺は家業を継いだり、起業したりせずに、平凡なサラリーマンの道を選んだ。
さて、話を戻すと、A社はサービスの一環でオフィスのテナントには、それほど高くない金利で金を貸していた。
貸金業も客の取り合いだからだ。
うまくいっているうちは、双方Win Winの関係でいいのだが、返済に困るようになると家賃も払えなくなってくる。そうなると、入居した時の保証金(敷金みたいなもの)から引かれたりして何か月かはいられるが、そのうちそれも無理になると、会社が人質になってしまう。
本来は、大家が鍵を変えたりして借主を締め出すことはできないのだが、金も貸しているのでA社はそういう法令違反のこともやっていた。実際、A社は怖い人たちとのお付き合いもあったようだ。
テナントにB社という会社があった。
経営が悪化して、借入金が返済ができなくなってしまった。
A社の社員が毎日やってきて「金返せ」と怒鳴りつける。
返せなかったら、「自宅や腎臓売って返せ」と言う。
ドアに「泥棒」と張り紙をする。
ガラの悪い男が、廊下に1日中、居座っているから、事務のバイトの人も怖がってやめてしまった。
借主の社長Bさんは、精神的に追い詰められて事務所で首を吊ってしまった。
自分が加入している保険で払えばいいと思ったのだ。
A社はBさんの会社のオフィスから荷物を出して、次の会社に貸した。昔は今ほど告知義務についてうるさくいわなかったし、空室になると困るから、A社はただの空き室として普通に貸し出した。
首吊り自殺があった部屋なので、床は体液と糞尿で汚れてしまったので、A社は汚れたカーペットだけは張り替え、その他は古いままで次に貸し出した。本来は、部屋のカーペット全部を張り替えるものだが、原状回復費用をBさんの遺族から取れなかったからだ。
だから、そのオフィスの床は一部だけ色が違っていた。
新しく入った会社の人はそれを知らなかった。
借主は30歳くらいの若い人が起業した、ベンチャー企業だった。
入居して一週間位した頃、
社員の人が出社するとカーペットに排泄物が大量にブチ撒かれていた。
びっくりして警察に通報したけど、防犯カメラのないビルだから犯人がわからなかった。
窓を開けても臭いので、カーペットを交換するまでは事務所を閉めることになってしまったそうだ。
でも、その人が来た時、鍵がかかっていたことだけは間違いなかったという。
テナントは自腹でカーペットを替えて、消毒液を巻いてから事業を再開した。
するとまた何日か経つと、床が排泄物まみれになっている。
また、警察を呼ぶ。そんなことが3回あった。
Cさんは引越したかったが、事業系のオフィスは引越しにものすごくお金がかかる。それに、汚れていなくても、壁や床を新しくしなくてはいけないという契約もあったから数百万が必要だった。
社長のCさんは、3回目にそんなことがあってからは、オフィスに寝泊まりするようになった。
昔なので鍵は普通のシリンダー錠だった。
比較的簡単に開く鍵ではある・・・。
ブラインドから外の明かりが漏れて真っ暗ではなかった。
見た目は何の変哲もないオフィスだ。
俺に何か恨みでもあるんだろうか・・・Cさんは考えたが思いつかなかった。
Cさんは内鍵をかけて、簡易ベッドを持ち込んで寝ていた。
そこは流しとトイレがあるだけの狭いワンルームでCさんの場所からすべてが見渡せた。
すると、夜中、ちょっと離れたあたりの天井から、ミシッ・・・ミシッ・・・と音がする。
Cさんは目を開けた。頭の上で何か音がしている。
そして、何かを蹴って倒す音がして、ロープの様なものがギュッと閉まる音がした。
あ、首つりだ!
Cさんは起き上がった。
暗がりの中で、人が天井からぶら下がって、もがいている影が見えた。
「やめろ!やめろ~!!」
Cさんは叫んだ。
「ギャー、誰か!」
Cさんはパニックになって、どうしていいかわからなかった。
声がかれるほど叫び続けた。
しばらくすると、
そのうち、床にぽと、ぽと、、ぽとっと、排泄物が漏れだし、部屋中に便の匂いが充満した。
「ぎゃ~!!!」
Cさんはたまらなくなって、部屋から飛び出した。
そして、駅まで走って行って、交番に飛び込んだ。
「今、首つりがありました!」
興奮してCさんは叫んだ。
「どこですか?」
警官は気の毒そうにCさんを見た。
Cさんは30分くらいかかって、何とか事情を話した。
「私は怖くて行けません・・・鍵はかかってませんから。行ってみて来てください。助けられれば良かったんですが、高い所にぶら下がってて手が届かなくて・・・」Cさんは泣きわめいた。
警官は言った。
「あ、この間、あの首吊りのあったビルですね・・・。またですか。」
警察が見に行くと床に排泄物が散らばっていたということだった。
Cさんが言うような縊死体は残されていなかった。
首吊りのあった場所だと警察は知っているので「またか」と思ったそうだ。
Cさんは、その後すぐに退去した。
精神を病んでしまい、ベンチャー企業はたたんだそうだ。
今もそのビルは千代田区の〇〇駅の近くにある・・・。
営業妨害になるので、詳しくは書かないことにする。
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