同姓同名(おススメ度★)

 俺の本名はさすがに公表できない。

 江田聡史さんという人は多分どこかにいるだろう・・・ごめんなさい。


 これは俺の本名の方の同姓同名の話だ。


 俺には同姓同名の人がいた。

 名前の漢字はちょっと違うけど、地元が一緒だったから、おまえと同じ名前の人がいると何度も指摘されたことがあった。


 俺は進学校に通う、真面目な優等生タイプ。

 あちらは工業高校に通うヤンキーだったらしい。


 俺は心の中で迷惑だと思っていた。

 ただの同姓同名なのに、俺が暴走族に入っていて、深夜バイクを乗り回し、喧嘩をして相手に大けがをさせたとか、シンナーをやっていると噂になったこともある。


 他にも、もう一人の方は、不純異性交遊、強姦、万引き、恐喝などもしていたようだ。

 俺は次第にそいつと同一視されるようになり、学校では一目置かれるようになっていた。


 俺が街を一人で歩いていた時、向こうからヤンキーの集団が横並びに歩いて来た。


 怖いので俺は避けた。


「江田。あれがお前と同姓同名のやつだ」

 誰かが言った。

 ヤンキーの江田君は、俺をちらっと見た。

 やられる!

 俺は固まった。


 すると、ヤンキー江田君は笑顔になって「お前か。あんまりやばいことすんなよ」

 と言った。

「今、何してんの?」

「ちょっとこれから友達と待ち合わせてて」

 俺は嘘を言った。

「あ、そうか。今度、遊ぼう。じゃ、またな」

 江田君は結構いいやつそうだったし、そこまで凶悪な男には見えなかった。


 俺は「助かったー」とほっとしたが、また誘われたらどうしようかと思った。

 だから、江田君に会わないようにするために、あまり出かけなくなった。


 その後も、江田君の情報がもたらされていた。色々やんちゃして、高校を2年生で中退してしまったそうだ。

 それで、バイトをしていたということだった。


 高校3年の時だった。

 学校に行ったら、みんな遠巻きに俺を見て笑っていた。

 その中の、全然仲良くないやつが話しかけてきた。


「お前、昨日死んだんだってな」

「え?」

「江田聡史がバイクで事故って死んだらしい」


 なんと、江田君がバイクの単独事故で亡くなったそうだ。

 俺は自分の親族が亡くなったような・・・複雑な心境になった。

 あんなに友達に囲まれていた江田君。

 俺なんて友達あんまりいないのに・・・。

 俺が生きていて、彼が死ぬなんて 神様は不公平だ。

 

 その日、俺の家に間違って香典が何件か届いた。

 うちに尋ねて来たヤンキーが何人もいた。


 俺は次の日には、江田君の家を調べて香典を返しにいった。

 さすがに猫ババはできない。


 正確ではないが、その時は葬式をやっていたと思う。

 

 ヤンキーがたくさん参列していた。

 俺は受付で「うちに間違って香典が届いたんですが」と言った。「同姓同名なんで・・・多分、うちだと思ったみたいで」

 その人は変な顔をした。


 そのうち、向こうの父親が出て来た。

「お前か。

 お前のせいで聡史がどんだけ苦労したかわかるか。

 土下座して謝れ」


「は?」

 俺はあっけに取られた。

 迷惑していたのは俺の方だったのに。


「お前、暴走族に入ってるんだろう。少年院に行く寸前って聞いたぞ。

 お前のせいで聡史は学校に行きづらくなって中退したんだ。

 仕事も決まらなくて・・・。どんだけ苦労したと思ってんだ。

 馬鹿野郎!殺してやる!」


 そう言ってつかみかかってきた。

 周りの人が止めに入った。

 

 よくよく話を聞くと、江田君はガチの不良ではなく、田舎によくいるマイルドヤンキーだった。暴走族になんか入っていなかった。もちろん、強姦、恐喝や万引きはやっていない。


 飲酒、たばこはやっていたみたいだが。

 そんなの珍しくはない。

 俺の同級生でも酒を飲んでいるやつは普通にいた。

 

 江田君はいじめに逢っていて、誰かがデマを流したみたいだ・・・

 それで、江田君は学校をやめてしまい、ガソリンスタンドで働いていたんだと思う。

 それにしても、誰がデマを流したのかは今となってはわからない。

 デマにしてはあまりに強烈だった。

 今だったら、警察に相談するレベルだ。

 

 一回、彼とちゃんと話してみたかった気がする。


 俺は時々、江田君の笑顔を思い出す。 

 俺の方が行き残ってごめん。



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