赤い字(おススメ度★)
俺がまだ20代の頃だ。
正社員で働いていたが、大学時代に借りた安アパートにそのまま住んでいた。
ある朝、ポストを見ると、白い便せんに赤い字で、『アパートの前に車を停めるな!』という苦情が延々と書かれた手紙が入っていた。
投かんしたのは1階に住んでいた男の人だった。
ちゃんと名前が書いてあったからだ。
普段、感じよく挨拶していたので、そんなものを書く人には見えなかった。
確かに、週末は毎週友達が遊びに来て、アパートの前に車を停めていた。
でも、1日中停めていたわけではなかったのに、その人の自家用車を停める場所がなくなってしまったということだった。
別にアパートの前は駐車場として賃貸されておらず、誰が停めてもいいはずだった。
俺はトラブルが面倒なので、すぐに謝りに行った。
すると、「あそこはうちが長年停めてるんだから、勝手に車を停められたら困るんですよ!」と激高していた。
「あれは、友達の車で・・・もう停めないように言っておきます」
と、俺は友達のせいにした。
友達は次来た時も車だったから、一度うちまで来て、いつもの場所に車を停めた。ただ、ちょっと荷物を下ろして駐車場を探しに行くつもりだったのだが、1階のじじいはそれが気に食わなかったらしい。
友達を怒鳴りつけた。
「警察呼ぶぞ!」
友達はシカトしてすぐに車を発進して去って行ったそうだ。
それから、その親父の嫌がらせが始まった。
収集所に出したごみを開けられる。中身を調べて、分別できてないと言って袋ごと玄関に戻されていた。赤い字で「分別してから出してください」と書かれた紙が貼ってあった。
これが何度もあった。俺は平日仕事だから、放置していた生ごみが腐ってしまい、本当に困った。不動産屋に相談したが、じじいは「自分じゃない」としらばっくれていたそうだ。
そして、相変わらず、じじいの嫌がらせは止まらなかった。
駐輪場に停めてあった、自転車の鍵が壊されていたり、ポストに汚物が投げ込まれていた。
俺は気味が悪いので引越しを決意した。
一応、引越しの当日、それまでのことを謝りに1階のじじいに挨拶に行った。
「あ、そう。ここ安いのにね。もったいない」
「いやぁ・・・でも、毎回ゴミを玄関に置かれたら、住んでいられませんよ」
「それ、俺じゃないよ。たぶん、3階の人」
「え?」
俺は一瞬ですべてを理解した。
車はこの人で、それ以外は違ったんだ。
「あの人、執念深いからね。あんたが音楽聞いてるのがうるさいってずっと言ってたから・・・」
「あ、そうですか」
俺はそのアパートで複数の人から恨みを買っていたことを知った。
俺は不動産屋に転居先を知らせていたから、3階の人が投かんしたであろう封筒が何度か転送されて届いていた。切手を貼ってないのに、わざわざ茶封筒に入れてくれていた。
それには「夜中に音楽を聴くのをやめなかったら、いい加減刺します」と赤字で書かれてあった。
俺はもう住んでないのに、、、音楽はどこから聞こえてくるんだろうか。
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