ソウルメイト

 誰もが一生に一度はソウルメイトに出会えるものらしい。

 ソウルメイトっていうのは、魂の伴侶という意味で、心が共鳴しあうような相手のことだ。前世で繋がりがあった人である場合あるとか。


 俺にはそういう相手はいないが、前の会社の人で、ソウルメイトの話をしていた人がいた。思い込みじゃないかと思ったけど、欧米の人はかなり高い割合でと信じているらしい。


 その人は日本人ではなかった。アメリカ人女性のAさん。

 

 彼女は日本のアニメが好きで日本語を勉強し始めたそうだ。実は欧米の人で日本語を勉強してる人の9割以上が、アニメや漫画がきっかけなんだそうだ。


 Aさんは、日本の大学に留学した。

 でも、専攻は経営とか実学的なものだった。以前は日本も景気がよくて、ビジネスチャンスがあったからだ。


 Aさんは、日本に来た瞬間から、男からナンパされたり、すごくモテたそうだ。金髪じゃないけど、白人女性に興味がある人は多いみたいだ。


 Aさんは日本の男には全然興味がなかった。残念なお知らせになるが、アジア系男性は欧米ではまったくモテない。まず、体格差がかなりある。アメリカでは平均身長176cm。平均体重は90㎏。BMIだと軽度の肥満になってしまうが、一般的にはマッチョな男性が好まれるから、やせているよりはそのくらいあった方がいいらしい。日本人はかなり華奢で、毛が薄くて、それに性格も大人しい。だから頼りなく見えてしまう。欧米だとちょっと髭が生えていた方がいいんだ。 


 だから、Aさんの日本でのボーイフレンドは、同じような留学生や日本で働いている欧米の人だった。


 Aさんは大学を卒業して、外資系の会社に就職した。

 外資系の会社っていうのは長期の休みが取れる。2週間とか休みを取ってバカンスにでかけたりすることもできる。


 Aさんはその年、北海道を1人で旅することにした。

 バックパックを背負って、宿を決めないで行く。

 そこで起きる偶然の出会いに期待して・・・。

 出会いというのは地元の人とのふれあいなどでロマンスを期待していたわけではない。Aさんは旅行の少し前にボーイフレンドと別れて、精神的にはかなり疲れていたそうだ。

 

 Aさんは最初函館に行った。その後、洞爺湖、登別、アイヌで有名な白老に行った。


 宿泊先はいつもホステルだった。二段ベッドで男女共用の相部屋。シャワー、トイレも共同だ。男女共用でも、女性が危ない目に遭うことは滅多にないらしい。

 

 3日目にホステルに泊まった時、部屋に行ってみると、若い日本人の男(Bさん)が二段ベッドに腰かけていた。

 

 年は20代くらい。背が高くて、無精ひげを生やしていて、体ががっちりしていた。そして、Aさんを見るなり笑顔で「Hi!」と声を掛けた。そして、握手を求めて来たそうだ。まるで友達に会ったかのように、Aさんはほっとしたそうだ。

 Aさんは、その男がハンサムだと思ったそうだ。日本人でそう思ったのは、阿部寛と彼だけだったとか。


 Aさんのベッドはその男性の上の段だった。それで、遠慮しながら上に上がった。Aさんは汗をかいたから洗濯機を使いたいと思いながら、梯子を登っていた。すると、Bさんが「洗濯する?さっき一杯だったけど」と言ったそうだ。Aさんは驚いた。


「え、どうして洗濯したいってわかったの?」

「だって・・・君は北海道に来て2-3日くらい経ってるかなと思って」

「すごい」


 Aさんはびっくりしたそうだ。

 しかも、Bさんは英語がペラペラだった。

 2人はすぐに意気投合して、2段ベッドの上と下で話し込んでいた。

 

 Bさんは寿司職人で、最近までアメリカに住んでいたそうだ。

 しかも、カリフォルニアでAさんと同じだった。

 Bさんはロサンゼルスで、Aさんの街からは車で1時間。

 広いアメリカでそんなに近いことは珍しかった。

 Bさんは親が心配で日本に戻って来たそうだ。実家は静岡だった。

 働き始める前に、日本中を旅することにしたそうだ。


 Aさんはもしかしたら、その人と結婚するんじゃないかと思ったそうだ。

 Bさんも、Aさんを気に入り、2人は残りの10日間一緒に北海道の名所を巡ったそうだ。旅行中、ずっと奇跡が起きていて、Aさんがどこか行きたいな、と思ったらBさんから提案される。疲れたな、休みたいなと思ったら、Bさんがちょっと座ろうかと言ったりなど、自分の気持ちを見透かされているんじゃないかと思うことばかりだった。


 1週間後にはホステルに泊まるのをやめて、2人でホテルのダブルルームに泊まるようになったそうだ。

   

「恋人はいる?」

 Aさんは後から聞いた。 

「実は、アメリカに妻子がいるんだ」

 Bさんは答えたそうだ。

「でも、妻から離婚を切り出されていて・・・。アメリカの永住権が欲しくて結婚したけど、もう愛はないんだ」

 Aさんは、それならそのうち奥さんと離婚するだろうと考えていた。Aさんの家は東京で、Bさんは静岡市内。遠距離というほどでもなく、2人は3年付き合った。Aさんは仕事を辞めて、一緒にお寿司屋さんをやろうかと思うくらいだった。Bさんも東京で就職しようかなと言ったりしていた。


 しかし、Bさんから奥さんと離婚したという話は聞かなかった。

 BさんはAさんと一緒の時は携帯の電源を落としていたけど、ある時電源を入れっぱなしでトイレに行ってしまった。

 奥さんからWhatsAppが来ているのを見たら「今度、日本に行く」と書いてあったそうだ。奥さんとはラブラブらしく、毎日、何時間もやり取りしていたのがわかった。そして、やり取りの中には、2人の子供たちの写真や、奥さんのセクシーな下着姿のものもあった。金髪で美人の白人女性だった。


 こんなきれいな人が何で日本人とつきあってるの?

 夫婦なのに、一緒に暮らさなくて平気なの?

 そんなの夫婦って言えるの?


 Aさんは思ったそうだ。


 それで、Aさんは奥さんにメッセージを送った。


「あなたの旦那さんに3年間騙されてました。あなたと離婚するって言うから待ってたけど、離婚する気はありますか?」


 すると、すぐに返事が来た。


「絶対ないわ!彼は私を愛しているから」

「私の3年返して!」とAさんは奥さんに送ったそうだ。

「あなたには気の毒だけど、私の方が先に出会ってしまったの。子供もいるわ」


 もし、ソウルメイトに出会えたとしても、その人が独身とは限らないってことだ。

 その後、AさんはBさんと10年くらい付き合っていた。

 奥さんが日本に来ても、まだ続いていたそうだ。


 もう少し早く出会っていたらなぁ・・・と、Aさんは今も思っているそうだ。


  


 

   


 

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