屋根裏

 俺の実家には屋根裏に物置があった。

 屋根裏部屋と言うほどの、ちゃんとした部屋じゃなくて、天井裏に少し物を置くスペースがあったというだけなのだが。


 うちは2階建てだったけど、階段を上がった突き当りに物置のドアがあって、普段使わない物をその場所に置いていた。物を置いていたのは、ドアの周辺の2-3メートルくらいまでだったと思う。その先まで入って行ったら、どうなるかわからないような危なっかしい構造だった。

 上からは裸電球が下がっていて、オレンジ色の光に照らし出されるガラクタは、恐らくネズミの糞尿まみれだっただろうと思う。


 その場所は、長期の保管用というより、物を捨てるまでの仮置き場だった。

 うちの実家にはネズミが出た。

 今思うと、衛生的にやばかったと思うが、その屋根裏はネズミがいた。


 夜寝ていると、ネズミがカリカリと何かかじる音がしていた。

 そのうち、ネズミが壁に穴を開けて入って来てしまうんじゃないか・・・と、俺は怖かった。

 しかし、子供だから何もできない。


 そして、床下からもネズミが走り回る音がした。

 自分がいる部屋だけが安全で、その周囲をネズミが駆け回っているようだった。


 俺は実家が好きではなかった。

 いつも散らかっているところや、ネズミがいるからだけではない。

 何となくその土地にはよくない物がついている気がした。


 うちの先祖は地主で広い土地を持っていたが、事業に失敗して、所有地を切り売りして来た。だから、隣近所の土地は元は先祖のものだったのだ。うちは少し広い土地に大きな家を建てて住んでいたが、実際はボロボロで修理する金もけちるほどだった。それでいて、プライドは高かった。


 実家は30年くらい経っていたかもしれない。祖父母が生きていた頃からあったらしい。


 俺はある時、母親に屋根裏の片付けを手伝ってと頼まれた。小遣いをやると言われて、喜んでやることにした。


 屋根裏にあったのは、古い食器や衣類、本などだった。

 食器はともかく、衣類は虫が食っていて、昭和初期くらいの本も穴だらけだった。

 少し物をどけると、ネズミのフンが落ちて悪臭がした。


 俺はお宝が出て来ないかと期待していた。

 先祖伝来の掛け軸とか、江戸時代の書物などだ。

 うちは旧家の割には古いものがほとんど残っていなかった。

 

 その中に、紙袋があって、中に小さな木箱がたくさん入っていた。

 開けてみると、それは、へその緒、産毛、乳歯、前髪だった。

 江戸時代の年号と名前が書いてあった。

 昔の武士は、そういうものを残すのが習わしだったようだ。

 そういうのが20箱くらい出て来た。

 いくらご先祖でも、亡くなった人の体の一部が残っているのは気持ちが悪い。


  ゴミに出すわけにもいかないので、市の資料館に電話してみた。すると、先方から引き取りたいと言う申し出があった。


 それで、なぜかうちの先祖の遺物が、地元の資料館に展示されたのである。ご先祖は自分たちの体の一部が、さらし者になっていることに、憤っているんじゃないか・・・俺は心配だった。


 この間、ネットで見たがその資料館は心霊スポットになっているそうである。

 江戸時代の展示の近くに、人影が立っているそうだ。

 うちのご先祖かもしれない。


 仏教では、臍の緒は、女性が死んだ時に遺体と一緒に葬るものらしい。

 一説によると、女性は出産すると、現世で起こした罪が帳消しになるとか。

 だから、先祖がそれを取りに来ているのかもしれないと思う。

 




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