土砂降り
土曜日の昼。午後から大雨の予報だが、俺はどうしても作りたい料理があって、スーパーに調味料を買いに行った。
まだ、雨は降っていない。この隙に、と思って出かけた。店を出た段階ではポツポツと降っているだけだった。
俺は早足で家に急ぐ。
しかし、途中で土砂降りになってしまった。傘はさしているけど、足元には水たまりが広がっている。買ったばかりのNIKEのスニーカーを濡らしたかなかったから、俺は知らない会社の駐車場に逃げ込んだ。
ぼんやり雨を見ていた。雨は好きだ。ずっと見ていても飽きない。子どもの頃は大雨が楽しみだった。昔は今ほど災害がなかったから、不謹慎だけど、洪水にならないかなぁ、なんて思っていた。普段見慣れた景色が海みたいになったら、プールみたいに泳げると思っていた。小4の頃に学校の先生が、洪水の水は汚いと言ったので、初めてそれがわかったほどだった。
東京23区も何年か前に荒川がやばいことになってからは、洪水が他人事ではなくなった。少なくとも俺はそう思っている。
しばらくして、隣で喋っているのか、うめいているのかわからない声が聞こえた。
俺はびっくりして横を向いた。
すると、いつの間にかお爺さんが立っていた。ビニール傘を差しているが、足元はビーチサンダル。服は薄汚れた白のポロシャツにグレーのスラックス。年齢は80くらいだろうか。生きてるだけで立派な年齢なのに、一人で外出できるのだからすごい。
ビーチサンダルだし、土砂降りでも、そのまま帰ってもよさそうに見えたが、なかなか帰らない。
俺はスマホを弄りながら、もう少し、雨が止むのを待っていた。
スマホがあればしばらく時間を過ごせるから、そのまま目を奪われていた。
隣はまだいるのかな、と思って、ちらっと見ると、そこにあったのは古い自転車だった。俺はギョッとした。
自転車とおじいさんを見間違えるなんて、目がおかしくなったのかと思った。
俺が来た時に自転車があったかは、覚えていない。なかった気がする。しかし、人の記憶なんて信用できない。特に50を過ぎてからは、自分の認知能力がおかしくなっていると思う。
先日なんか、歩いている時に、車道に灰色の猫の死体を見つけた。かわいそうだと思って近付いてから、それはただの段ボールだったということがあった。
あのおじいさんは実在したのか。
幽霊だったのか。
まったくわからない。
ただ、今もその自転車が駐車場に止まっている。
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