携帯電話(おススメ度★)

 これは地元の知り合いから聞いた話だ。


 Aさんが、昔、付き合っていた彼女というのがちょっと変わった子だった。


 今でいうメンヘラ女系だった。


 話していても会話にならない、一緒にいても話題がない。

 なぜ、その子と付き合っていたかというと、見た目がかわいくて、誘えばついて来るからだったそうだ。


 きれいなストレートのロングヘアで、目が大きくて、色が白い。

 変わった名前だった。

 玉賀壽たまかずさん(仮名)とする。

 そんな、芸者さんのような、今まで遭遇したことがない珍名だった。

 親もロクなもんじゃないと思うが、彼女は複雑な家庭環境に育ったらしい。


 個人的な見解だが、変わった名前を付けると、気を病んだような、変わった人になることが多い気がする。

 人に色々言われることで神経質になるからだろう。


 彼女はよく携帯をいじっていたそうだ。

 彼氏の家にいる時は、トイレに行く時でも肌身離さず持ち歩いていたそうだ。

 昔のガラケーはロック機能がなかったのか知らないけど、彼女はAさんを信用していないようだった。


 Aさんは大して好きでもない彼女でも、他に男がいるとしたらむかつくと思ったらしい。


 たまたま、外で飯を食った時、彼女がテーブルに携帯を置いて行ってしまったことがあった。


 Aさんはすかさず、携帯を持って何を見てたか調べたそうだ。


 彼女は日記をつけていたそうだ。

 下記のように書いてあった。


 『昨日マネージャーが電話して来て、今度のコンサートの時の衣装合わせがあるから、これ以上太らないでと言われた』

 

 『昨日、ベストテンに出た時、アイドルの浅賀唯ちゃんと共演したけど、私の方が可愛いから隣に並ばないで、と言われた』


 

 『諸星君大好き♡

 この間、諸星君のファンの子に追いかけられて「死ね」と言われた。ショック。

 私たちがつき合っていることを何で知ってるんだろう』

 

 『映画のオファーが来てるみたい。

 中村雅俊さんと共演したいけど、自信ないな。どうしよう』


 Aさんは、その時、彼女が自分をアイドルだと思い込んでいるらしいと知った。


 『昨日、A君にいやらしいことをされた。

 付き人のくせに勘違いしてる。気持ち悪い。

 事務所から指定されているから、迎えに来られたら断れない。

 今度、マネージャーに行って首にしてもらうつもりだ』


 彼女はAさんを自分の付き人だと思っていたのだった。


 Aさんはそれからもしばらく彼女と付き合ったそうだ。

 次に誰か見つかるまでのつなぎとして。


 そのうち、Aさんは親の方針で入院した。

 

 それっきり二度と会っていないということである。

 その子は性格はあれだけど、自分がつき合った彼女の中では、一番かわいかったそうだ。


 Aさんに何もなくてよかったと俺は思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る