1521回目の転生 其の二

「どっせーい!」


 よく分からない掛け声をかけて俺は聖樹を登り続ける! 

 だがまだ頂上は見えてこない。

 うーむ。これは今日中には帰れないだろう。母さん心配するだろうな。

 ごめんよ、母さん。後でしっかり謝らなくちゃ。


 ちょっと下を見てみる…… 



 ―――ビュォォォ



 うん。見るんじゃなかった。これは落ちたら確実に死ぬ高さだ。

 身体強化術をかけても落ちたら骨がグシャグシャになるだろうな……


 もう下は見ない! どうやって帰るかも考えない! 今は聖樹を登るのみよ! 


「どっせーい! からの、よいしょー!」


 俺は更に先を目指す! 


 雲を抜け、


 空気が薄くなり、


 そして西の空に太陽が沈む頃……


「はぁはぁ…… つ、着いた……」


 頂上はドーム型になっており、すごく昇り辛そうな梯子が付いている。

 パンパンになった腕に最後の力を込めて梯子を上りきる。 

 上った先に見えるのは大きなお屋敷だが……


「もう駄目だ……」



 ドサッ……



 上った先で俺は地面に寝転ぶ。

 平坦な地面って素晴らしい! 

 しょうもないことに感動しつつ、俺はしばらく動くことが出来なかった。

 身体強化術を発動しているとはいえ、この体はまだ五歳。かなり体に無理をさせちゃったかな。


 息が整ったところで、俺は屋敷を訪ねてみることにした。

 日は落ちて辺りは既に暗くなっている。今日は泊めてくれないかな?

 淡い期待を胸に屋敷のドアをノック…… ってドアはどこ!?


 不思議な屋敷だ。窓はあれど、ドアは一切無いのだ。何か魔法がかかってるのかな? 

 そうだ、ここは鑑定魔法を使ってみよう! 

 たしかレイが言ってたな。随分前に使えるようになったって。


 せっかくなのでマナを取り込む。

 でも俺の能力って大地のマナを取り込むんだったよな。ここには大地は無いし……


 まぁいいや! いつも通りマナを取り込んでみよう! 何事もトライしなくちゃね!


 俺は目を閉じて……


 地面からマナを取り込……?



 キュォォォン



 ん? なんだろうか。いつもの感じだと足元からマナを取り込むのだが、なぜか体全体からマナを取り込んでいる感じがする。


 ひょっとして大気に存在するマナを取り込んでるのかな? 

 ふふ。俺はそんな力も手に入れたのか。ちょっと嬉しい。


 さて、充分なマナが体に行き渡った。それを目に集中させる。

 すると……



 ボゥッ



 屋敷全体がマナに覆われているのが見えた。

 その屋敷の中で不自然に赤く輝く箇所がある。ドアのような形…… 

 隠し扉かな? 


 どうやって開けるのかは分からない。

 取り敢えずノックしてみた。すると……



 ギィー



 ちょっと軋むような音を立て壁が開く。ノックして扉が開く。

 つまり歓迎されてるってことでいいのかな? 


「お邪魔します……」


 俺は一声かけて屋敷に入る。そこには……

 ランタンの優しい光に包まれた数々の調度品。綺麗な絵も飾られてた。

 応接室なのかな? 部屋の中央には豪華なテーブルと見た感じフカフカのソファーが鎮座してある。


 先に進むべきか? でも人様の家だもんな。

 むやみに徘徊するのも……


「ふふ。ようこそ、かわいいお客様」


 背後から声がする!? びっくりした! 

 そんな…… 気配は一切感じなかったのに。



 バッ!



 俺は距離を取ってから振り向く! 

 声がしたところには……誰もいない?

 そしてまた背後から声が……


「あなた、一体何者なの? ここに来るってだけで驚きなのに、それにあなたのオド…… この世界のエルフじゃないわね?」

「…………」


 そんな…… 素早いとかの問題じゃない。

 この俺が簡単に背後を取られるなんて…… 


 この人が敵だったら俺は死んでたな。

 でも殺気は一切感じられない。これは安心してもいいってことなのかな? 

 ここはフレンドリーにいこう。


 ゆっくりと振り向く。

 そこには長老とは名ばかりのうら若い美人のエルフの女性が立っていた。

 さて挨拶挨拶っと。


「こんにちは。俺はライトと申します。あなたの言った通り、俺はこの世界の人間……いや、エルフではありません。

 そうですね、何と言ったらいいか…… 転生者。この世界には転生して来たってとこです」

「転生者? そんな、あり得ない…… いや、でもあなたのオドはこの世界に生きる者としては考えられない色をしている。本当なの?」


「あはは。本当ですよ。でもあり得ないっていったら、それはあなたの動きの方があり得ないと思いますがね。どうやったんですか?」


 俺の背後を気取られること無くあっさりと取った。それも二回もだ。


「ふふ。落ち着いてるわね。あれは魔法なのよ。短時間だけど、時の流れを止めたの」


 魔法…… これが噂の時空魔法か!? 

 これはすごいな! 俺の世界にあったスロウとは一線を画すほどの魔法だ! 時の流れを止めるだなんて。

 レイは言ってたもんな。本当の意味での時空魔法がここにあるって。


「すごいです…… 色んな世界を旅してきましたが、この魔法には初めて出会いました。言葉が無いです……」

「色んな世界? ライトって言ったわね。ちょっと話を聞かせてくれない?」


 お? 長老様、乗ってきましたね。

 でもその前に……


「すいません。ここから外部に連絡を取る手段ってありますか? 俺、母さんに夜には帰るって言ってきちゃったんで」

「ふふ。出来るわよ。あなた偉いわね。転生者なのに、親御さんのことを心配しているのね」


「そりゃそうですよ。何度目かは分かりませんが、俺の親には変わりませんから」


 だからこそ彼らの死を見るのが辛いんだけどね……


 長老様は水晶玉の前に立って魔法詠唱を始める。

 水晶は紫色に輝いてから母さんのビジョンを映し出した。


「ほら、これであなたのお母さんと話せるわよ。ふふ。ちゃんと謝るのよ」


 うーむ。きっと怒られるだろうな。

 でも親を心配させた罰だ。甘んじて受け入れなくちゃ。

 俺は水晶に向かって……


「母さん、聞こえる? ごめんね、遅くなっちゃって」

『ライト! どこにいるの! どうしてあなたの声が聞こえるの! 早く帰ってきて! 私、ライトに何かあったらってすごく心配で…… でも良かった…… あなたが無事で…… グスン……』


 あちゃー。母さん泣き出しちゃった。

 ごめんね。心配させちゃって。

 今度は長老様が水晶に向かって……


「失礼。私は長老のモルガンです。ご子息は今夜はここに泊めますね。明日にはお返しいたしますので、どうぞご安心を……」

『長老様!? ライト! あなた一体どこにいるの!? 長老様に失礼なことをしたらお尻ペンペンよ!』


 母さんのお尻ペンペンは痛いんだよな…… 

 愛情とはいえ、あんなに強く叩かなくってもと思う時もあるほどに。


「ふふ。ライトはとってもいい子ですよ。久しぶりの来客なのでちょっとお話がしたいだけですので……」

『は、はい! もしライトが悪いことをしたら、長老様もお尻ペンペンしてもいいですから! ライト! いい子にしてるのよ!』


「ふふ。それでは……」


 水晶が光を失い、母さんのビジョンが消える。

 帰ったら絶対怒られるな……


「さぁ、ライト。話を聞かせてもらうわよ」


 長老様はお茶とお菓子を用意してくれた。こりゃ長くかかりそうだな。何から話せばいいのか。



 取り敢えず一から俺の全てを話すことにした。


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