チシャの一週間 其の二

 水魚日の午後。


 お城からの帰り道。このままお家に帰るのかな? え? その前にお風呂に行くの? おうちにもお風呂はあるよ。


 噴水広場の近くにお風呂屋さんがあった。パパはお風呂屋さんにあいさつしてる。仲良しなのかな? パパは男の人しか入れないお風呂に行っちゃった。ここからはママと二人だ。


 脱衣所っていうところで服を脱いで…… わー、ママのおっぱいおっきい。あれぐらいほしいなー。大人になったら私もおっきなおっぱいになるのかな?


 脱衣所にある扉を開けると…… すごーい! おっきなお風呂があるよ! 嬉しくなってお風呂に入ろうとしたらママに怒られた。

 あ、そうか。お風呂に入るまえに体を洗うんだよね。


 まわりのお客さんもゴシゴシ体をこすってる。ママが背中洗ってくれるの。えへへ。うれしい。じゅんばんこね。次はママの背中を洗ってあげる。


 ママの背中を流すとお風呂に入る。わー、気持ちいい。すごくひろいね。とっても楽しい。

 でもパパといっしょに入れたらもっと楽しいのにな。なんで男の人はここに入っちゃダメなんだろ? 後でママに聞いてみよ。


 お風呂に入ってると誰かが声をかけてきた。


「あら、フィオナちゃん。久しぶりじゃない」

「ミルキさん? ふふ、よくお風呂で会いますね」


 ママのお友達なのかな? 二人はお話を始めた。


「その子は?」

「私の娘です。ほら、チシャ。ミルキさんに挨拶してください」


 ちょっと恥ずかしいけど、挨拶しなくちゃ。


「こ、こんにちは。チシャです」

「ふふ、いい子ね。私はミルキ。今度私のお店にいらっしゃい。かわいい服があるの。チシャに似合う服を用意しておくわね」


 ミルキさんって服屋さんなのかな? かわいい服…… ちょっと着てみたいかも!


「ふふ、楽しみにしてて。それじゃ私は出るわね。それとフィオナちゃん…… ふふ、やっぱり何でもないわ。またね」


 ミルキさんは何か言いたそうにしてお風呂を出ていった。気になるね。何を言いたかったのかな?


「そろそろ出ましょ」

「うん!」


 お風呂から出たらパパが待ってた。私とママに果実水を渡してくれる。冷たくておいしー! 私のことを見てパパがすごくうれしそうに笑ってる。


 おうちに帰る前にお買いもの。今日のごはんは何だろ? 何でもいいよ。だって二人が作ってくれるの全部好きだもん。え? それが一番困る? どういうことかな? 食べたいものを言うの? 


 うーん…… あ、そうだ! 月影日にオリヴィアおばさんのとこで食べたお米料理! カレーが食べたい! 


 みんなでお肉屋さんと八百屋さんにいってお買いものをした。えへへ。ごはん楽しみだね。


 おうちに着くとゴーレムのレムがお部屋の中をお掃除をしてた。ごくろうさま。レムは喋らないけど、とってもいい子なんだよ。パパが言ってたけど、このおうちを守ってくれてるんだって。


 みんなで一緒にごはんを作る。パパはお肉を切ってる。ママはお野菜を。わたしはお米を洗う。洗うじゃなくて研ぐっていうの? どう違うんだろ? むずかしいね。


 よいしょ。よいしょ。



 ―――シャッ シャッ



 わー、お米を研いだら、お水が真っ白になった。ミルクみたいで美味しそう。ちょっと舐めてみる。んー、へんな味。


 ママは茶色、赤、黄色い粉をオナベに入れてまぜてる。すごくいい匂い。パパが言ってたけどこれって異界の料理なんでしょ? すごいね、異界って。異界ってどこにあるのかな? バクーよりも遠い国なのかな?


 後は煮込むだけなんだって。レムがオナベを見てくれてるみたい。私たちはソファーに座っておしゃべりを始める。


 えっとね。今日ね。お友達が出来たんだよ。ゼラセとゼノアっていうの。すごくいい子だったよ。今度は何してあそぼうかな。



 ―――コンコン



 レムが壁を叩いてわたしたちを呼んでる。ごはんができたのかな。おなかペコペコ。いっぱい食べるぞ! パパはいつも腹八分目っていうけど何のことなんだろうね。


 テーブルに座るとママがごはんを持ってきてくれる。パパはわたしのコップにお水を入れてくれた。えへへ。パパが食べていいよって。それじゃいただきまーす!


 辛い! でもすごくおいしい! お代わりしてもいいのかな? パパを見るといいよって言ってくれた。じゃあ、お代わり!


 ごはんすごくおいしかった。でも辛かったから汗かいちゃった。今度は三人でお風呂に入った。

 お風呂に入る時のママはとっても甘えん坊さんになる。パパに抱きついてチューしてる。ずるい! 私もする! 


 もう寝る時間。今日はすごく楽しかった。だから最後まで楽しくしたい。

 ねぇ、パパ、ママ。今日は一緒に寝てもいい? 二人のベッドにもぐりこむ。二人にぎゅって抱きしめられる。


 えへへ。とってもあったかい。眠くなっちゃった。



 お休み、パパ、ママ……



◇◆◇



 木緑日。


 今日はグウィネお姉さんのお手伝いの日。お姉さんのお店は床屋さん。髪を切るところなんだって。


お姉さんは仲のいいお客さんにお願いして私が髪を洗う練習をさせてもらうみたい。お姉さんが髪の洗い方を教えてくれる。


 おきゃくさまー。かゆいところはないですかー。


 お客さまはとってもきもちいいよって褒めてくれた。うれしいな。お姉さんもすごく上手だよって言ってくれる。


 順番を待ってるお客さんも私にやってもらいたいって言ってくれた。お姉さんが今日はシャンプー係をしてくれって言ってくれた。がんばっちゃうぞー。


 次のお客さんだ。あれ? この人、ギルド長だ。でもギルド長の頭に髪の毛無いよ? どこを洗えばいいのかな? 髪の毛は無いけど、私に洗って欲しいんだって。


 よく分かんないけどいいよ。ギルド長はすごくうれしそうにシャンプーされてる。わたしも何だかうれしくなっちゃう。お仕事って楽しいね。


 夕方になるとパパとママが迎えに来る。あのね、今日はいっぱいお客さまのあたまをあらったんだよ。みんな喜んでくれたんだよ。パパとママはすごいねって言ってくれた。


 えへへ。もっとほめてもいいんだよ。



◇◆◇



 金鏡日。


 今日も床屋さんでお仕事だ。午後になるとお客さまがいっぱいやってきた。

 あれ? この人ギルド長だ。そして、グリフお兄さん。オリヴィアおばさんにローランドおじさん。魔道具屋さんのトラスさんも。家具屋さんのハンナお姉さん。服屋のミルキさん。パパとママもいる! 


 みんな私に頭を洗って欲しいんだって。みんなわたしのお客さま。一生懸命がんばりますからねー。


 みんなの頭を洗って、今度はパパの番だよ。じゃあ、お客さま、ここに頭をつけてくださいね。かゆいところはありませんかー。あれ? どうして泣いてるの? 目がかゆいの? 


 今度はママの番だね。ママの髪、とってもきれい。ながくってツヤツヤして。わたしは自分の緑の髪が大好き。でもママの銀色の髪もとっても好きだよ。

 どう、ママ? かゆいところはない? でもどうしてママも泣いてるんだろ? 不思議だな。


 夕方になってお店はおしまい。いつもより早く仕事が終わったんだって。グウィネお姉さんは私のおかげだって言ってくれた。パパとママは今日はオリヴィアおばさんのとこにいるんだって。みんなで晩ごはん食べようって。


 グウィネお姉さんと二人で手を繋いでオリヴィアおばさんのとこに行く。みんなが私たちのことを待っていた。


 テーブルには美味しそうな料理がたくさんのってる。あ、バクーで食べたポテトのタルトっていうお菓子がある! パパが、がんばったご褒美だよって言ってくれた。パパ、大好き! 


 抱きついてチューしちゃった。あれ? なんでみんなそんな目で見てるの? いいよ。みんなにもしてあげる! 



 ギルド長。今日も来てくれてありがと。


 トラスさん。いい魔道具をありがと。


 ハンナさん。すてきなベッドをありがと。


 オリヴィアおばさん。大好きだよ。


 ローランドおじさん。いっぱい勉強教えてね。


 グウィネお姉さん。お仕事教えてくれてありがと。


 グリフお兄さん。いつも怒られてばかりだね。


 ミルキさん。今度かわいい服を着させてね。


 ママ。一番好き。


 パパも一番好き。


 みんなにほっぺにキスをした。えへへ。



◇◆◇



 土豊日。


 今日はローランドおじさんのところで算術のお勉強。一人で生きていくには知恵が必要だっておじさんは言ってた。


 足し算は分かるかって? うん! 引き算も出来るよ! どうしてかって? あんまり思い出したくないんだけどね。


 悪い人に捕まってる時にお金の数を数えさせられたの。数が合わないといっぱい叩かれた…… 

 私のことをかわいそうに思った人もいたみたい。その人が足し算と引き算を教えてくれたんだよ。


 じゃあ、足し算を使ってたなおろしをしてみようだって。たなおろしってなんだろうね? 

 おじさんは倉庫に連れて行ってくれた。いっぱい箱があってね。箱の中にはお野菜がいっぱい。紙を渡された。これにお野菜の数を書くの? 


 えーっと。上の箱にはニンジンが二十本、次の箱もニンジン。こっちは三十五本入ってた。あ、そうか。ここで足し算をするんだね。答えは…… ニンジンが五十五本! 


 数は合ってたみたい。ローランドおじさんは怖い顔だけど笑顔で私の頭を撫でてくれる。えへへ。嬉しいな。そのままこの部屋のお野菜の数を数えてくれだって。たなおろしって数を数えることなのかな?


 お野菜の数を数え終わり、おじさんのところに行くと次は掛け算をしてみようだって。んー。掛け算ってやったことない。

 おじさんはわたしの手を握って次の倉庫に行く。わー、おじさんの手おっきいね。


 次の倉庫に行くとネギが束になっておかれてる。このお野菜好きだよ。おいしいよね。

 おじさんが説明してくれる。五本のネギが一束になってるんだって。それが棚のうえに六つ置かれてる。これを掛け算で数えるの? おじさんは紙を二枚渡してくれた。さっきの数を書く紙と、あとはあとは数字がいっぱい書いてある紙。


 数字がいっぱい書いてある紙はクク表っていうんだって。ククじゃなくて九々? よく分かんない。


 おじさんが説明してくれた通りに上の段から五を探す…… そしてそのまま下の段に行って…… あった。三十って書いてある。でもほんとかな? 足し算で数えてみよっと。


 えーと…… 五足す五足す五足す五足す五足す五足すは…… ほんとだ! 三十本だ! 


 すごいね、掛け算って。これが出来れば早くたなおろしが出来るね。じゃあ掛け算を使って数えてみてって言われた。がんばるぞー。


 全部数え終わった時はもうお昼の時間になってた。お腹ペコペコー。おじさんがパスタを持ってきてくれた。一緒に食べようだって。

 でもおじさんはすぐに食べて行っちゃった。おばさんのお手伝いに行くんだって。


 あ、そうだ。わたしも給仕のお手伝いしよーっと。食堂に行くとおばさんは忙しそうに走り回ってる。おばさんは私を見ると少しほほえんだ。


「チシャ! この料理をあそこのテーブルに持って行っておくれ!」

「うん!」


 今日の日替わりはさっき食べたパスタみたいだ。よいしょ、よいしょ。おまたせしました。日替わりです! 

 あ、あそこのテーブルのお客さまが帰るみたい。お皿持っていった方がいいかな。


 キッチンにお皿を持って行ったらおばさんに褒められちゃった。今度はあそこのテーブルのお皿を下げるの? うん、行ってくる!


 お昼の時間が終わって、ほっと一息。ふー、疲れたね。片付けが終わったらおばさんがお菓子とお茶を持ってきてくれた。がんばったからご褒美だって。

 あまーい。とってもおいしいよ。


 夕方になってパパとママが迎えに来てくれた。

 あのね、今日ね、いっぱい勉強したんだよ。掛け算がちょっと出来るようになったんだよ。ママがすごいねって言ってくれる。パパが肩車してくれた。


 見て。夕日がきれい。今日もみんなでお風呂に入ろうね。



◇◆◇



 日光日。


 今日はパパもママもお仕事はお休み。いつもよりゆっくり寝ちゃった。でもまだちょっと眠い……



 ―――コンコン



 ドアをノックする音が聞こえる。もう起きるの? あ、そうだ。寝たふりしちゃお。


 グー…… あれ? ほっぺにチュッチュッてされる。オヒゲがチクチクするよー。くすぐったい。あ、起きてたのバレちゃった。おはよ、パパ。


 顔を洗って、パジャマを脱いで。リビングに行くとおいしそうなあさごはん。パンと野菜スープと目玉焼き。あ、ソーセージもあるね。


 パンにかじりついてるとパパが話しかけてくる。え? 今日はどこか連れてってくれるの? ママも不思議そうな顔をしてる。ママもどこに行くか知らないのかな?


 ごはんを食べ終わったら、おでかけの準備。レム、行ってくるね。外に出ると……


『ヒヒィーン!』『ブルルルルッ!』


 あ、ムニンとフギンがいる! バクーで乗ってた馬車がある! お城で会ったオヒゲのおじさんもいる!


 ママがびっくりしてる。パパは少し悪そうな顔をして笑ってる。今からどこに行くんだろ? 


 なんだかワクワクしてきちゃった!

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