チシャの一週間 其の一

 月影日。


 今日はオリヴィアおばさんのところでお手伝い。パパとママが銀の乙女亭に私を送ってくれた。二人にいってらっしゃいのキスをする。二人は笑顔で仕事にいっちゃった。


「おはよう、チシャ! まずは掃除の手伝いをしておくれ!」

「うん!」


 オリヴィアおばさんにホウキを渡され、二階の客室の掃除を任された。掃除の仕方はパパから教わった。掃き掃除は丸く掃いちゃダメなんだって。そうすると角にゴミが行っちゃって取り辛くなるんだって。よくわかんない。


 これで綺麗になったかな? あれ? パパの言ったとおりだ。端っこのほうに埃が溜まっていた。丸く掃いてたのかな? ちょっとずるしちゃえ! 


 窓を開けてから、ママに教えてもらった風魔法でゴミを飛ばす。えへへ。これで綺麗になったよね。じゃあ次の部屋のお掃除だ!


 ふー、疲れた。でもこれでお掃除は終わったかな? オリヴィアおばさんに言いに行こ。


 おばさんはまだ一階のお掃除をしてる。


「もう終わったのかい!? 私なんてまだ半分も終わってないのに! 汚かったらやり直しだよ!」


 おばさんは厳しい。それはパパとママから聞いている。でも私のことが大好きだから厳しくするんだって言ってた。優しいだけじゃ愛とは言わないんだって。


 二人で部屋を見に行く。あれ? おばさんどうしたの? なんかびっくりしてる顔してる。


「埃一つ落ちてない…… さすがはライトの娘だ! すごいよ、チシャ!」


 えへへ。褒められちゃった。


「じゃあ、次は一階の掃除の手伝いをしておくれ!」

「うん!」


 今度はモップがけをするんだって。


「おばさん、魔法を使ってもいい?」

「え!? あんたもう魔法が使えんのかい!?」


 あれ? 知らなかったの? まぁいいや。私はモップの先に水魔法をかける。これで簡単にモップ掛けが出来るね。


 

 ―――スィーッ



 あはは、楽しい。あ、そうだ。モップをかけた所を風魔法で乾かさなくちゃ。


 おばさんがまたびっくりしてる。あ、でもちょっと嬉しそう。大好きなおばさんをもっと喜ばせたい! 一階の受付の掃除が終わった後、食堂も同じように掃除をした。


 夕方になるとパパ達が迎えに来てくれた。今日はここでご飯を食べていくんだって。ママがおばさんに教えたお米料理だ。カレーだ。

 ここのカレーはママが作るのよりも辛い。でもすごく美味しかった! 今度ママに作ってもらおうかな。



◇◆◇



火竜日。


 今日も銀の乙女亭でお手伝い。パパ、ママ、いってらっしゃい。


 午前中はおそうじのお手伝い。おばさんは私がいるとそうじの時間が半分になるって喜んでくれた。嬉しいな。


 お昼になると食堂が忙しくなるんだって。ここで給仕のお手伝いをするみたい。給仕ってなんだろう?


「チシャ、あそこのお客さんにこのお盆を持って行っておくれ。お待たせしました、日替わりですって言うんだよ」


 お盆には美味しそうな料理がのっている。パスタだ。そうか、給仕って料理を持って行くお仕事なんだ。お客さんはちょっと怖そうな顔のおじさんだ。怒られないかな……


「お、おまたせしました。日替わりです」


 よいしょっと。お客さんのテーブルに料理を置く。するとおじさんがこっちを見た。怖い顔……


「なんだこのチビちゃんは? おいオリヴィア、お前のとこはこんな小さい子を働かせないといけないほど儲かってないのか?」

「はは! 相変わらず皮肉屋だね、ギルド長は! うちでランチだなんて珍しい。どうしたんだい?」


 ギルド長? あ、この人パパの知り合いかも。あいさつしたほうがいいかな?


「こ、こんにちは。わたしはチシャっていいます。おじさんはパパのお友達ですか?」

「ん? そうか、君がチシャか。ライトから話は聞いている。偉いな。オリヴィアのお手伝いか?」


「うん!」


 あ、おじさん笑ってる。きゃっ。頭撫でられた。


「これからもよろしくな。嬢ちゃん。後でこれを食べな」

「あ、ありがと……ございます」


 この人顔が怖いだけで優しい人なんだ。渡された袋の中には…… 綺麗。何だろこれ?


「さっき王宮に行ってきてな。お土産に飴を貰ったんだ。ライトには秘密にしておくんだぞ?」

「あ、ありがとうございます!」


 おじさんはにっこり笑ってパスタを食べ始めた。えへへ。嬉しいな。あとで食べてみよ。


 忙しい給仕のお手伝いが終わって一休み。あ、そうだ。さっき貰った飴たべてみよ。袋の中には赤、青、緑、黄色、白。五つの色の飴が入ってる。


 どれから食べようかな。わたしの大好きな色、緑からにしよ! 口に緑色の飴を放り込む……


 甘い! おいしい! 


「あ、こら! 飴を食べた後はしっかり歯磨きをするんだよ! 虫歯になっちまうからね!」


 おばさんにちょっと怒られちゃった。


 夕方になるとママだけ迎えに来てくれた。パパはどうしたんだろ? ママに聞くとやることがあるから先に行っててだって。一緒にごはん食べたかったのにな。


 家に帰るとパパがお風呂を沸かして待っていた。


 三人でお風呂にはいった。ふー、気持ちいい。



◇◆◇



水魚日。


 今日はお城に行く日。朝早くママに起こされる。あ、おでこにチューされた。えへへ。ママ、大好き。

 ごはんを食べてから三人で手を繋いでお城に行く。いっぱい歩いたから、ちょっと疲れちゃった。


 わ、パパが抱っこしてくれた。うれしいな。将来はパパみたいな人と結婚したいな。抱っこのお礼にほっぺにチューをしてあげた。あれ? なんでちょっと泣いてるの?


 お城に着くとおひげのおじさんが出迎えてくれた。とってもえらい人なんだって。パパとママは午後に迎えに来るって言ってた。


 おじさんと手を繋いでお城に続くお庭を歩いていく。あ、お馬さんの声。ひょっとして……


「ムニン! フギン!」

『ヒヒィーン!』『ブルルルルッ!』


 二匹がいた! 私のお友達だ! ムニン、フギンは馬小屋を飛び出してこっちに向かってくる。会いたかったよ! 

 わたしは二人の顔を抱きしめる。おひげのおじさんはちょっとびっくりしてるけど、大丈夫だよ。この子達とっても優しいから。


 二匹はすごく嬉しそう。おひげのおじさんに後でまた会いにきてもいいかって聞いたら大丈夫だよって言ってくれた。

 またあとで来るからね。バイバイ。こら、泣かないの。


 お城に入ると女の子が二人待っていた。あれ? そっくり。何か魔法でも使ったのかな?


「「チシャ!」」



 ―――ガバッ ギュゥゥッ



 わっ! 二人に抱きつかれちゃった。この子達が新しいお友達なのかな? 右にいる子はゼラセ、左の子はゼノアだって。

 うーん。そっくりだから分かんなくなっちゃう。あ、そうだ。


 パパには力を使うなって言われてるけど、ちょっとだけ。目にオドを流す。


 あ、見えた。ゼラセのオドの色は赤。ゼノアは青だ。これで大丈夫だね。三人で遊ぶことになった。かくれんぼっていう遊びだった。どうやるのかな? 


 一階のこの広い場所で隠れるんだって。ゼノアが最初に見つける役をやるみたい。


 えーと、どこに隠れようかな。あ、あそこのよろいの後ろ!


「はーち、きゅーう、じゅう! もういいかーい」

「もういいよー」


 きゃー、こわい。ゼノアがこっちきた! でも私には気付かないみたい。


「ゼラセ、見ーつけた!」

「ちぇー」


 ドキドキする。私も見つかっちゃうのかな? またこっち来た!


「チシャ、見ーつけた!」


 見つかっちゃた。すっごく楽しい! 


 いっぱい遊んだあとはみんなでお勉強の時間。れいぎさほーってなんだろ? メイドさんがかわいいドレスを着せてくれた。えへへ。


 さっきのおひげのおじさんが歩き方とか礼の仕方とか教えてくれた。うーん。むずかしいよー。

 あ、ゼノア、あくびしてる。ゼラセ駄目だよ。髪の毛ばっかりいじって。ちゃんとお話し聞かないと。


 お勉強の時間はおしまい。おじさんがお茶とおかしを持ってきてくれた。ごはんの前だから一人二枚のおかし。クッキーっていうだって。


 わー、おいしい。サクサクしてとっても甘い! パパとママにも食べさせてあげたいな。おじさんに残りの一枚を持って帰っていいか聞いたら、いいよだって。


 もうすぐ帰る時間。三人でお庭にいった。みんなでムニンとフギンに乗って遊んだ。


「チシャ、楽しんでるか?」


 あ、パパの声。迎えに来てくれたのはうれしいけど、もっとあそびたいなー。でも来週も来れるんだよね。


 じゃあね、ゼラセ、ゼノア。フニンとフギンもまたね。


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