S級ギルド職員
エルフの国アヴァリから戻り、もうすぐ一月が経つ。
ギルド職員として復帰した俺の一日は朝の掃除から始まる。
メインフロアを軽く掃除した後、トイレ、玄関、食堂、リクエストがあればギルド長室も掃除する。
裏庭は草ボーボーだ。俺がいない間、誰も手入れしてなかったな。
Aランクの依頼は出ていなかったのでボランティアはお休みだ。空いた時間でギルド長がEランクの依頼を斡旋してくれる。
今日は倉庫の掃除の依頼か。
うん。分かっていたけど基本掃除しかしてないな。
プラチナギルド職員とは一体何なのだろうか……
ギルド前を掃いているとギルド長が出勤してきた。
おーおー、社長出勤ですな。羨ましいですな。もう昼ですよ。
「お? ライトじゃないか! 後で俺の部屋に来い! お前に渡したいものがある!」
「ボーナスですか!?」
「いや、もっといいものだ。楽しみにしておけ!」
「はい!」
最近の俺は頑張ってる。
獣人の国の宰相を救ったり、エルフの国を助けたり。Aランク依頼の派遣もやっているのでそこそこ名が売れたかな?
ちょっと楽しみだ。掃除が終わりギルド長室に行くとギルド長がニヤニヤしながら俺を待っていた。
「来たか! よく聞け! この度の大森林でのスタンピード鎮圧の功績が認められ、アルメリア王国からお前に栄誉を与えることになった! お前にはS級ギルド職員の資格を与える!」
ギルド長は俺の胸に青っぽいバッジをつけた。
この一連の流れを俺は知っている……
「ギルド長…… どうせこれも名ばかりの役職で、なんの意味も無いんでしょ?」
「なんだと!? バカにするな! これは国から与えられた栄誉だぞ! 俺がお前に与えた面白役職と一緒にするな!」
言ったよ!? 今確実に言った! 面白役職って言った!
やっぱ今まで遊んでたんじゃん……
でも今回は国からって言ってたよな。もしかして何かすごい特典が付いてくるのでは?
「S級ギルド職員になると、どんないい事があるんですか!?」
「国からお前個人に依頼が行く場合がある!」
「国から!? 報酬は!?」
「無い! ギルド職員の固定給のみだ!」
「他には!?」
「無い! 以上だ!」
くそがー! 変わらないどころか余計に悪化してんじゃねーか!? やる事が増えただけじゃねーか!
しょんぼりしながらギルト長に再び質問する。
「国からの依頼って具体的に何ですか?」
「んー。隠密に敵対勢力に潜入するとか、命を狙われてる要人の警護とか。使者として危険な国に政治家の代理として行くとかじゃないか?」
「全部ヤバイやつじゃないですか!?」
「いやー、すまんな。王宮にお前のこと報告したらこんなことになった。でもお前ならやれるさ! なんたってお前は五十万の魔物を倒した化け物だぞ。お前に出来ないことなんて無いだろ!?」
「なんでちょっと笑いながら言ってるんですか!? それにあれはフィオナがやったんですって! 俺は逃げ回ってただけですよ!」
「そうだっけか? まぁ今更訂正するのもめんどくさい! 心配するな、国からの依頼なんてそうあるものじゃない! その時が来るまでしっかり働くようにな!」
こうして俺は新しい役職を手に入れた。
こんなものいるか……
◇◆◇
心からいらない役職を押し付けられてから一月が経つ。
特に大きな依頼も無く平和な日々が続く。
今日はグリフ達と遊ぶ約束をしている。
今回は趣向を変えて王都北にある平原にピクニックに来た。
いつもは風呂、ダンス、酒だもんな。なんか新鮮な感じがしてワクワクしている。
グリフ達はお弁当を持ってきた。
俺達は調味料と乾燥ラーメン、簡素な調理器具を用意した。
いやー、いい天気だ。雲一つない。もうすぐ夏が来るな。
湿度の無い心地いい風が俺の頬を撫でる。でも風ではお腹は膨れない。
いい感じにお腹が減ってきたので調理開始だ。
途中で兎を一羽狩ったので俺は解体を始める。フィオナはラーメンの準備だ。
グリフ達が目を丸くして俺達を見ているな。なんでだ?
「ライト…… 本格的過ぎる。今日はただのピクニックだぞ?」
「そう?」
うーむ、一般のピクニックの楽しみ方が分からん。
外でご飯を食べる時っていつもこんな感じだからな。
「まぁそう言うな。お前たちの分もあるからさ」
俺達は兎肉のバーベキューとフィオナが作ったラーメンで昼食を摂る。
そういえばこいつらとこうしてご飯を食べるのは初めてだな。ふふ、楽しいな。
フィオナが作ってくれたラーメンは俺に初めて作ってくれたものと同じ味付けだ。
茹で野菜をたくさん乗せた塩味のラーメンだ。フィオナはこれが一番好きだと言ってたな。俺もこのラーメンが大好きだ。
どうやら俺とフィオナの味の好みは一緒らしい。俺が美味いと思うものは大抵フィオナの好物だもんな。
ご飯を食べ終え、紅茶を片手にマッタリする。ふー、幸せ。
フィオナがグリフにお代わりのお茶を淹れているところでグリフが語り始める。
なんだか真剣な顔だな。グリフらしくもない。
「俺、来月辺りに長めに休暇を取るんだ。少し旅に出るつもりだ」
「おいおい。冒険者にでもなるつもりか?」
「ちげーよ。獣人の国サヴァントに行くんだよ。グウィネの両親に挨拶をと思ってな」
「お前…… まさか!?」
グウィネに目をやると頬を染め、耳をペタンと伏せている……
「そのまさかだ。俺、グウィネと結婚するんだ……」
「なんかフラグっぽい!? 大丈夫か、それ!?」
「フラグ? なんのことだ?」
「いやすまん。なんか天の声が聞こえてきて…… そんなことより、よく決心したな! おめでとう……はまだ先か」
「そうだな。グウィネの両親に手紙は送ったんだが届くのは二週間後かな。親御さんに届く頃に出発するつもりなんだ」
往復と滞在で一ヶ月ちょっとか。こいつらがいないとちょっと寂しいな。まぁ仕方ないか。
「お前なら大丈夫さ。親御さんに気に入られるように頑張れよ!」
「もちろんだ!」
俺達は固く握手を交わす。
すると風がなびく。この匂いは……
「みんな、そろそろ帰ろう。もうすぐ雨が降る」
「雨? こんなに晴れてるのに?」
グリフは信じられないという顔をしてるが、間違いない。もうすぐ降るはずだ。
荷物をまとめ、早々に王都に帰ることにした。
◇◆◇
―――ザァァァァッ……
銀の乙女亭に着くと雨は降り始め、夜になると雨足は強くなった。少し冷えてきたな。
「んふふ。ライトさん、隣に座ってもいいですか?」
ベッドに腰かける俺の隣にフィオナが座る。ニコニコしながらそっと目を閉じる。
キスを求めてきたか。
かわいいな。俺はフィオナの顔に手を置いて優しくキスをする……つもりだったが、フィオナは深いキスをしてきた。
「ん……」
甘い吐息が漏れる。
最近フィオナは大人のキスを求めてくるので理性を保つのに必死だ。
そろそろもう一度告白しようかな。
バタンッ
突如ドアが開く!? 賊か!?
「こらー! 年中盛ってるんじゃないよ、まったく! ライト、あんたにお客さんだよ!」
オリヴィアがノックもせずに入ってくる。ほんと止めてください……
それにしてもこの時間に客人? グリフか?
一階のリビングスペースに行くとギルド長がソファーに座って紅茶を飲んでいた。
「ギルド長!? こんな時間にどうしたんですか?」
「ライト…… 明日は俺に付き合え。王宮に行くぞ。政府からの緊急依頼だ」
来たか…… いつかは来るとは思っていたが、一体何をやらされるんだろうか?
「依頼内容は?」
「獣人の国サヴァントでクーデターが発生した。調査、そして鎮圧に協力する」
獣人の国…… グリフとグウィネの笑顔が思い浮かんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます