何もない休日

 チュンチュン……


 鳥の声で目を覚まします。

 ライトさんはまだ寝ていますね。

 私はうつ伏せになり、ライトさんの顔を見つめます。


 ライトさんはいつも私の背を抱いて眠ります。

 とても嬉しいのですが、最近少し物足りないのです。

 だから時々正面を向いて眠るようになりました。


 私の目の前にはライトさんの寝顔が…… 

 んふふ。かわいいです。

 何となくいたずらをしたくなりました。

 ライトさんの鼻の頭にキスをします。


「ん……」


 ライトさんは目をギュッと瞑ったあと、私に背を向けてしまいました。 

 何故でしょう? 

 もっといたずらがしたいです。

 私は好奇心を抑えることが出来ず、ライトさんに覆いかぶさります。

 目の前にはライトさんの耳が。私は大きく口を開けて……



 がぶっ



 思わず噛んでしまいました。


「うわぁ。あれ? フィオナ、何してんの?」


 ライトさんは起きましたが、私は耳を噛み続けています。

 暖かさが胸に灯りますが、この気持ちは初めてです。喜びに近い感覚でしょうか。



 ガバッ!



 ライトさんは私を仰向けに寝かせ、私の耳を噛んできました!


「お返しだ! 喰らえ!」

「ラ、ライトさん!? ひゃあん!?」


 反撃を喰らってしまいました。

 ガジガジと私の耳を噛んできます。

 んふふ。もっとして欲しいです。


 ベッドで楽しんでいるとオリヴィアが部屋に入ってきて、私達を怒りました。

 彼女はいつも乳繰り合うなと言うが、どういうことなのでしょう。今度誰かに聞いてみますか。


 着替えを済ませ、ライトさんと二人で冒険者ギルドに向かいます。

 今日は休みなのですが、私の希望でスカウターという魔道具をギルド長から借りることになりました。


 あれは便利な道具です。人が持つ強さという不確かなものを数値化出来るのですから。

 一応私は鑑定魔法が使えます。ですが、あれで分かるのはとても曖昧なものです。

 人が持つオドの色や形を経験と推測によって判断するだけですから。


 ライトさんを例に挙げると、彼が持つオドは縁に金色の光が射していました。

 金色、これは神から愛された者が持つ色です。他にはライトさんのオドの中心には黒い点が。 

 これは呪い。アモンにつけられた呪いがオドの中に見えたのです。


 このように鑑定では、ある程度しか分かりません。

 ですがスカウターの原理が分かれば、もしかしたら……


 ギルドに到着し、二階に上がります。

 ライトさんはギルド室に入り……


「おはようございます!」

「おう! 今日は俺の部屋からか!?」


「違いますよ! 今日は休みなんですから! ほら、スカウターを借りるって約束したでしょ!? 早く貸してください!」


 ふふ、二人のやり取りは相変わらずですね。見ていてとても面白いです。思わず笑みが溢れます。

 うふふ、不思議ですね。ついこないだまで、感情を持ったことのない私がこんなにも笑えるようになるなんて。


 ギルド長からスカウターを借りて、家路に着きます。  

 帰り道はライトさんの手をしっかり握りました。


「んふふ。ライトさんの手って大きいですね」

「そう? フィオナの手は綺麗だな」


 ライトさんはそう言って、指を絡ませてきます。  

 大好きな握り方。ライトさんは恋人握りと言っていましたね。

 ふふ、私達が恋人ですか。

 私達はしっかりと手を繋いだまま、銀の乙女亭に到着しました。


 部屋に戻り、スカウターをテーブルに置きます。


「で、これをどうしたいんだ?」

「構造を理解するんです。もしかしたらステータスが分かる魔法を作れるかもしれませんから」


 私がライトさんに無理を言ってスカウターを借りてきた理由はそれなのです。

 自分だけではなく、敵のステータスが分かれば戦闘を優位に進めることが出来ますから。


 私はスカウターに手をかざすと同時に、鑑定魔法を発動しておきます。


 私のオドがスカウターに流れていく。

 するとスカウターが光り、ステータスが数値となって現れました。

 鑑定魔法を発動して一つ分かったことがあります。


 スカウターが起動している間、二つの信号が絶え間なく水晶の中で輝いていることに。

 恐らくこれがヒントでしょう。私は無心でスカウターにオドを流し続けます…… 

 何回も、何回も……


「フィオナ? そろそろ休憩しないか?」

「ん? 私はまだ大丈夫ですよ」


 そう言いましたが、ライトさんの後ろの窓から夕陽が差し込んできます。

 もうそんなに時間が経ったのですね。

 そういえばお腹が空いたかも…… 


 ですが明日は仕事なのでスカウターをギルド長に返さないといけないのです。あまり時間がありません。


「ごめんなさい。もう少し調べたいんです。お腹が空いたら、私のことは気にせずに食べに行ってください」

「分かった…… あまり無理するなよ」



 バタンッ



 ライトさんは部屋を出ていきます。

 本当は甘えたかったのですが…… しょうがないですね。

 私はスカウターにオドを流します。

 やはり二つの信号が絶え間なく輝きました。

 これはもしかして……? 


 私は急いで、紙とペンを取り出します。

 二つの信号を0と1に置き換えてみる。

 この0と1の組み合わせは…… 


 分かりました! これは二進法です! 

 調べる対象のオドを二進法に変換し、数字にして置き換えていたのです!

 この原理を使えば…… 


 私はオドを練る…… 

 練ったオドを自身に放つ。

 これを0と1に変換! 

 すると視界の中に数字が表れ……



名前:フィオナ

種族:トラベラー

年齢:???

レベル:286

HP:13421 MP:10935/20938 

STR:8703 INT:28097

能力:剣術10 槍術10 体術10 魔術10

特殊:超級魔法 神級魔法

付与効果:地母神の祝福



 出ました! 成功です!

 よかった。この魔法があればライトさんの助けにもなるでしょう。

 一日を潰した甲斐があるというものです。

 それにしても疲れました。MPという項目が減っています。

 これはつまり内包するオドのことを言っているのでしょう。鑑定を多用しましたからね。


 うー。お腹も空きました。私も食べに行こうか……と思いましたが、時計を見るともう夜の十二時です。

 食堂は閉まっているはず。

 しょうがありません。諦めて寝るとしましょう。

 ベッドに横になろうとした時……


 

 トントンッ



 ドアをノックする音が。ドアを開けるとライトさんはトレイを持って部屋に入ってきました。


 テーブルにトレイを置くライトさん。

 トレイには布がかけられ、いい匂いがします。


「ははは、その顔。お腹空いたろ? 簡単な物だけど作ってきた。食べな」


 ライトさんの言葉に胸が暖かくなります。

 布巾を取ると、そこには……


「これは…… サンドイッチですか?」

「あぁ。でもただのサンドイッチじゃないぞ。食べてごらん」


 ライトさんに促されてサンドイッチを一口。 



 ―――ガブッ



 こ、これは!?


「フリットが挟まってます! 美味しいです!」

「そうだ。豚肉のフリットだ。薄く切った豚肉をメレンゲの代わりにパン粉を付けて揚げてみたんだ。美味しいだろ?」


 美味しいです。嬉しいです。

 私は笑顔でサンドイッチを食べます。

 あっという間に無くなってしまいました。  


「んふふ。ライトさん、ごちそうさまでし…… ふぁぁ……」


 食べ終わると眠気が襲ってきます。

 思わず欠伸が……


「疲れたろ? こっちにおいで」

「え? 何をするんで…… きゃあんっ」


 ライトさんは私をベッドにうつ伏せに寝かせます。

 もしかして…… 



 ギュゥゥゥッ



 私に跨り、肩と腰の指圧を始めました!


「ひゃあん!?」

「こら、暴れないの。大人しくして」


 ライトさんは私の凝った肩を揉みほぐしていきます。

 あまりの心地よさに思わず声が出てしまいました。


「あ…… あん…… いいのぉ…… そこぉ……」

「そんな声出すなよ……」


 ラ、ライトさんが悪いんですよ。

 私を気持ち良くさせているのはライトさんなのですから。

 私のせいではありま…… 



 グリィッ



 ひぃん!? 今度は腰ぃ!?


「ん……! んー! そこぉ! だめぇー!」

「お前なぁ……」


 私の抗議の声を無視するように、ライトさんは指圧を続けます。

 私はあまりの心地よさに意識を失うように眠ってしまいました。


「はは、寝ちゃったか。俺も寝るかな……」


 ライトさんの声が聞こえます。

 いつも通り私の背を抱いて眠りにつく。

 でも寝る前に……


「フィオナ…… 大好きだよ……」


 確かに聞こえてきました。

 薄れゆく意識の中、その言葉だけは…… 

 はっきりと耳に残っています…… 



 ライトさん…… 私も……

 んふふ、まだ言いません……


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