何もない休日

 ん…… 目が覚めるとライトさんの横顔がそこにありました。

 部屋の中を見渡すと、豪華な家具に備え付けのキッチン。

 そして朝日が差し込むガラス戸の向こうには露天風呂が見えます。


 そう。私達は今岩の国バクーにいるのです。

 そしてこの部屋は首都タターウィンにある白松亭の一番いい部屋です。


 休暇を取って、もうすぐ二ヶ月が経ちます。明日には王都に戻らないと…… 

 この国にはチシャを探しに来たんだけど見つかりませんでした。


 何となく気付いていました。

 この世界はライトさんと出会った世界にそっくりだけど、何かが違います。

 たとえばサヴァントの宰相であるカイルの耳が垂れ耳だったり、グウィネの尻尾の毛の色が黒だったり。


 僅かな差だけど、前の世界とは違うのです。

 分かってしまいました。チシャは妖精の血を継いでいます。

 つまり人の因果から外れた存在なのです。


 この世界にチシャはいない。悲しみが胸を締めつけました。

 でも、いつか…… いつか必ず見つけてあげますからね……


 チシャのことを考えると涙が…… 

 駄目ですね、こんなことで泣いていては。

 気分を変えましょう。


 という訳で、寝ているライトさんにイタズラをすることにしました。


 ライトさんの上に乗ってしっかりと抱きしめます!


「うわっ。あれ? フィオナ?」


 んふふ。起きちゃいました。そしてそのまま……



 がぶっ



 耳を噛みます。


「こ、こら。痛いって」


 んふふ。ライトさんの耳を噛む度に喜びが胸から溢れ出します。

 これは私の前世の一人であるフィーネが大好きだった行為のようです。


 おかしな種族ですね。耳を噛み合うのが愛情表現の一つらしいです。


 しばらくライトさんの耳を噛み続けると、反撃が始まりました。


「もう! 悪い子だ!」

「きゃあん」


 ライトさんは私を下に寝かせ、今度は私の耳を噛んできました。


「んふふ。もっとしてください」

「ははは、懲りないな」


 ライトさんは最後に一噛みしてから私を解放します。

 あれ? もっと噛んでもいいんですよ?


「これ以上すると我慢出来なくなりそうだからね。さぁ、そろそろ起きようか」


 そうでした、ライトさんは妊娠した私を気遣って私を可愛がってくれる回数を減らしたんです。

 し過ぎるのは母体に良くないからって。


 でも実はその心配は無用。かつてイレギュラーな世界に転移した際、保護魔法を覚えてきました。

 お腹の中の赤ちゃんを守るための魔法を。


 これがあれば母体が死なない限り、赤ちゃんは無事に産まれてきます。

 でもライトさんは私の妊娠を知ってから、更に優しくなりました。

 なので私はライトさんの好意に甘えることにしました。


 ベッドを出ると、朝ごはんが用意されていました。

 軽く焼いたパンに大きなソーセージ。目玉焼きに野菜たっぷりのスープ。


「食べようか」

「はい!」


 まずはスープから…… 

 ん…… 優しい味。すごく美味しい。


「しっかり食べてな。最近つわりはどう?」

「大丈夫です。私はそんなに重くないみたいですから」


 私は何か食べられない物が増えるということはありませんでした。

 強いて言えば、量を食べられなくなったくらいでしょうか?


 なので、間食の回数が増えました。

 少ない量で一日五回の食事をする。これが私のつわり対策になりました。


 食事を終え後片付けをしてると、ライトさんが庭に出でタバコを吸っています。


 もう…… またそんなもの吸って。

 私はライトさんに向けてmaltajoaΣlta解毒を発動します。  

 それに気付いたライトさんは苦笑いをして私に手を振っていました。


 ふふ、しょうがない人。

 ふと凪とフィーネの声が頭に響きました。


(来人君ったら…… まだタバコを止められてないのね)

(ライトさん! そんなものより吸うものがあるでしょ!)


 ふふ、ライトさんの前世であるライト君もタバコを吸ってたんですね。

 二人も苦労したようです。


 タバコを吸い終わったライトさんは部屋に戻ってきました。


「ごめんごめん。ところで、今日はどうする? 外に遊びに行くか?」


 そうですね…… そうしてもいいのですが、この国の食事は私達の口に合わないのです。

 鉱夫が多いこの国では塩気の強い料理が好まれますから。


 外に食べに行くよりはライトさんとゆっくり温泉を楽しみたいです。

 それにタターウィンの温泉は乳白色の柔らかいお湯をしています。


 バクー最後の日です。しっかり温泉に浸かっておきましょう。


「今日は二人でお風呂を楽しみたいです」

「いいよ。それじゃ早速入るとしようか」


 二人でお風呂の準備をします。タオルと石鹸を持って庭に向かいます。

 少し気温が低いのかな。朝日に照らされる温泉からはもうもうと湯気が上がっていました。


 服を脱いで体を洗います。

 そうだ!


「ライトさん、洗ってあげますね」

「ほんと? それじゃお言葉に甘えて……」


 ライトさんは広い背中を向ける。私はタオルで背中を擦りながら……


 

 チュッ



 キスをしてしまいました。


「ははは、くすぐったいよ」

「だーめ。動かないでください」


 私はライトさんを洗いながらキスをし続けます。

 その後ライトさんの反撃を喰らうことになったけど……


 体を洗い終わったので、二人で温泉に入る……


 

 ―――チャプンッ



 あぁ…… 気持ちいい…… 

 やっぱりここの温泉は特別です。

 肌がツルツルしてくるのが分かりました。

 そのままライトさんに抱きつきながら温泉を楽しむことにしました。


「こら、くっつき過ぎだって」

「んふふ。いいんです」


 私はライトさんを見上げ、そしてかわいい頬にキスをしようとします。その時……



 ―――ピキッ



 ん!? いたた…… 肩に鈍い痛みが…… 


「どうした?」

 

 ライトさんは心配そうに私を見つめます。

 この痛みは……


「ごめんなさい、また肩が凝っちゃって。何だか妊娠してから肩と腰の痛みが酷いんです」

「そうか…… 風呂から出たらマッサージしてあげるけど…… 静かに出来る?」


「本当ですか!? 嬉しいです!」


 ライトさんは私の妊娠を知ってから肩を揉んでくれる回数が減りました。

 何でも私の声を聞くと興奮してしまうって言ってたけど……

 私、そんな声を出してるのでしょうか?


 でも楽しみです。ライトさんのマッサージってすごく気持ちいいんですから!


 お風呂を出て、乾いたタオルを体に巻いてベッドに横になります。


「それじゃ始めるよ」

「はい! お願いします!」


 ライトさんは私の上に乗って、まずは肩から……


 絶妙な力加減で肩を揉みほぐしていきます……


「あ…… あん…… あん…… いいのぉ……」

「フィオナ…… 声出てるって……」


 え? ほんとに? 意識せず声が出てたみたいです。

 それにしても気持ちいい…… 私は夢見心地で……!? 



 グリィッ



 ひゃあんっ!? ライトさんの指が肩に!?

 そ、そこ駄目ー!


「そこぉ! もっとぉ! す、すごひのぉ! すごひのぉ!」

「すごひって…… フィオナさん、お静かにお願いします……」


 だめ! やっぱり声が出ちゃいます! 止められません!

 でもライトさんの指は私の声が出る度に揉む力が弱くなっていきます。


 私は後ろを振り向いてから……


「はぁはぁ…… だめ…… もっとぉ…… もっとしてください……」

「ハイ…… ワカリマシタ……」


 何故か片言になったライトさんは、指を肩から腰に沿わせていく…… そして!



 グイィィッ



 腰のツボにライトさんの指が!?


「ひぃぃぃんっ!? そこぉー! もっとぉ! らめぇー!」

「…………」


 私は指圧を受け続けます! ライトさんは最後に渾身の力で私の肩を!



 ギュウゥゥゥッ



「あひぃぃぃ! すごひぃぃぃっ! あぁぁぁぁっ……」

「あのなぁ……」


 私はあまりの心地よさに意識を失ってしまってしまいました……





 




 目が覚めるとライトさんは支配人の前で土下座をしていました。どうしたのでしょうか?


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