発見
監視一日目。
月が明るく辺りを照らしている。
隠密行動には不向きな条件だ。
隣にいるフィオナが小声で話しかけてくる。
「今日は適当に切り上げましょう。この明るさで人攫いなんかやったら見つかってしまうでしょうから。相手がプロなら今日は絶対に行動を起こさないはずです」
「そうだな。なら明日は…… 可能性が高いな」
明日は雨が降る。
隠れる月明り、雨音が侵入の気配を殺す。俺は狩人の経験から明日は雨が降ることが分かった。
湿度であったり、雲の流れであったり。雨が降る前の日は独特の空気にもなる。
もう少しだけ監視を続け、俺達は早々に宿に帰ることにした。
翌日、目が覚めると雨が降っていた。
夜まで時間があるので、ギルドの一般向け掲示板を見に行く。
少しだけ高めの報酬の仕事があったので受けることにした。美術商の倉庫の掃除だ。
一時間で千オレンか。まぁまぁだな。
倉庫に行くと、現場監督らしき人が簡単な挨拶をしてから指示を出してくれる。
「はーい、じゃあ君達はこっちの倉庫をお願いね。商品の埃を払ってから布で綺麗に拭いておいて」
石膏像を布で綺麗になるまで拭き上げる。
布はすぐに真っ黒になった。
金持ちの趣味は分からん。
こんなでかい物を家においても邪魔になるだけだろ。
「ライトさん、この絵って何ですか?」
フィオナは手に取った画集を俺に見せに来た。
裸の男女が色んな格好で絡み合っている。
春画だな。って、おい!
「フィオナ! こんな物、見ちゃ駄目だ! 戻してくるから渡しなさい!」
フィオナから春画を奪い取る!
ふー、危ない危ない。トラベラーとはいえ女の子が見るものではない。
なんかこっちが恥ずかしくなるよ。
元の場所に戻す……前に少し見ておこう。
うわっ! こんな体位やる奴いるんだ!?
人間の性に対する追求ってすごいな……
「こらー! お前らさぼってると給料払わんぞ!」
怒られてしまった。
その後は黙々と作業を続ける……
夕方には仕事が終わり、給料を受け取った。
宿に帰ると早々に夕食を済ませる。
相変わらず雨は降り続いているか。
「そろそろ行こうか!」
「はい」
二日目の監視を始める。
千里眼を使えば部屋の中からでも監視は出来る。
だが咄嗟に動かねばいけない時もあると思い、屋外で監視をすることにした。
雨を避けられるよう、商店の軒先を借りる。
「やはり動きがあるとするなら今日ですね」
「あぁ……」
人通りはまばら。建物の窓から漏れる明かりのみ。
俺は千里眼を発動する。見える範囲を出来るだけ広くすると、まるで大空から地面を見ている感覚を覚える。
視界には数えきれないほどの赤い点が見えた。
子供達のオドにだけ反応する魔眼の魔法陣をフィオナに書いてもらったのだ。
そのまま二時間ほど監視を続けるが、今のところ動きは無い。
「ライトさん、飲んで下さい。温まりますよ」
「ありがと」
フィオナは温かい紅茶を出してきてくれた。嬉しいな。
火魔法で温めてくれたのだろうか。
雨に打たれ、冷えた身体に紅茶が染みる。
そのまま紅茶を楽しんでいると……
ん? 赤い点が動き始めた。
裏通りだろうか、細い道をゆっくりと移動している……
子供が出歩くには余りにも不自然な時間。
しかも未だ雨は降り続いている。間違いないだろう。
「フィオナ! 動きがあった! ここから…… くそ! 町の反対側だ!」
「行きましょう」
俺達は雨に濡れるのも構わず走り出す。
今日で終わらせてやる。
◇◆◇
しばらく魔眼で見た赤い点を追って走っていたのだが、突然反応が消えてしまった。
くそっ…… オドが消えたということは、まさか殺されてしまったということか?
反応が消えた近辺を隈なく探す。
いるとしたらここに違いない。
「ここは…… スラムですね。いるとしたら地下。スラムには下水処理として地下道があることが多いんです。環境が悪くなっても文句を言えない力の弱い人たちが住むところだから。そういった所は犯罪を犯す者の隠れ家に使われるものなんです」
スラム…… 聞いたことはあるが、初めて見た。
物乞い達が俺に奇異の視線を送ってくる。
すまん。今はあんたらを助けられない。
子供を見つけないと……
辺りを探すと倉庫の一角に地下に続く階段があり、嫌な臭いが漂ってくる。ここだな。
扉を開けると幅、高さ共に二メートルほどの通路が続いている。
中は真っ暗だ。俺は弓をしまい、ダガーを抜く。
「この狭さでは魔法は使えないでしょう。誤爆の可能性がありますし、音が響くから誘拐犯がいたらばれてしまいます。ダガーを一本貸してくれませんか?」
え? フィオナが?
魔術師としてのイメージが強いのだが……
「ダガーなんて使えるのか?」
「私達トラベラーでも得手不得手はあります。私はたまたま魔法のほうが得意だっただけですが、武器は一通り使えますよ。でもダガーなんて久しぶり。体が覚えていればいいけど……」
へー、意外だった。
俺はフィオナにダガーを渡し、地下道に降りる。
フィオナは火魔法で種火を作り、先に進む。
魔眼にオドを込めると…… あった!
赤い点が動いているのが分かる。
生きていたか。よかった……
更に反応があった方向に進んでいく。
「ライトさん、あれ……」
「あぁ……」
見張りだろうか。
短めの剣を持った二人の男が通路を塞いでいた。
ここは押し通るしかないか。
フィオナと顔を合わせると、無言で頷く。
よし、行くか……
ダッ!
と思った瞬間、一つの影が男達を切り裂く!?
ズバッ ザシュッ
「ぐぉ……」
「う……」
短い悲鳴を上げ、骸となる見張り達。
突然の光景に何が起きたのか分からなかった。
俺達の気配に気付いたのか、影はこちらを振り向く。
この姿…… 俺はこいつを知っている。
「シグ……」
「…………」
先日会ったトラベラーの剣士の姿がそこにはあった。
シグは指を口に当て、声を出すなとの仕草をしている。
どうやら目的は一緒のようだ。
彼の『仕事』はこれのことだったのか。
俺達は黙って頷き、共に先を目指す。
こんなところでなんとも頼もしい仲間に出会えたものだ。
契約はしてやらないけどな……
更に先に進むと扉があった。
このまま押し通るのは危険だ。
千里眼を使い、部屋の中を調べる。
効果範囲は十メートルほどに絞る。
すると中には男達が五人……
攫われた子供はいなかった。
部屋には先に続く扉があり、壁には逆五芒星が描かれている。
逆五芒星?
ふざけんな……
邪教かよ……
攫われた子供達は……
俺はフィオナとシグを見つめ、指で五人いることを伝える。
身体強化術を発動。
こいつらに情けはいらない。
指でカウントダウンを始める。
3……
2……
1……
バンッ!
扉を勢いよく開ける!
男達は俺達に気付く。
しかし振り向いた瞬間には俺は男の一人の目の前にいた。
人を殺すのは初めてだが躊躇は無い。
いや、人ではないな。
こいつらは俺の獲物。
そして俺は狩人だ。
獲物を狩るのにどうして躊躇することがあろうか?
ザンッ
悲鳴をあげることも出来ず、男の首が落ちる。
振り向き様にもう一人の喉に……
グサッ
ダガーを突き立てる。
ふと横を見ると……
シュパパッ
シグが自慢の剣で二人同時に男達を細切れにしているのが見えた。
綺麗だな。人を斬っているのにシグの動きに見惚れてしまった。
フィオナも一人倒したようだ。男の背後から口を押え、喉を切り裂いている。まるで
落ち着く暇は無い。
次の扉に子供はいるだろう。
逆五芒星に子供の誘拐……
考えられるのは生贄ってことだ。
そういえば女を知る前に童貞を捨てちまったな。ははは。
怒りすぎたせいか逆に頭はすっきりしている。
この先にいる奴らは皆殺しだ。
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