4088回目の転生 其の二
俺を乗せた馬車はゆっくりと王都に向かう。
子供の一人旅は危険ということで、父さん達がキャラバンに頼み込んで馬車に乗せてくれることになったのだ。
俺の向かいに座るおじさんが鞄からリンゴを取り出して俺に渡してくれる。
お? 食べてよいのかな? むふふ。子供の役得だな。
俺はお礼を言ってリンゴを頬張る。
「坊主、王都に行って何をするんだ?」
あれ? 父さん達は旅の目的は言ってなかったのかな?
「えーと…… 空間魔法を学ぶために王都に住むクロウリーっていう人に弟子入りをするんです」
「クロウリー!?」
おじさんは大声を出して俺に近付いてくる! 何か変はことを言いましたかね!?
「ど、どうしたんですか!? 大声出しちゃって!?」
「ぼ、坊主…… 悪いことは言わん。すぐに家に帰るべきだ……」
おじさんは俺の両手で俺の肩を掴んで青い顔をしている。
もしかして、すごくヤバい人なのかな?
「で、でも弟子に来る人は拒まないってお父さんが……」
「あぁ…… あの人は来るもの拒まずだ。だが弟子入りした奴のほとんどは一日で逃げ出してるって聞いたぞ。酷い時は半年は動けないほどの大怪我を負った奴もいたそうだ……」
おおう…… その話は聞いてないぞ。
しかし、そんなことで諦める俺ではない!
なんたって空間魔法を習得すれば男の浪漫の一つである瞬間移動を使えるようになるかもしれないのだから!
まぁ、本当の目的は違うんだけどね。
「坊主…… 悪いことは言わん。今なら間に合う。このままお前の村に戻ってやろうか?」
おじさん、優しいなぁ……
なんだろうか、基本的に俺の周りにいる人はいい人ばかりだ。俺はそういう人に囲まれて生きる因果律の下で生きてるのかな?
ありがとう…… 俺はおじさんの手を払いのけて……
「お気持ちは嬉しいのですが、僕は王都に行きます。そして絶対に空間魔法を習得してみせます。ご心配ありがとうございました」
ニッコリ微笑むとおじさんは諦めたように笑う。
「ははは…… こんな小さいのに、お前も男なんだな。分かったよ。王都に連れてってやる。でも無理はするんじゃねぇぞ」
おじさんは俺の頭を撫でてくれた。
大丈夫ですよ。どんなことがあっても諦めませんから。
俺はいい人に囲まれつつ旅を続ける。
道中魔物に襲われることもあったのだが、皆はそのことに気付いていない。
時空魔法でキャラバンの皆の時を止めてたからね。その間に俺が魔物を一掃した。
こうすることで余計な時間を取られず、最短で王都に到着することが出来たって訳。
王都に到着し、キャラバンの皆と別れる。
「じゃあなー! ライト、しっかり頑張るんだぞー!」
「うん! 今までありがとうございました! 行ってきまーす!」
うーむ。一週間の付き合いとはいえ、別れは辛い。とても良くしてもらった。
キャラバンは総勢百名を超えるものだったが、その全員が来る日も来る日も俺に果物だったり、お菓子の差し入れを持ってきてくれたのだ。
おかげで俺のリュックは食べ物でパンパンな訳だが……
これどうしよ。このまま腐らせるのもな…… って、そうだ! 試してみるか!
目を閉じる……
集中……
イメージする。
俺の前の空間にイメージで作ったドアを思い浮かべる。
目を開けると、空間がぐにゃりと歪んでいるのが分かる。
そこに手を入れてみると、俺の手は空間に吸い込まれる。
成功だ……
俺はリュックを降ろし、お菓子、果物をその空間に放り投げる。
むふふ。これで良し。
どうやら収納魔法で作った亜空間内部は時間が止まっているようなので、食べ物が腐るということはないようだ。
なんて便利な魔法なんだ。フィオナに教えたら喜ぶだろうな。あの子、料理好きだし。
ふふ。最初の世界で冷蔵庫を買ってあげたのを思い出す。
あの時は衝動買いをして、びっくりしたんだよな。フィオナの新しい一面を知った瞬間でもあった。
俺はほとんど空になったリュックを再び背負い、クロウリーが住んでいる所を探す。とは言ってもどこにあるのか分からない……
よし! こういう時は俺の主力能力である千里眼を使おう! むふふ。千里眼に鑑定魔法を上乗せされば……
この辺りで一番高いオドを持つ者を探す。
すると、街の中央部にある屋敷から大きなオドを持った存在を感じる。
このオドの量…… 一個人でトラベラー並みのオドを内包している。
なるほど、こういう人がいる世界なんだ。イレギュラーとカテゴライズされてもおかしくないって訳だ。
千里眼を頼りに王都を歩く。
うーむ。どの人生においても王都には来ているのだが、毎回建物が違うので迷ってしまう。
因みにグリフなどの俺に関わった人はどの世界でも存在しており、毎回俺の親友になってくれている。俺の心の支えだ。
彼らがいてくれるから何とか俺はやっていける。
感謝だな。今度は何か差し入れでも持って行ってやるか。
でもあいつ、毎回グウィネとイチャイチャしやがって…… なんかむかついてきたぞ。お土産は無しだな。
そんなしょうもないことを考えながら目的地に到着。
ここか。大きな屋敷だな。ちょっとした城ぐらいある大きさだ。
こんな豪邸に住む魔導士か…… どんな人なんだろうか?
獅子頭を模ったドアノッカーを使う。
ドンドンッ
「こんにちはー。誰かいませんかー。弟子入りに来ましたー」
『…………』
反応が無い…… オドは確実に屋敷の中から感じられる。
つまりこれは居留守を使っているということだろうな。
おのれ、来る者拒まずじゃなかったんかい。こうなったら……
可能な限りの大声で!
「うわーん! パパー! もう悪いことしないからー! ベッドの下にあるエッチな本のことママに黙っててあげるから許してよー! うわーん!」
通行人が俺に注目する!
ざわざわと話す声が聞こえてくる!
「クロウリー様にこんな小さなお子様がいたなんて…… あの人、もう八十超えてたはずだろ?」
「ひどいな…… こんな小さな子を追い出すなんて……」
「エッチな本…… クロウリー様も男なのね……」
俺はウソ泣きを続ける!
「パパー! パパー! 許してよー!」
むふふ。これを続けていればきっと……
バンッ!
扉は勢いよく開いて、中から白髪頭のひげ爺が飛び出してきた! 鬼の形相で俺を屋敷に引っ張り込む!
よし! 作戦成功!
クロウリーは俺の手を強引に引っ張りながら、応接室らしき部屋に行き……
ボフッ
俺をソファーに放り投げやがった!? こら! 子供なんだから、もっと優しく扱いなさい!
「お主…… 一体何を考えとるんじゃ!?」
「いやー、だってドアを開けてくれないんですもん。ああするしかないじゃないですか?」
「なんでちょっと笑っとるんじゃ…… このいたずら小僧が!」
「小僧ではありません。僕はライトって言います。あなたの噂を聞きまして…… 弟子については来る者拒まずなんですよね?」
クロウリーはなんだかぐぬぬって感じで悔しそうにしている。
あらら。怒らせちゃったかな? でもここで引き下がる俺ではない。
「僕はあなたの弟子にしてもらうためにここに来ました。どうかお願いします」
まっすぐクロウリーの目を見てお願いする。
すると後ろから声が聞こえてきた。若い女の声だ。
「どうしたの、おじいちゃん? そんな小さな子を家の中にいれるなんて」
後ろを見ると十五歳くらいだろうか、ちょっと生意気そうな金髪のツインテールのかわい子ちゃんが立っていた。
「ふん。例によってまた弟子入り希望者じゃ。全く…… めんどくさいったらないわい。
おい、小僧! 確かにわしは弟子入り希望者は誰でも受け入れる! じゃがな、弟子になるにはまず、やってもらわなくちゃいかんことがある!」
うーむ。なんだかめんどくさい方向に話がいっているような気がするぞ。
何をやらされることやら。
「いいですよ。僕は何だって乗り越えてみせますから」
ちょっとクロウリーはイライラしているのが伺える。挑発してるつもりはないんだけどね。
「口の減らんガキじゃな! では弟子入りの条件として……」
さぁ、何を言われることやら。クロウリーは勢いよくセシルを指差して……
「セシルと戦ってもらう! そしてセシルに勝ったらわしの弟子をして認めよう!」
あらら。いきなりバトル展開になってしまったな。
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