4088回目の転生 其の三

 俺は空間魔法を習得すべく、王都に住んでいる魔導師クロウリー宅にいる。

 なんと弟子入りの条件としてクロウリーの孫娘であるセシルなる少女と戦うことになってしまった訳だが。


 そういえばキャラバンのおじさんが言ってたな。弟子をとってもすぐに逃げ出したり、大怪我を負った人もいたって。

 つまり、この子がやったってことなのか?


 セシルは金髪のツインテールのかわい子ちゃん。

 もうすぐ成人を迎える年なのかな? ちょっと生意気そうな顔付きをしている。

 おじさん、ツンツンした子も大好きよ。


 なんてアホなことを考える。

 まぁ、噂に名高い魔導士の孫なんだ。さぞかし強いに違いない。セシルは俺を一瞥してから一言。


「ついてきなさい」


 ぷいって振り向いて、すたすたと部屋を出るセシル。俺はセシルの後を追うことにした。


 セシルを追い廊下を歩く。

 両端には様々な調度品が飾られていた。宝石であったり、魔道具であったり。なんだかよく分からない絵も飾られてた。

 長いこと生きてはいるのだが、こういった趣味は未だに分からん。


 廊下を抜け、セシルはドアを開ける。

 屋敷の中央は吹き抜けになっており、そこを中庭として使っているようだ。中々広い。

 一辺が十メートルある正方形ってところかな。もしかしてここで俺の弟子入りの試験をするのか?


 セシルは俺と距離を取る。すると……



 グニャリ……



 セシルの隣の空間が僅かに歪むのが見えてから…… 

 突如空間が割れ、クロウリーが出てきた! 


 すごい! これが空間魔法か! 任意で望んだ場所に転移することが出来るみたいだな。

 やはりこの魔法は是非覚えたい! もちろん男の浪漫を叶えるっていう目的もあるのだが、一番の目的は違う。

 この魔法を使えば……


「それでは試験を開始する。ライトよ、わしに弟子入りしたければセシルから一本取ってみよ!」


 俺の考えを遮るようにクロウリーが試験内容を説明してくる。

 一本か。とりあえず負かせばいいんだろ? 


「おじいちゃん…… 私、手加減下手だよ。もしかしたらこの子を殺しちゃうかも」

「構わん。死んだとしてもわしらのせいではない」


 おいおい、表情も変えずに何怖いこと言ってんだよ。

 ま、そんなことが無いように俺もある程度全力で行かせてもらうけどね。



 ―――スッ



 俺は正中線を横にする。急所をなるべくセシルの前に晒さない構えをとった。


「ほう? 武道を嗜んでおるな。セシル、手加減はいらん。全力で行け」

「全力? そんなことしたら……」


「いいから全力じゃ。さもないとお前が負けるぞ?」


 お? なんかいけ好かない爺かと思ったけど、俺の強さに気付いてくれたか。

 セシルは渋々ながらも、俺と対峙する。

 さぁいつでもかかって来なさい!


 一応セシルを分析しておくか。目にマナを送る。そして分析を発動!



名前:セシル トロンハイム

種族:ハイヒューマン

年齢:15

レベル:253

HP:9982 MP:22001 STR:5072 INT:18206

能力:体術10 魔術10

特殊:空間魔法



 へぇ。かなり強いな。トラベラー並の強さだ。これは油断出来ないな。

 一応俺のステータスも確認しておくか。自分に向けて分析発動!



名前:ライト

種族:ハイヒューマン

年齢:5

レベル:152

HP:2565 MP:99999 STR:3941 INT:99999

能力:双剣術10 弓術10 体術10 身体強化術10 魔術10 

特殊1:マナの剣 マナの矢 千里眼 魔眼 理合い 分析

特殊2:混成魔法 超級魔法 神級魔法(黒洞)

特殊3:時空魔法

付与効果:地母神の加護 地母神の祝福 



 こんなもんか。HPとSTRは転生の度にリセットされるみたいだが、MPとINTはカンストしてるな。

 久しぶりに自分のステータスを確認した気がする。まぁステータスなんてものは強さを計る要因の一つに過ぎない。

 それをセシルに教えてやるとするか。


 手の平を上にして、くいくいってセシルを誘う。乗ってくるかな?


「馬鹿にして……」


 セシルが構えをとった瞬間……



 グニャリッ



 彼女の前の空間が歪んで……



 フッ



 セシルが消えた? 一瞬でその場からいなくなった……


  

 ―――ゾクッ



 殺気を感じた。声がする。

 俺の耳元で……


「後ろだよ」


 全身の毛が逆立つ!? しまった! クロウリーの孫なら空間魔法も使えるはずだ!



 ドスッ



 俺は避けることも出来ずにセシルの全力の手刀を首に喰らって……












「終わったよ。口ほどにもない」

「ははは、そう言うな。でもこれで厄介払いは出来たな。セシル、ご苦労じゃった」


「でもこの子どうするの? もしかしたら死んでるかも」

「そうじゃな。もう少し出来る奴かと思ったんじゃが、ただのこけおどしじゃったか……」


 おいおい、ずいぶんと酷いこと言ってくれるじゃないの。

 俺は立ち上がって服に付いた埃を掃い……


「いてて。失礼。油断してしまいました。はは、流石大魔道師のお孫さんですね。一本取られましたよ」

「「…………」」


 笑顔でセシルを称賛する……のだが、どうした? そんなびっくりした顔しちゃって。


「ちょっとあなた…… どんな体してるのよ…… 私、殺す気であなたを攻撃したのに……」


 まぁたしかに痛かったけど、そんなにダメージは負ってないのは確かだな。それにちょっとズルもしてるし。


「はは、すいません。戦いの前に身体強化術を発動しましたので。おかげであまり痛くありませんでした」


 首をコキコキと鳴らす。クロウリーは開いた口が塞がらないようだ。


「身体強化術じゃと!? そんな…… 失われた奥義の使い手じゃと!?」


 ん? この世界では身体強化術はないのか? どの世界でも割りと一般的な技術だったぞ。

 高速回転を使える人はほとんど見かけなかったけどね。


「はい。身体強化術を使いましたのでダメージはありません。どうでしょう? 攻撃は喰らいましたが、僕は無傷に等しい。もう少し試験を続けさせてくれませんか?」


 俺は笑顔で提案する。セシルの顔が怒りで歪んだ。

 そんな怒んないでよ。僕泣いちゃうよ。なんちゃって。


「殺す……!」


 セシルが突っ込んでくる! 先ほどと同じように突如その姿を消して…… また後ろかな? でもね……



 ガシッ



 俺は後ろを振り向くことなくセシルの手刀、いや貫手を受け止める。

 おいおい、貫手かよ。完全に殺しに来てんじゃねぇか…… 

 悪い子だな。そんな子はお仕置きだよ!


「そんな…… 完全に死角を取ったのに……」


 むふふ。見えてるんだな、これが。

 なんたって俺は千里眼の使い手でもある。視界は三百六十度。死角なんて存在しないのだ! 

 本当は千里眼を使うまでもないんだけどね。だって今のセシルって殺気丸出しだもん。

 戦いにおいて冷静さを失った者に勝利はないんだよ。


 そのことを教えてあげなくちゃね! 


 再びいつもの構えを取る。そして……


「来なよ」


 手の平を上にして、くいくいって挑発する。

 はは、さっきはこれをやって一本とられちゃったんだけどね。


「…………」


 セシルは何も言わずに突っ込んでくる。そしてまた突如その姿を消した。

 さすがに馬鹿の一つ覚えみたいに後ろに現れることはない。

 現れたのは…… 目の前だ。


 超至近距離。彼女は既に攻撃態勢に入っている。人差し指、中指を立て俺の顔目掛け…… 

 っておい、目潰しかよ。かわいい顔してエグイ攻撃してくるね。


 俺はセシルの攻撃が当たる瞬間に彼女の手に俺の手を添える。俺の得意技の一つ。


 理合いだ。



 スッ…… クルンッ



 セシルの攻撃を上方に逸らす。そして勢いが死なないうちに円を描くように力を流す。

 彼女はその勢いに逆らえない。綺麗に一回転して、背中から地面に叩きつけられた。



 ドスンッ!



「ぎゃうっ!?」


 かわいい顔からは想像もつかないような悲鳴を上げる。これでまともに息も出来ないだろう。

 起き上がるなよ。これ以上は君に怪我をさせてしまう。


 その期待はあっさり裏切られる。起き上がってゆっくりと俺に向かってくる。今まで以上の殺気を放ちながら…… 

 ま、分かってたことだけどね。勝気で生意気そうなセシルのことだ。納得するまで戦い続けるだろう。


 うーむ。どうするかな。この子に負けを認めさせるには。

 セシルは息も絶え絶えになりながらも俺に向かってくる。


 しょうがない。俺はセシルを指差してから一言。



【止まれ】

「…………」



 俺の時空魔法だ。セシルは石像になったように一切の動きを止めた。

 クロウリーは心配そうにセシルに近付いて……


「こ、これは……! まさか時空魔法か!?」

「はい。彼女の体内時間を完全に止めました。魔法を解除するまで彼女は動けません。どうでしょう。これって僕の勝ちでいいですかね?」


「お主…… 一体何者なんじゃ? 身体強化術に時空魔法…… それに武術に関しても見たことの無い技を使いよった……」


 うーん、正直に言ったほうがいいかな? この人にはこれから空間魔法の奥義を教えてもらうことになるんだし。

 とりあえず邪魔はされたくないのでセシルはそのままにしておいた。


「正直に言います。僕は…… 転生してこの世界に来ました」

「転生者じゃと!? そんな馬鹿な…… しかし、その技術と魔法…… お主の言っていることは本当なのか!?」


 クロウリーは孫を守るように身構える。いやいや、危害を加える気はありませんて。


「ご安心を。僕はこの世界に来たのは皆を害する為ではありません。ただ妻を探すためだけに転生しているだけなんですから」

「妻を? 詳しく聞こうか……?」


「はい、喜んで」


 クロウリーは構えを解く。



 俺は彼に今までの全てを話し始めた。

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