21033回目の転生 其の一

 目が覚める…… 

 あれ? この場所は意識の中だ。

 普通、目が覚める時は目の前にトラベラーがいるはずなのに。


 意識の中か。いつもだったらレイが俺を起こしにくるのだが。

 レイはどこにいるのだろうか。暗闇の中、レイを探して彷徨い歩く。


 レイー。どこだー。


『ライト…… ここだよ……』


 声のする方向を見てみると…… レイが倒れていた!


 おい! 大丈夫か!?


 レイを抱き起す。顔色が悪いな。一体どうしたんだ?


『ごめんね…… なんか気持ち悪くなっちゃって。本当だったら君を起こさなくちゃいけないのに』


 気にするなよ。でも俺が起きるってことはイレギュラーな世界ってことか?


『うん…… でも今回の世界はよく分からないんだ。前の世界によく似た世界かもしれない。オドとマナの流れがあまり感じられないんだ』


 オドとマナが……


『だから君にとって有用な世界ではないかもしれない。どうする? そのまま眠っていてもいいよ?』


 いや、今回は一から転生するよ。むしろ今はお前が眠ってろ。具合悪いんだろ?


『あはは、ありがとね。実は起きるのが辛いんだ。今回はお言葉に甘えて寝てることにするね』


 そうしてくれ。それとさ、この転生って何回目になるんだ?


『21033回目だよ』


 そんなにか…… 悪いな、俺は二万回以上もお前に両親の死を見させてるってことだよな。


『気にしないで。これは僕が望んでやっていることなんだから。それじゃ、僕は休ませてもらうね……』


 そう言ってレイは暗闇に消える。


 光が俺に向かって天から降りてくる。


 さぁ、今回はどんな世界なんだろうか……?











 俺が新しい世界に転生して十五年が経つ。さて今回の世界はというと……


 未だに分からないのだ。

 レイが言ったように魔法があまり発達した世界ではなかった。かといって前回のような身体能力に優れた世界でもない。


 全く特色のない世界なのだ。

 うーむ。イレギュラー感がない。

 レイは疲れてたからな。間違えて俺を起こしてしまったのかもしれん。


 この十五年間色々とこの世界を探ってみたのだが、何も見つけられなかった。

 しょうがないので親の手伝いをしながら魔物を倒す日々が続く。


 今の俺は自分で言うのはなんだが、かなり強い。

 因果律のせいでいつも両親と友人を失うことになるが、それさえなければ代行者なら左手一本で倒す自信がある。

 そりゃ四十万年以上も魔物からオドを取り続けているからな。


 今日もやることがないので森に狩りに出かけた。家族で食べる分だけの獲物を獲って家に帰る。

 今日の獲物は大型のコカトリスだ。二十メートルはあるな。

 放置しておけば村に害を及ぼすと判断したので一発ぶん殴って倒してしまった。


 適当に解体してから食べきれない分は収納魔法で亜空間に保管する。

 目方五キロぐらいある肉を持って家に帰る。

 今日は美味しいチキンステーキが食べられそうだ。



◇◆◇



「ごちそうさまでした」

「ふふ。おそまつ様。ライトはいっぱい食べるわね」


 母さんは笑顔で応える。この世界の両親は人族だった。

 この世界に習い、特に魔法が得意というわけではない二人だが、俺への愛は相変わらずだ。


 母さんが俺にお茶を入れてくれる。あちち。

 ふーふーと冷ましながらお茶を飲んでいると母さんが俺の前に座る。


「ねぇ、ライト。今年であなた十五歳になるでしょ? そろそろどこの大学に行くのか決めておきなさいね」


 ん? 大学? なんじゃそりゃ?


「母さん、大学ってなに?」

「ライト…… まさかあなた大学を知らないの?」


 母さんは驚きの表情で俺を見ているのだが…… 

 そんなびっくりすることだろうか。だって初めて聞く単語だし。


「ごめんね…… 当たり前過ぎて説明してなかったかも…… 十五歳になったら親元を離れて大学っていうところで学問を学ぶのよ。友達とか言ってなかった?」


 あー…… そういえば、ノアが言ってたかも。どこの大学行くんだって。

 何のことか分からなかったから聞き流しちゃったんだよな。


 学問か。これがこの世界がイレギュラーたる所以なんだろうな。

 学問の発達した世界ってとこか。


 それにしても学問ねぇ。これが俺にとってどう役に立つか分からん。

 でも前回も期待はしてなかったが並列思考とホムンクルスの作り方を習得することが出来たしな。

 やってみるか……


「母さん。俺、一番いい大学に行ってみたい!」


 と俺の言葉を聞いた母さんはちょっと悲しそうな顔をする。


「ごめんね…… 家にはその大学に入学させるだけの余裕が無くって…… 一番いい大学はね、王都にあるウェテナ大学ね。でも入学金に五百万オレンかかるのよ……」


 おおう、お高い…… 一応この世界でも父さんは村長をしているのだが、収入は一般家庭と変わらない。

 うーむ、出来れば一流どころで学んでみたいのだが。

 でも家に無理をさせて学ぶ必要も無いかもしれないな。


 その旨を母さんに伝えようとすると……


「父さんにも相談してみましょう。もしかしたら何かいい方法があるかもしれないし……」


 そうだな。一番最初の世界でも父さんは出来のいい子に王都への留学支援なども行っていたはずだ。何かいい案をお持ちかもしれん。


 夜になり父さんが帰って来る。

 皆で食事を終え、団らんしているところに母さんが俺の大学について話し始める。

 父さんは難しい顔をしてから一言……


「一芸入試しかないな」


 一芸入試? 何か芸をすれば入学させてくれるのかな? 


「一芸入試とはな…… 何か大学にとって有効な能力を示すんだ。例えば、強い魔法とか、高い身体能力とかな。でもそれは世に言われる天才が持つ能力だ。普通であるライトにそれが出来るはずが……」


 何を仰るお父さん! こちとら四十万年以上生きている転生者ですぜ! その手の能力でしたら自信があります!

 でも父さんが心配するのも無理ないか。二人の前では極力普通の息子として振る舞ってきたもんな。


 だがしかし…… 大学なるところに無料で入るには俺の能力を発揮する必要がある訳だ。やってみるか。

 意を決して…… 


「父さん、母さん。俺、王都に行ってみるよ。一芸入試ってやつを試してみる」

「でもお前…… 何か得意なことがあったか? 弓は得意なのは知っているが……」


 心配そうな顔で俺を見つめる。

 そうだな。まずは父さんと母さんを安心させてあげなくちゃ。


 俺は台所からクルミを持ってくる。それを親指と人差し指で軽く摘まんで……



 ―――メキメキッ



 二人の目の前でクルミを潰す。身体強化術は発動していない。地力のみでクルミを潰した。

 父さんは開いた口が塞がらないようだ。

 そりゃそうだよな。十五年普通の息子として接してきた俺がバケモノみたいな腕力の持ち主だって知ったらそうなるわな。


「その力…… お前どこで鍛えたんだ?」

「ちょっと隠れてトレーニングをね。父さん、これなら一芸入試に見合うと思う?」


「あ、あぁ…… 多分な。でも気を付けるんだぞ。一芸入試を狙って全国から腕自慢、魔法自慢の猛者が集まると聞いている。荒くれ者も多いそうだ。やってみる価値はあるだろうが怪我をしないようにな……」




 その二週間後…… 


 俺は王都に向けて旅立つ。ウェテナ大学に一芸入試を受けに行くために。


 父さんと母さんが村外れまで見送りに来てくれた。


「ライト、頑張るのよ! 受験に失敗しても、また来年があるからね!」

「そうだぞ! 怪我だけはしないようにな!」


 ははは、そんな心配しなさんな。むしろ俺が相手に怪我させないかが心配だよ。


 大学か…… そこには一体どのような可能性が眠っているのだろう。



 俺は期待を胸に王都に向かって歩き出した。


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