21033回目の転生 其の二

 さて俺は大学なるところに入学を果たすため、この世界の王都にやってきた。

 王都は多くの若者で賑わっている。みんな大学に入学するために来たのかな?


 最初の世界にも学校というものはあった。

 だがそれは簡単な四則計算だったり、異国の文字を覚えたりする程度で専門的に何かを学ぶという施設はなかったのだ。

 魔術研究とかは宮廷魔術師の仕事だったしな。


 真面目そうな若者に交じって明らかに雰囲気の違う者の姿を見かける。

 身長二メートルを超える筋骨隆々の獣人とか、立派な杖を持った魔術師風の女の子とか。彼らが一芸入試を狙っている者達だろうか?


 試験は明日だ。今日は試験会場の視察を行うとするかな。


 どこで試験を行うのだろう。あそこで露店を開いているおっちゃんに聞いてみるか。

 俺は露店に近づいて…… ついでだ。ここで腹ごなしもしておこう。何を売っているのかな? 

 どうやらこの露店ではパンに肉を挟んだ物を売っているようだ。すごく美味しそう。


「おじさん、これ一つちょうだい」

「おう! 一つ三百オレンだ。美味いぞ!」


 俺は金を支払い、料理を受け取る。肉の焼ける香ばしい匂いが食欲をそそる。


 

 ―――ガブッ



 美味い! このまま十個は食べれそうだ! なんか不思議だな。こんな料理食べたことないのに、何故か懐かしい感じもする。

 いかんいかん、俺は情報収集をしにきたんだった。


「ねぇ、おじさん。俺さ、大学の試験を受けに来たんだけど、ウェルテ大学の試験てどこでやるの?」

「お前、ウェルテ大の入学希望者だったのか? そんなに頭良さそうに見えないけどな。それに金持ちにも見えん」


 ひどいっす。これでも四十万年分の知識はあるんですよ! 

 まぁ、おじさんにそんなことを言っても始まらん。おじさんはガハガハ笑いながら説明を続ける。


「ウェルテ第は王都北の端っこだ。ここからはかなり遠いぞ。行くなら乗合馬車を使うんだぞ」


 王都北か。ちょっと行ってみるかな。


「分かった! おじさん、ありがとね!」

「おう! 受験頑張れよ! まぁ、失敗したら俺が慰めてやるよ。このハンバーガーを一個奢ってやるからな!」


 なるほど、この料理はハンバーガーというのか。覚えておこう。


「はは、大丈夫だよ。受かってからまたお金を払って食べに来るから。それにしてもこのハンバーガーってのは美味いね。おじさんのオリジナル?」

「いいや。俺の先祖がトラベラーの女に作り方を教わってな。それから代々この味を受け継いでいるのさ」


 へー。トラベラーがねぇ。はは、まるでフィオナみたいだな。もしかしてフィオナもこの世界に来たことがあるのかもな? 

 でもこの人の先祖が教えてもらったってことは俺が産まれる前だもんな。きっと別のトラベラーだろう。


「じゃあ行ってくるよ! ごちそう様!」

「おう! また来いよ!」


 俺はおじさんと別れ、路地裏に。

 あまり目立ちたくないのでここで身体強化術を発動する。


 全身の筋肉が膨張するのを感じる。

 さて、ここから徒歩で二時間。今の俺なら五分で着くな。

 全力ダッシュで王都北を目指すことにした。



◇◆◇



 王都北に到着。周りには商業区とは違い、落ち着いて雰囲気が流れている。

 通り過ぎる若者の手には本が握られており、難しそうな内容の会話を繰り広げている。

 さて大学を探すとするか。五分程散策すると、それらしき建物を見つけた。


 大きいな。まるで神殿のようだ。多くの支柱で囲まれている白亜の神殿。その形容がぴったりだった。

 支柱の一本に多くの若者が集まってるな。何があるのだろうか。

 俺も見てみようと人混みの中に入る。どれどれ?


 支柱には張り紙が張ってある。何が書いてあるのかな?



(一芸入試のお知らせ。一芸入試は三日間、三部制で行われる。一次試験は体力、もしくは魔力測定。定員を二十名とする。二次試験は持ちうる能力を使い、ダマスカス鋼の試し割りをしてもらう。定員は無く、成功した者は全員合格とする。三次試験は合格者同士で摸擬戦を行い、勝者を合格者とする)



 来たっ! これはもう俺の合格が決まったみたいなもんだ。

 むふふ。これで無料で大学に入学出来るぜ。

 さて、現場も確認したことだし、後は帰るだけ…… 


 ん? あれは……


 人混みの中から一人の少女の後ろ姿を見かけた。


 特徴的な子だった。


 実年齢は俺と一緒ぐらいだろうか。


 その子は銀髪のおさげをしていた。


 銀髪の髪。とても珍しい色だ。いや、その髪の色をした人は数多の世界を旅した俺でさえ一度しか見たことがない。


 フィオナ……


 少女の後ろ姿に愛しい人の雰囲気を感じた。


 俺は人混みをかき分け……


「悪いっ! どいてくれ!」

「うわっ!? 何だよ!」

「痛ッ! 足を踏まないでよ!」


 すまない! 俺は支柱に集まる受験生を押しのけ、少女がいた場所に辿り着いたのだが……

 少女はいなかった。

 なんだろうか、胸がドキドキする。さっきの少女と話がしてみたい。


 俺はオドを目に流し込み千里眼を発動する。

 周囲一キロに渡り、銀髪の少女の姿を探す。

 だが、彼女の姿は無かった。あの子は一体……



 ―――ゴーン ゴーン ゴーン



 鐘が鳴る。夕刻を知らせる鐘だ。もうそんな時間か。

 少女を探したい気持ちもあるが……

 俺はその場を離れることにした。

 試験は明日だし、今日泊まる宿を決めなくてはいけない。


 適当な宿を見つけ、チェックインする。

 部屋に案内された俺は備え付けのベッドに横になった。

 考えてしまう。さっき見た少女が瞼に焼き付いて離れないんだ。


 会いたい…… 


 はは、何考えてんだ俺は。

 フィオナに会うために二万回以上も転生を繰り返してきたんじゃないか。今更他の女のことなんて……


 だが、もしかしたら…… 彼女も受験者なのかもしれない。

 そしたらもう一度会えるかも……


 いかんいかん! 俺はフィオナに操を立てたはずだ! そんなこと考えるな!


 モヤモヤする想いの中、俺は毛布を被る。

 もう寝よう…… 明日は入学試験だ……











『ライトさん。起きてください』


 あれ? フィオナの声がする……


 ここはどこだ?


 気怠い体を起こして目を開ける。


 見たこともない部屋だ。


 見たことも無い家具に、見たこともないベッド。


 だけどベッドの上には…… フィオナが微笑みながら俺を見つめていた。


『ライトさん、女の子ですよ』


 笑顔で俺に話しかけてくる。その腕には産まれたばかりの赤ん坊を抱いて……


『抱いてあげてください』


 一体これは……?


 ははは…… 夢か……


 なんて幸せな夢なんだ。


 フィオナがいて、彼女は子供を産んで……


 俺の子か……


 俺は赤ん坊を受け取ろうと手を伸ばす。


 でも何故か俺は二人に近付くことが出来なかった。


『ライトさん……』


 フィオナは悲しそうな顔をする。


 大丈夫だよ。きっと会える。だから……


 もうちょっと待っててな……


 二人の姿は消え、辺りは暗闇に包まれる……














「ほらっ! 起きな!」


 うおぅ!? 耳元で大声を出された! 誰だ!?

 目を開けるとそこには宿屋の女将さんが立っていた。


「あんた、今日はウェルテ大学の入試があるんだろ! さっさと起きな! 遅刻したら試験は受けられないよ!」


 え? 試験? 何のこ…… やばい! 遅刻する!

 俺は取る物も取らず、部屋を飛び出す! 

 女将さんが声をかける! なんだよ! 急いでるのに!


「試験は一日かかるよ! 弁当を用意しておいたから持ってきな!」


 女将さんは弁当を投げ渡す! 

 ははは! 豪快だね! あんたみたいな人に昔、お世話になったよ!


「ありがと! 行ってくるね!」

「あぁ! がんばっといで!」


 俺は弁当だけ持って受験会場に走る! 

 身体強化術を使えば五分で着くな!

 更にズルをするか! 俺は体にマナを取り込む! 

 この世界に向かい魔法を放つ!



【止まれ!】



 ―――シンッ



 辺りから一切の音が消える。無音の世界だ。


 雲も、風も、人も、野良犬も、一切の動きを止める。


 俺は時空魔法を発動し世界の時間を止めた。

 師匠にはこの魔法は私利私欲のために使ってはいけないと言われたが、少しならいいよね?

 むふふ。これで俺の遅刻は無くなったな。

 余裕もあることだしちょっとゆっくり行く……



 ―――シュッ



 ふと上空に何かが移動する音が聞こえる?

 上を見ると屋根を移動する人影が……


 そんな馬鹿な!? この魔法をレジスト出来る奴がいるなんて!

 いや、ここはイレギュラーな世界。

 もしかしたら、俺の想像もつかない何かがいてもおかしくない。

 俺は警戒しながら受験会場へと向かう。



 そこに彼女がいるとは知らずに……


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