銀髪の少女
受験会場に到着した。そこには多くの若者でごった返している。
が、皆ピクリとも動かない。
あぁ、しまった。時空魔法を解除するのを忘れてたわ。俺は天を仰ぎ一言。
【時は動き出す】
―――ザワザワッ
するとその場にいる人は動きだし、喧噪が聞こえ始める。
真面目そうな若者は大学の中に入っていく。がんばれよ、未来の学友達よ。
この場に残っているのは学生になろうというには少々ごつい奴らだ。皆一芸入試狙いだな?
大学前に残る俺達に職員だろうか、拡声器でアナウンスをする声が聞こえる。
『お集まりのみなさーん! 間もなく受験開始となりまーす! 受付は大学構内の運動場になりますので、職員について来てくださーい!』
ほう、運動場でか。さて、一体何をやらされるのかな?
たしか三部制で行われるんだったよな。最初は体力測定的なやつだったな。
先導する職員についていく。ぞろぞろと職員の後を歩いていくのだが……
ギュウゥッ
いたた。途中で足を踏まれた。踏んだのは体の大きな人族の青年か。二メートルはあるな。
体はでかいが、あまり頭の良さそうな感じではない。髪型はモヒカン、肩にはトゲトゲの肩当てを装備している。どう考えてもかませ犬だな。
まぁ、気付かず踏んだなら許してやろう。間違いは誰だってあるし……
俺の足を踏んだソイツは俺の顔を見てにやりと笑う。
うん。わざとだね。これは年長者として一言言ってやらないといかんな。
「おい、お前。今わざと俺の足踏んだろ? 謝れよ」
「うはは。すまねぇな。お前が小さすぎて見えなかったわ」
小さいだと? お前がでかすぎるだけだよ。おのれ、全く謝罪になってないぞ。
まぁいい。どうせこの手合いは一次試験で消えることになる。
一睨みしてそいつとは距離を取る……つもりだったのだが。
「おい! 謝ってんじゃねぇか! 無視すんじゃねぇよ!」
声を荒げて俺の肩に掴みかかる。うわ、めんどくさいやつだな。
しょうがない。俺はそいつに向かって一言。
【転移】
―――シュンッ
俺は世紀末君に転移魔法を放つ。モヒカンヘッドは霧のようにその場からいなくなった。
因みに俺の周りにいる受験生は時空魔法で動きを止めてある。むふふ。これで完全犯罪の出来上がりだ。
まぁ、かませ犬君は死んでないからね。王都の南の端っこに転移させただけだから。
小さいトラブルを解決しつつ先に進む。進う先には開けた場所が。これが運動場か。
そこには受付のテーブルがあり、運動場には不自然な感じで三メートル程度の大岩が数個置かれている。
『では受験生のみなさーん。受付開始となりまーす。試験内容は受付時にお聞きくださーい』
それを聞いた受験生は受付に並び始める。受付は二種類あり、一つは魔法無し、もう一つは魔法有りと書かれている。
ははーん。何となく分かったぞ。自分の得意な方であの大岩を破壊するんだな?
俺はどっちにしようかな。
今の俺は超級魔法ぐらいなら無詠唱で使える。あの程度の大岩を砕くぐらいお茶の子さいさいなのだが。
あんまり派手にやって悪目立ちするのもねぇ……
ここは魔法無しの方を並ぶか。
十分ほど受付に並んでいると俺の番が来た。受付で出された受験用紙に必要箇所を記入して……
受付に提出すると、試験の説明をしてくれてた。
「この度はウェルテ大学の受験にお越しいただきありがとうございます。ライトさんは一芸入試で受験される訳ですが、一次試験はあの大岩を……」
「ぶっ壊せばいいんですよね! はい、分かりました!」
受付はポカーンとした顔で俺を見ているのだが……
何か変なことを言っただろうか?
「ま、まぁそれが出来るとは思えませんが…… 出来るならやってもいいですよ。でも本来は大岩を動かせた距離で優劣を競うだけですので……」
マジで!? そんな簡単なことでいいの!? 楽勝過ぎるな。
ちょっと拍子抜けしちゃったな。俺は順番が来るまで他の受験生の考査を眺めて待つことにした。
運動場では筋骨隆々の犬獣人が大岩にガブリ寄って渾身の力で押している。
ダメダメ! 自分より重い物を動かすなら大地の力を利用しなくちゃ!
どちらかと言ったら力に頼るのではなくて打撃が望ましいんだけどな。
威力を高めるなら速度が必要になる。持ちうる能力を使いとにかく速い打撃を加えるんだ。
バラケルススに教えてもらったけど、威力ってのは質量×速さ^2だったかな?
よし、それをここにいるやつらに教えてやるとするか!
そして俺の番が来た。
周りから俺を嘲笑する声が聞こえる。
「あんな細い腕でよく一芸入試を受ける気になったな」
「無駄だぜ。さっさとお家に帰んな」
「うふふ。失敗したらお姉さんが慰めてやろうか? でも高いよ?」
好き勝手言ってくれちゃってさ。
まぁいいさ。さて、しっかり見てろよ。これが二万回転生した俺の力だ。
俺は大岩の前に立つ。
まずは左手を前に。
左手を引くと同時に右手で中段突きを……
より早く……
より早く……
より早く……
突きを放つ際は全身で加速する。
つま先から足。足から腰。腰から背中。背中から肩。そして肩から腕へと速さを伝達させていく。
そして……
突きを放つ!
俺の拳が岩に当たる。
―――ボッ
拳が大岩に当たった後に空を切り裂く音が聞こえ……
大岩は粉々に砕け散った。
受験会場は静まりかえっている。俺の打撃を見て声を失っているってとこだろうな。
結果を見るまでもないだろう。俺は一次試験合格だな。
あきれ顔で俺を見つめる受験生を尻目に俺は後ろに下がる。
時々、俺に対して化け物とか言ってくる奴がいるのだが、それは褒め言葉と受け取っておこう。
さて、これでやることが無くなったので後は待つのみ。
他の受験生の考査を見ておくかな。
しかし俺は、驚きの光景を見ることになる。
一人の受験生が考査を始める。そこにいたのは……
昨日見た銀髪の少女だった。
俺は驚きを隠せなかった。
だってその顔は……
どことなくフィオナに似ていたのだから……
そして、俺はさらに俺は驚くことになる。
少女は大岩に向かい……
構え……
俺と全く同じ突きを放つ。
音が後から聞こえてくるような素早い打撃だった。
―――ボッ
鈍い風切り音が聞こえた後、大岩は砕け散った。
なんだこの子は……?
試験が終わり少女は後ろに下がっていく。
話がしたい…… なぜかその想いに囚われ俺は少女に近付いていく。
少女は俺に気付いたようだ。
彼女は少しはにかんでからこちらにやってきて、俺の前に立つ。
綺麗な銀髪のおさげ。緑がかった綺麗な瞳。俺の愛する人の面影を残すかわいい顔立ち。
この子は一体何者なんだ……?
少女は更に俺に近付いて……
ガバッ ギュウゥゥ!
抱きしめられた!?
なんだ!? 俺は驚いたが、少女から香ってくるこの匂いは……
俺の愛しい人と同じ香り……?
彼女は俺を抱きしめつつ、俺の顔を見つめ……
「パパ! やっと会えたね!」
俺をパパと呼ぶ銀髪の少女。
これがあの子との最初の出会いだったとはね……
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