ゼラセとゼノア
「わー! 王都なんて久しぶり! なんだかワクワクしちゃう!」
サクラがはしゃいでる。おいおい、今日は観光に来たんじゃないぞ。
そう、俺達はレイの暴走を防ぐべく王都に来ている。
俺と父さんは王宮に行って避難勧告を。
母さん、フィオナ、サクラは避難する市民のために仮の王都を建設するそうだ。
でも王都を建設って…… 土魔法でも使うのかな?
本当に二週間でそれが出来上がるのだろうか。
「それじゃ一旦ここでお別れです。がんばってくださいね」
「あぁ、行ってくるよ。フィオナ達はすぐに都市の建設に取り掛かるのか?」
「いいえ。まずは王女様の許可を取ってからですね。さすがに百万人を避難させることが出来る大建築を許可無く建てることなんて出来ないでしょ? ライトさんが戻ってくるまで適当に時間を潰してます」
それを聞いてサクラはものすごく嬉しそうだ。
「ママ! お風呂行かない!? それとオリヴィアおばさんのところも行きたい! 今日はどこに泊まるの!? 久しぶりに王都のお家に行こうよ!」
「遊びに来たのではないんですよ。少しは落ち着きなさい」
サクラは完全に観光気分だな。
はは、まぁいいか。俺達が王宮に行ってる間ぐらいは楽しんでもバチは当たらないだろ。
「ははは! ハメを外し過ぎないようにな!」
「はーい! パパは頑張ってね! 私達は楽しんでくるから!」
俺と父さんは皆と別れ王宮に向かう。
その道中、父さんが話しかけてきた。
「王都か…… ここに来るのは四十年振りだな」
あれ? 父さん王都に来たことがあったんだ。
俺が思ってることが伝わったみたいで父さんが笑いながら話しかける。
「ははは、そんな顔するなよ。俺だって王都ぐらい来たことがあるさ」
「知らなかったよ。どんな用で王都に来たことがあるの?」
「留学だよ。二年間だけどな。母さんと結婚してすぐに村を治めることになってな。でも自信が無くて、王都で勉強することにしたんだ。そして村に帰って村長を務めた。
その翌年にお前が出来てな。はは、単身赴任ってやつだな」
そんなことがあったんだ。今までの父さんも同じ因果律で生きてきたはずだ。
みんな辛い想いをしてきたんだな……
はは、三万回もこの人の息子をしてるはずなのに、そんなこと気付きもしなかったよ。
父さんの王都での思い出を聞きつつ、王宮に続く道を進む。
正門まで着くと衛兵に止められた。
今までは顔パスだったのに……
衛兵が居丈高に聞いてくる。
「何者だ!? 許可無き者は何人たりとも通すことは出来ん! 下がれ!」
むぅ…… こやつ、俺の顔を知らないとは。新人さんなのだろうか?
まぁそんなことを言っても仕方ない。
「失礼。私は准男爵、ライト ブライトと申します。此度は王女様にお目通りを願いたいのですが……」
一応だが、今回も俺は叙爵を受けている。
獣人の国サヴァントのクーデターを平定したことで貴族に仲間入りをしているのだ。
毎回そうなんだけどね。
でも今回の転生では王宮に安くエリクサーを卸すことが評価され、いつもより一つ上の爵位を授けられたのだ。
これで通してくれる……と思ったのだが。
「准男爵風情が約束も無く、王女様に会える訳も無かろう! 顔を洗って出直してこい!」
衛兵は怒ったように手に持つハルバードを俺達に突きつけてくる。
これは埒が明かんなぁ。
「ライト…… ここは一旦引こう」
ん? もう諦めるの?
俺達にはあまり時間が無い。
レイは二週間の猶予をくれたが、王女に会うために正規の手段を用いては、レイの襲撃に間に合わないだろう。
俺の想いとは裏腹に父さんは一人、城門から離れていく。
俺はしょうがなく父さんを追うことにした。
「父さん! このまま諦めるの!? 俺達に時間が無いことぐらい知ってるだろ!」
「ははは、俺がこの程度で諦めるとでも思ったか? ライト、お前は千里眼を使えるよな? それで王女様の周りに誰もいない時を探るんだ。そのタイミングでな……」
「そのタイミングで?」
「城の中に入るのさ。お前は瞬間移動も使えるんだろ?」
なるほど。父さんも中々の悪よのう。
俺は父さんの言う通りに千里眼を発動し城の中を探る。
さてゼラセとゼノアはどこにいる?
一階大広間にはいないな。
次は二階だ。王宮の作りはあまり詳しくないが二階にはナイオネル宰相閣下の私室なんかもあったよな。
二階の部屋の一つ一つを探っていくと……
いた! 王女二人がすごくめんどくさそうに書類を読んでは捺印をしている。
それにしても大きくなったなぁ。
俺の記憶にある王女は幼い頃の姿だ。
チシャと同い年だったよな? それがこんなに立派になって……
部屋の中には王女の他に誰かいるな。お付きの侍女だろう。
ゼラセかゼノアか分からんがその一人が侍女に向かって何か言っている。
侍女は困ったように一笑いしてから部屋を出ていった。
チャンス到来!
でもいきなり二人の前に出ていったら不審者扱いされるかもしれん。
どこか隠れる場所はないかな? もう少し部屋を観察すると……
あった! 大きなクローゼット! あそこにしよう!
「父さん! 行くよ!」
「おう!」
父さんは俺の肩に手をかける。
そして俺は瞬間移動を発動する!
―――シュンッ
俺達はクローゼットの中に到着する。
すると王女の声が聞こえてきた。
『ゼノアー…… 疲れたわねー……』
『文句言わないでよ。これも王女としての仕事なんだからしょうがないじゃない』
『でもさ、来る日も来る日もよく分からない書類に目を通して判子を押すだけでしょ? お父様もお爺様もすごいわよね。こんなつまらない仕事を何十年もやってきたんだから……』
『そうね…… あーぁ、ゼラセの話を聞いてたら、私も疲れてきちゃった。何か面白いことはないかしら』
文句を言いながらもしっかり頑張ってるようだな。
えらいぞ、ゼノア、ゼラセ。
ではご褒美に面白いお話をお届けしよう。
あまり警戒させないように、俺はクローゼット越しに二人に話しかける。
「失礼。ライトです。准男爵のライト ブライトです。どうかそのままお聞きください」
『なっ!? 曲者! 誰か来て!』
「ちょっ!? 王女様! ライトですって! 覚えてませんか!? 貴女方が子供の時に色々話してあげたじゃないですか!?」
俺は必死に王女に訴えかける!
でも何か変だ。クスクスと笑い声が聞こえてくる……
『あはは! 嘘よ! 私が貴方のこと忘れる訳ないじゃない! ライト! 出てきなさい!』
おいおい…… 大きくなっても本質は変わらないみたいだな。
この子達は昔っからいたずらっ子だった。忘れてたよ。
俺と父さんはクローゼットから出る。
王女は笑いながら俺達を迎えてくれた。でもその笑いは一瞬で止まる。
あれ? どうしたの?
「貴方…… 本当にライトなの? その顔…… 昔のまんまじゃない」
「ゼラセ…… この人達、本当に曲者なんじゃ……?」
しまった! 二人がそう思うのも無理はない!
俺は管理者としてこの世界に戻り、そして歳を取らなくなった。
いや、それどころか二十歳前後まで若返ってしまっているのだ。
下手したら王女より年下に見えるだろう。
なんて説明しようか?
俺が困っている中、父さんが二人に話しかける。
「失礼。驚くのは無理もありません。ここにいるライト ブライトはとある事情で歳を取らなくなってしまいまして。
しかしそれは問題ではありません。王都に大きな危機が迫っています。私達はそれを伝えに参りました」
おぉ! 父さんが心強い!
二人に淡々と来訪の目的を告げる。
「貴方は?」
二人が父さんを訝し気な目で見ているな。
「失礼。私はライトの父、コディ ブライトです。アルメリア王国領、グランの領主をしております。お初にお目にかかり、光栄の至りです」
そう言って父さんは恭しく二人にお辞儀をする。
すごいな父さん、貴族の挨拶なんてどこで覚えたのさ?
俺達は王女二人に来訪の理由を話し始める。
最初は笑っていたが、次第と二人の表情が険しくなっていく。
「そんな…… 世界の危機だなんて……」
二人は顔を青くしている。
じゃあ解決策を提示してあげよう。
「王女様…… 恐らく二週間後に王都は戦場と化すでしょう。このままでは多くの市民が犠牲になります。ですので王都に住まう全ての人に避難するよう訴えかけてください」
「避難って…… いったいどこに行けというの!? 王都の人口は百万を超えるのよ! それをたった二週間で避難させるなんて出来るわけないじゃない!」
むふふ。ここでフィオナの出番なんだな。
「策はあります。ご安心を。王女様の許可があれば避難先として王都のそばに仮の王都を建設します。建設は妻のフィオナ、母のナコ、娘のサクラが担当させていただきます」
「フィオナ!? レディフィオナも来てるの!?」
二人の顔色が変わる。喜びの表情だ。
二人はフィオナを尊敬してたもんな。フィオナも時折王宮を訪れては二人に武術を教えていたんだ。
「はい。フィオナの力はお二人も知っての通りです。私達の力があれば王都の全員を避難させる都市が出来上がるでしょう。つきましては王女様には建設の許可をお願いしたいのですが……」
「「…………」」
二人は考え込んでいる。
俺達に聞こえないように話し始め…… あ、ちょっと笑ってる。
答えが出たようだな。
「よろしい。避難場所として仮の王都の建設を認めます」
よし! これで気兼ねなくレイを迎え撃つことが出来るな!
「ありがとうございます! ではすぐにでも……」
「ただし条件があります」
二人は俺の言葉を遮る。条件か…… 何だろうか?
緊急事態ではあるし、大抵のことは聞くとしよう。
「条件とは?」
にやっと笑うゼラセとゼノア。
「一つ。仮の王都の所有権はアルメリアにあるものとする」
なるほど。当然だろうな。これについては問題無い。
「一つ。レイと名乗る者を討伐したとしても一切の功績を認めない」
これはどうでもいいな。別にこれ以上爵位がどうなろうと興味は無い。
なんなら貴族から外してもらっても大丈夫だ。
「最後に一つ……」
まだあんのかい。さっさと言ってくれ。
「ライト ブライト一家の宮仕えを命ずる!」
マジで!? それはお断りしたいぞ!
俺は今年いっぱいでギルドを退職してだな。今後は神様としての仕事に専念したいのだ。
「王女様…… 先の二つは問題無いのですが、宮仕えはちょっと……」
「あはは、そんな難しく考えないで。不定期でいいからここに来てちょうだい。宮仕えなんてのは体裁を取るためだけよ。時々ここに来て面白い話をして欲しいだけなの。昔みたいにね」
そんなことか。それならば問題無い。
それにしても面白い話か。昔を思い出すな。
俺はどの世界でも二人を相手に俺の冒険譚を話したものだ。
「分かりました。その条件で結構です。王女様…… 無理を聞いてくださりありがとうございます」
「ふふ、いいのよ。他ならぬライトの頼みだもの。ライト…… 王都を頼んだわよ……」
この子達も成長したんだな。この国を治めるに足る風格を醸し出している。
こうして仮の王都建設の許可は下りた。
後はフィオナに伝えるだけだな!
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