王都で一泊
「何とか話はまとまったな」
「うん、よかったよ……」
父さんが安堵した表情で話しかけてくる。
俺達は今王宮を出て、フィオナ達と合流すべく王都を歩く。
先程、ゼラセ王女とゼノア王女に驚異が訪れることを伝え、そして二週間後には王都は無人となる。
俺も一安心だ。後は許可が下りたことをフィオナに伝え、明日から避難場所の仮の王都を建設するだけだ。
でも本当にそんなことが出来るのだろうか?
父さんも何だか心配そうな顔をしている。
そうだよな、一時的とはいえ、百万人が住む場所をたったの二週間で作りきらないといけないのだ。そりゃ心配もするわ。
だが、父さんの心配は王都のことではなかった。
「今日はどこに泊まるかな…… お前達の家でもいいが、たまには母さんと二人っきりで…… 迷う。どっちにしようかな?」
そっちの心配かよ。俺はあきれ顔で父さんに視線を送る……
「ん? どうしたんだ、ライト。そんな顔して」
「いや、父さんはずいぶんと余裕だなと思ってさ」
「ははは、こんなことは心配し過ぎてもしょうがないのさ。考え過ぎると負の螺旋に陥ってしまう。こんな時こそ前向きに考えなくちゃいけないんだ。やれることをすればいいのさ。
それで何か失敗して思うようにいかなくても精一杯やったってことで後悔することは無くなる。これだけでも心が軽くなるぞ」
考え過ぎも良くないか。その通りかもな。
そうだな、俺のやれることをするだけだ。
「父さん、ありがとね。ちょっと心が楽になったよ」
「はは、そりゃよかった。じゃあ違う話をしよう。お前は俺達がどこに泊まるべきだと思う? お前の家か?」
「銀の乙女亭でいいんじゃない? 料理も美味いしさ。俺の親って言ったらサービスしてくれるかもしれないよ? それに父さんも言ったじゃない。たまには母さんと二人きりで楽しんできなよ」
でも楽しみ過ぎないようにね。二人は俺の加護のせいで二十代の姿に若返ってしまった。
それどころか歳を取らない。だからたまに聞こえてくるんだよね。二人がアンアン言う声が……
仲の良いことはいいのだが、親のアレの声を聞くのはかなり辛いものがあるのだ。
「そうか! じゃあライトのお勧めの銀の乙女亭に泊まるとするか! 今日は母さんと楽しく過ごすかな!」
「父さん…… 姿は若いけど、歳なんだからさ。ある程度は抑えたほうがいいんじゃ……」
「その言葉、そっくりお前に返すよ。お前とフィオナちゃんな、ハッスルし過ぎなんだよ。
お前、あの時の声が聞こえてないとでも思ってるのか? サクラが顔を真っ赤にしてぼやいてたぞ。ママの声が大きすぎるってな。
それに何だ? フィオナちゃんの『すごいのぉ』は? お前一体何をしてんだよ」
なっ!? ほんとに!?
おかしいな。フィオナと夜の営みをする時は防音のため、部屋の壁を土魔法でガッチガチに固めてあるはずなのに……
「聞こえてたんだ……」
「聞こえないほうがおかしいだろ。あんな大声出して」
なんか父さんの顔を見ることが出来ず、俺達は目を合わさずに銀の乙女亭に向かった。
◇◆◇
銀の乙女亭に到着。
ここは俺の第二の家と言っても過言ではないだろうな。どの転生先でもここにお世話になっている。
受付でローランドが出迎えてくれた。
「いらっしゃい! ってライトか…… フィオナは先に来てるぞ。サクラも一緒だ。他にもベッピンさんが一緒だが、友達か?」
母さんのことだな。説明しても理解はしてもらえないだろう。
友達ということにしておくか……
そう言おうとしたが、父さんが前に出てくる。
「初めまして。私はライトの父、コディ ブライトと申します。いつも息子がお世話になっております」
「…………?」
ローランドがぽかーんとした表情で俺達を見ている。
その反応は正しい。だってここにいる父さんは下手したら俺より年下に見えるほど若返っている。
ほんとはもう六十を超えてるんだけどね。
「お前…… いや、言うまい。たしか、お前この世界の神になったんだよな? なら不思議ではないよな…… じゃあ、あのベッピンさんは?」
「はい。お察しの通り母です……」
微妙は空気が流れる中、父さんがローランドに話しかける。
「お話のところ失礼。本日はここで妻と一泊したいのですが、部屋は空いてますか?」
「あぁ…… いや、ライトの父上だったな。ごほんっ。失礼しました。その姿からは想像出来なくて……
ですがライトの親御さんならば一番いい部屋を用意しましょう。本日は楽しんでいってください」
「ははは、お気遣い無く。では今日はお世話になります。では先に荷物だけ部屋に置いてきたいのですが」
「はい、案内させましょう。ヨシュア! こちらのお客様を特別室にご案内しておけ!」
父さんは従業員と一緒に今日泊まる部屋に向かう。
その姿が見えなくなってからローランドが話しかけてきた。
「あれがお前の父親か。かなり強いな…… お前程じゃないが、人間とは思えないほどの闘気を感じたぞ」
そりゃしょうがないよ。父さんは既に人ではなく、亜神という存在だ。
直接手合わせしたことはないが、多分アモンぐらい強いんじゃないかな?
「はは、興味があっても手合わせとかしちゃ駄目ですよ。そういえばもうお客相手に稽古のサービスはやってないんですか?」
「がはは! 俺達も歳だ! そんなことする元気は無いさ!」
そうだな、なんだかんだ言ってもローランド、オリヴィアはもう五十歳を超えている。
そんなことやる元気は……オリヴィアならありそうだな。
「そういえばオリヴィアさんは?」
「久しぶりにサクラとフィオナに会ったってんで仕事を切り上げて一緒に飲んでるはず……」
ドゴォ!
なんか鈍い音が宿に響き渡る。
俺達の横を高速で何かがぶっ飛んできた。
ガシャーンッ!
それは宿のカウンターを突き破る!
なんだ!? 魔物でも出たか!?
「あいたた…… ははは! やっぱりサクラは強いね! 私じゃもう敵わないよ!」
オリヴィアだった…… 何をしていたんだろうか?
「オリヴィアさん…… もしかしてサクラと手合わせを?」
「ん? おや、ライトじゃないか! そうなんだよ! サクラがどれくらい強くなったか見てあげてたんだけどさ! ははは! あの赤ん坊がこんなに強くなったなんてね! 流石はアンタの娘だ!」
俺は瓦礫に埋まっているオリヴィアを起こす。
まったくサクラめ。やり過ぎなんだよ。もっと手加減することを教えなくちゃな。
「オリヴィアおばさん! ごめんね!」
サクラだ。心配そうにオリヴィアのもとに駆け寄ってくる。
「ははは! 気にするんじゃないよ! それどころか私は嬉しいんだよ! あんたがこんなに強くなったなんてね! じゃあ、次はあんたのお袋さんと手合わせでもしてみるかね!」
ん? もう自己紹介は済んでたのか。でもあの人が俺の母さんだって疑わないんだな。
歳を取っても脳筋なのは変わらないな。
「母さんとの手合わせはちょっと止めていただけると嬉しいんですが…… ってゆうか、サクラ、やり過ぎだ。相手がオリヴィアさんで良かったよ。これが一般人だったら死人が出てるところだぞ」
「ごめんなさい…… でもオリヴィアおばさんすごいんだよ! 二人で対手をしてたんだけどね、私の攻撃を百回は防いでたんだよ!」
サクラの攻撃を百回も?
すごいなこの人。ほんとに人間か? 俺の知らないところで加護とか受けてないだろうな?
オリヴィアはまんざらでもない様子でサクラの称賛を受け入れる。
「ははは! 毎日鍛えてるからね! 生涯現役ってなもんさ! ライト! よかったらあんたも手合わせなんかどうだい!? 久しぶりにさ!」
いえ、結構です……
最初の世界で、何度あなたに殺されかけたことか。
それは未だ恐怖の思い出として俺の記憶に刻まれているのだ。
「なんだい、つれないねぇ…… じゃあ飲むとするかね! 酒なら付き合うだろ! おいで!」
オリヴィアに連れられ強引に宴会に参加することになった。
父さんも合流し宴会は更に盛り上がることに。
父さん母さんは俺の自慢を。
オリヴィアは弟子としての俺の自慢をしては盛り上がっている。
ははは、なんかくすぐったいな。
フィオナは俺の横でワインを傾け、その話に聞き入っている。
すごく嬉しそうに笑ってるよ。
「んふふ、ライトさんはみんなの自慢なんですね」
「よせよ。照れるだろ」
「私だって自慢に思ってますよ。ふふ、照れることないんですよ。ね、旦那様?」
こいつめ…… 夫をからかいよって。後でお仕置きだな。
あ、そういえば言うの忘れてた。
「仮の王都の建設だけど、許可が下りたよ。いつ開始してもいいってさ」
「そう…… じゃあ明日から忙しくなりますね。でも今日は楽しみましょ? ほら、ライトさんも飲んでください」
フィオナは笑顔で酌をしてくる。
はは、そうだな。今日ぐらい楽しく過ごすか。
俺達は夜遅くまで飲むことに。
本当は王都の家に行こうと思ったのだが、オリヴィアが泊っていけってうるさくてさ。
今日は俺とフィオナが使っていた部屋が空いていたのでそこに泊まることになった。
「ふぁあ…… それじゃお休み、パパ……」
サクラは一人個室で眠るようだ。あくびをしながら用意された部屋に向かう。
俺達も部屋に入る。
大部屋だ。懐かしい香りがする。
二人で過ごした甘い思い出が蘇る……
「悪いけど寝る前に体を拭いてくれませんさ?」
そう言ってフィオナは上着を脱ぐ。
備え付けのタライにお湯を張り、フィオナの背を布で拭く。
風呂に行けなかった時はこうしてお互いの体を拭き合ったな……
「ありがとうございます。じゃあ次はライトさんの番ですよ」
ゴシゴシッ
温かい布の感触……
はは、昔はこの後二人で燃え上がってしまったんだよな。隣でチシャが寝てるっていうのに。
思い出に浸っているとフィオナが俺の背に抱きついてきた。
後ろを見るとフィオナがいたずらっぽく笑ってベッドに視線を送る。
二人、昔を懐かしみながら……
そして翌朝、昔通りにオリヴィアに部屋に踏み込まれた。
声が大きいと怒られてしまった。
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