王都建設 其の一
俺達は家族全員で王都東の荒野に来ている。
王都を治める王女、ゼノア、ゼラセから宛がわれた土地がここだった。
王都から二十キロってところかな。
これだけ離れていればレイが暴れまわっても被害は及ばない……と思う。
さて、何から始めるか。
察するに土魔法かなんかで仮住まいを作るってところだろうか?
「フィオナ、まずは何をすればいいんだ?」
「今日は一日で整地を行います。時間があったら城壁なんかも作りたいですね」
城壁…… 本格的だな。
でも今回作るのは仮の都市のはず。
そこに人々が住むのは二週間程度でしかないはずだ。
「でもさ、これって仮住まいだろ? 少しの間雨風がしのげる程度のものでいいんじゃないの?」
「最初はそう思ったんですけど…… ライトさん、貴方がレイ君と本気でぶつかったら王都が半壊しますよ。最悪、王都が壊滅することも想定しなくてはいけません。
それともライトさんは王都を無傷のままレイ君を降すことが出来ると思いますか?」
無理だろうな。レイは俺と全く同じ力を持っている。
お互い本気でぶつかったら……
そう思うとフィオナの言っていることは正しいだろう。
「分かった、フィオナの言う通りだ。じゃあ今日は整地を行えばいいんだな?」
「はい、整地する面積は王都と同じ規模にしましょう。手分けして行います。区画を四つに分けて、私、お義父さん、お義母さん、ライトさんとサクラでそれぞれ整地を行います」
「サクラと二人なのか。何か理由でもあるのか?」
「ふふ、二人は私達に比べて魔法が得意じゃないでしょ? マナは使えても繊細な魔力調整は苦手なはずです。だから二人協力してがんばってくださいね」
「なっ!? ママひどい! 私達が魔法が苦手じゃなくてみんなが上手過ぎるのよ!」
サクラはプリプリ怒りながら抗議するのだが。
フィオナは言うに及ばず魔法は大の得意。
父さん、母さんも何気に繊細な魔力調整に長けている。俺の加護の効果なんだろうな。
俺は怒るサクラを宥めつつ、担当場所に赴く。
フィオナの説明だと、王都はほとんど正方形の形をしている。東西に二十キロはあるはずなので、一人当たり五キロ四方を整地すればいい計算だ。
さて仕事にとりかかるとしますか。
ここは何も無い荒野だが、岩はゴロゴロしてるし、丘があったり、沼があったりと決して平坦な土地とは言い難い。
これを整地するのは一苦労だな……
フィオナに指摘されたことでサクラはご機嫌斜めだ。
「機嫌を直してくれ。あまり時間は無いんだぞ。レイは二週間後には必ず現れる。それまでに仮の王都を作らないといけないのは理解してるよな?」
「分かってるよ…… でもパパは悔しくないの!? ママにあんなこと言われてさ!」
いや、別に何とも思ってないのだが……
事実、俺は魔法のセンスは無いしな。そりゃ、フィオナほどじゃないが魔法は使えるぞ?
でもフィオナの天才的な魔法に比べたら、俺の魔法は児戯に等しい。それはサクラにも当てはまる。
サクラも俺に似たのか、繊細の魔力調整は苦手なんだよな。
「ははは、そう言いなさんな。俺達の持ち味を活かせば魔法を使うより、いい仕事が出来ると思うぞ」
サクラは不思議そうな顔をしている。説明が必要のようだ。
「この土地は岩だらけだ。それを俺達が土魔法で整地しても一日では終わらない。だから…… これを使う」
俺は弓を取り出し、マナの矢を創造する。
風と氷の混成魔法のマナの矢だ。使うのは久しぶりだな。
「パパ…… すごいね。そんなことも出来たんだ。でもそのマナの矢の効果って?」
ふふふ。刮目して見よ! 俺は弓を引き絞り…… 放つ!
シュオンッ
小気味いい音を立ててマナの矢が岩だらけ地面に突き刺さる。
すると……
サラサラサラサラッ
目の粗い岩だらけの地面が砂になっていく。
「見たかい? この矢は風化の効果があるんだ。これを使って一旦岩を取り除いていくよ」
「すごいね…… でも私は手伝えないよ。だって私のマナの矢は……」
そう、サクラのマナの矢は状態異常の一択。それ以外は使えない。
俺がサクラにやってもらいたいことは……
「サクラは転移門を使って砂を空から均等に降らせてくれ。この土地は平坦ではないからな。盛り上がってる部分の砂を転移門で空に転移させ、へこんでいる部分に降らせるんだ」
サクラは俺を尊敬の眼差しで見つめる。
ふふふ。パパはすごかろう。
「なるほど! でもよくそんなこと思いつくね」
「ははは、工夫してるだけさ。こうすれば魔法よりも効率的に作業が出来るはずだよ。さぁやろうか!」
さぁ作業開始だ!
俺は大地のマナを取り込み無尽蔵に矢を創造する。
弓を引き絞り、放つ!
矢の刺さった岩だらけの地面は乾いた音を立てて砂になっていく。
さぁサクラ、出番だぞ!
【多重転移門!】
始めたな。サクラは転移門を発動し、俺が作り出した砂を取り込んでは、空から砂を降らせている。
「サクラ! 均等にふらせてはダメだぞ! 平坦な地面にすることを意識してな!」
「分かってるよ!」
憎まれ口を叩きつつ作業を続ける。
サクラも乗ってきたのか、黙々を作業を続けること数時間……
「出来たな……」
「そうだね……」
目の前に広がるのは平坦な大地。
先程まで岩だらけのゴツゴツした地面だったのにな。
「やった! ふふん、これが私達の力よ! ねぇパパ! ママに自慢しにいこうよ!」
「それは止めた方がいいかも…… フィオナは一時間前に城壁の作成に取りかかってるよ」
「なっ!?」
そうなんだ。先程千里眼でみんなの様子を見てみたんだが、フィオナは言うに及ばず、父さん母さんも整地を終えている。
作業スピードは今のところ俺達がビリッけつなのだ。
「そんな~…… あれだけ頑張ったのに……」
「はは、そう言うなって。サクラはよくやったよ。じゃあ少し休んでから城壁作りを始めようか!」
俺は収納魔法を使い、亜空間から敷布とお弁当を取り出す。
今日のお弁当はオリヴィアに作ってもらった。お弁当の蓋を開けると……
フリット、温野菜、大きなハンバーガー。デザートも付いている。
はは、相変わらずあの脳筋が作ったと思えないほどのクオリティだ。
俺とサクラは二人仲良くハンバーガーを頬張る。
ガブッ
溢れ出す肉汁。このジャンクな味わい。
美味い……
懐かしいな。以前旅した世界でハンバーガーを売っている世界があった。
大学を通っていた俺とサクラはよく買い食いに行ったんだよな。
「ふふ、美味しいね」
サクラはニコニコといい笑顔。
我が子ながらかわいいなぁ。
幸せな気分に浸りつつしっかりと食べる。
お弁当を食べ終え、俺はサクラに紅茶を淹れてあげた。
「飲みな、熱いぞ」
「うん、ありがと」
デザートとして用意されたクッキーを摘まみつつ、少しまったりとした時間を過ごす。
幸せだ。この幸せを守らなくちゃな……
言葉も無く、平坦な大地の前で紅茶を楽しんでいると……
「ねぇパパ…… ちょっとお願いがあるんだけど聞いてくれる?」
「なんだ? 話してごらん」
俺はサクラのお願いは大抵聞いている。サクラに甘過ぎるってよくフィオナに怒られるほどに。
さて今回はどんなお願いをされるのか。
「私ね…… この騒ぎが落ち着いたら旅をしてみたいの」
「旅って? どこに行きたいんだ?」
「えーっとね…… 最近気付いたんだけど、私の転移門って異界にも転移出来るみたいなの。その力を使って他の世界を見に行きたいの」
とある思い出が頭をよぎる。
過去、俺は未来のサクラに会っている。
そうか、サクラはこの時に決心したんだな。
はは、まだ子供だと思っていたこの子が…… 大人になったな……
「いいよ。新しい世界を見るのは勉強になる。サクラにとってこの世界は小さすぎたんだね。でもさ、本当は他に目的があるだろ? 言ってごらん」
「え? なんで分かったの? あはは、パパには隠し事が出来ないね」
まぁ、その目的は未来のサクラから聞いたんだけどね。
「私ね…… お姉ちゃんに会いに行きたいの。チシャお姉ちゃん。パパもママもよく話してくれたでしょ? 血は繋がってないけどすごくかわいいお姉ちゃんがいたんだよって」
やはりな…… ならこの子を止める理由は無い。少し寂しいけどね。
俺も子離れする時が来たってことだな。
「分かった…… 俺はサクラの決心を尊重するよ。でもな、サクラは長寿ではあるけど不死ではない。あまり危ないことはしないようにな。
それとサクラはそのうち過去の俺と出会うかもしれない。その時は厳しく接してくれていいからな」
「ん? どういうこと?」
俺は少しだけ過去の話をすることに。
サクラは真剣な表情で俺の話に聞き入っている。
「そんなことがあったんだね…… ふふ、でもそのうち過去のパパに出会えるんだね! 何だかワクワクしてきちゃった!」
「そういうことさ。じゃあ話はおしまい! 作業の続きをしようか!」
「うん!」
俺達は再び王都建設に取りかかる。
楽しそうなサクラの姿を見て思う……
これがサクラが
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