王都建設 其の二
整地を行った翌日、俺達は本格的な王都建設に取りかかる。
仮住まいとはいえ、百万人が過ごすことになるんだ。居心地のいい街にしなくちゃな。
フィオナが昨日と同じく俺達に指示を出してくれる。
「今日からしばらく建物などの建設に取りかかります。造りは今の王都のまま。これも手分けして進めましょう。ライトさん、今日は私と一緒に作業してくれますか?」
ん? 今日はサクラと一緒じゃないのか。
何か意図があるのかな?
「分かった。時間が惜しい。すぐに取りかかろう」
「それじゃ、王都を四つの区画に別けて作業を進めます。それぞれの図面を渡しておきますね」
フィオナはみんなに図面を渡す。仮住まいなんだからある程度適当でもいいんじゃないの?
父さん、母さん、サクラは図面を受けとるとそれぞれ担当の場所に散っていった。
フィオナと二人で作業か。足を引っ張らないようにしなくちゃな。
「俺は何をすればいい? この図面通り建物を建てればいいのか?」
「ふふ、ちょっと違います。ライトさん、悪いけど可能な限りマナを取り込んでくれませんか?」
マナを? 何をする気だろうか。
まぁ、フィオナの言うことに間違いは無いだろう。
俺は彼女に言われた通りマナを体内に取り込む……
ギュウゥゥゥン……
足下に熱を感じる。
そして熱は体内を駆け巡る。
いつもだったらこれを魔法だったり、マナの剣に変換するんだけどな。
「準備出来たよ。この後どうすればいい?」
「そのまま動かないください……」
フィオナは俺の背に回り、手を背に当てる。
「これから私は魔法を放ちます。イメージしてください。私のオドが貴方の中に入って来たらそれをマナに変えて放出するんです。分かりましたか?」
よく分からん。とりあえずフィオナのオドを感じとれはいいんだよな?
「それじゃいきます……」
フィオナの手から熱を感じる。
優しい熱だ……
フィオナのオドが体内を駆け巡る。
すごいな。例えるならフィオナのオドは絹糸のように繊細だ。それに比べたら俺のマナは荒縄だな。
「もう一度言います。私が魔法を唱えたらライトさんはそれをマナに変換して魔法を放つんです」
なるほど。流石に分かったわ。これからやろうとしていることが。
「いいよ。いつでも大丈夫だ」
「そう…… それじゃいきます!
フィオナの魔法が俺の体内に放たれる!
俺はそれをマナに変えて再度放つ!
ゴゴゴ…… ゴゴゴゴゴッ!
轟音と共に地面がせり上がり、大小様々な建物が表れた。
ただ一度の魔法で何万という建物が建ち並ぶ……
「ふう、これでよし。ふふ、さすがライトさんですね。やっぱりマナを使えるだけあります」
それはこっちのセリフだよ。フィオナは俺を触媒にしたってとこだろうな。
「いや、すごいのはフィオナだよ。これだけの建物を一回の魔法で作っちゃうなんてな」
俺の目に映るのは王都南側そのものだ。目の前にあるのは噴水広場だろう。
ふふ、ここでよく待ち合わせをしたっけ。
「ねぇライトさん。ちょっと座りませんか?」
「あれ? サボり?」
「ふふ、いいじゃないですか。私達の仕事はこれでおしまいなんだから」
「あ…… 分かったぞ。俺を使ってズルしようとしたんだな?」
「んふふ、どうでしょうね? さぁライトさん、こっち来てください」
フィオナはいたずらっぽく笑って俺の手を引いて、噴水広場のベンチに腰を掛ける。
このベンチには彫刻も施されてるのだが、それも全く一緒だ。
やっぱりフィオナってすごいな……
二人仲良くベンチに座る。
フィオナは亜空間からカップと紅茶を取り出して、俺に渡してくれた。
「ふぅ。今日の仕事はもう終わりか。この後誰かを手伝いに行く?」
「ううん。少し話したいんです。昨日サクラと何かあったでしょ?」
昨日の話か。サクラが旅に出たいって言ってたんだよな。
特に秘密にしておいてとは言ってなかった。
なら言っても構わないだろ。
「実はサクラからお願いされてね、世界を見て回りたいんだってさ」
「世界を…… それって異界に渡るってことですか? どうして…… 転移ってそんなにいいものじゃないのに……」
フィオナの表情は暗い。
そうだな。異界に行くことの辛さは彼女が一番よく知っている。
なんたって
「ライトさんは止めなかったんですか?」
俺も何も知らなかったら止めるところなんだろうけどね。
だが俺は過去、サクラに会っている。止めたところで無駄だろう。
サクラは異界を旅する運命なんだ。
だがこのことはフィオナには伝えない。そらにサクラと約束したからな。ママには秘密にしておいてって。
「昔から言うじゃない。かわいい子には旅をさせろってさ。あまり難しく考えなくていいと思うよ。どうやらサクラは簡単に戻ってくることは出来るみたいだし。
それに時間を設定して転移出来るみたいだぞ。長い間旅をしても旅立った翌日に戻ってくることも出来るなら俺達がサクラと別れる時間は一瞬で済むはずさ。寂しがる必要は無いよ」
「そうなんですか? あの子、危ないことをしないといいけど…… サクラってお転婆なところがあるでしょ?」
ははは、それは否めないな。
初めて会った時もサクラは殺す気で俺と立ち合ったぐらいだし。
フィオナは諦めたように笑う。
「あはは…… やっぱり私とライトさんの子ですね。でもサクラが異界に行きたいだなんて思ってもみませんでした……」
寂しそうに笑ってる。
なんだかんだ言ってもフィオナはサクラのことが大好きだ。
いつもサクラはフィオナに怒られてるけど、未だに一緒にお風呂に入るぐらい仲良しなのだ。
「ふふ、なんだか気が抜けちゃいました。そうだ、それじゃライトさんにお願いがあるんですけど……」
「お願い? フィオナのお願いなら何でも聞くぞ」
「ふふ、レイ君を止めて、サクラが旅立ったらでいいんです。私に時空魔法をかけてくれませんか?」
時空魔法…… 体内時間を進めるのかな?
「いいけど…… どうして?」
「実は…… もう一人欲しくなっちゃったんです。前に言ったでしょ? サクラが大きくなって手がかからなくなったらお願いしますって」
はは、そういえばそんなことも言ってたな。
恥ずかしそうに俯くフィオナの肩を抱く。
「次の子はどっちがいい?」
「男の子ですね。でもそれは神様の決めること。女の子でもいいですよ」
「一応俺は神様みたいなもんだぞ」
「あはは。そうですね。でもライトさんの加護に産み分けする力なんてないでしょ?」
「どうかな? 試してみる?」
「え? んふふ……」
冗談っぽくフィオナに言ってみる。
ちょっと顔を赤らめて頷いた。
幸いにしてここは無人。
サクラ、父さん達は遠くで作業している。
俺は適当に一軒の家を選び、中に入る。
収納魔法で敷布を取り出して……
「ん……」
キスをしながら服を脱がす。
陽光に輝くフィオナの姿。
うむ。眼福である。
ひとしきり燃え上がったら、もう夕方になっていた。
「んふふ…… もう、ライトさんのエッチ……」
俺の横で満足そうに微笑むフィオナ。
その笑顔を見るともう一回したくなるところだが……
「そろそろ帰ろうか。その前にみんなの様子を見に行こう」
父さん達はいいとしてサクラは繊細な魔力調整が苦手だ。
どれだけ進んだかな? 俺達は身支度を整え瞬間移動でサクラのもとへ。
そこには…… 平坦な土地にちょぼちょぼと家が建ち並ぶだけだった。
サクラは力なくへたり込んで泣き言を言っている。
「もう無理だよぅ…… 疲れたよぅ……」
「あら? まだこれしか出来てないんですか?」
フィオナが意地悪そうにサクラに話しかける。
はは、君は俺を使ってズルしてたじゃん。
「ママ!? いや、これは違うの…… こ、これから本気出すところなのよ!」
ははは、強がっちゃって。
フィオナは先程と同じ方法でサクラの担当地域の家を一瞬で建設する。
サクラは開いた口が塞がらないようだ。
翌日、父さん母さんの区域の建設も終え、避難場所の建設は終わった。
結局そこが新しい王都になっちゃったんだよね。
ゼラセ、ゼノアは言ってたもんな。避難場所の所有権はアルメリアにあるものとするって。
ははは、想定済みってとこか。ちゃっかりしてるぜ。
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