家族会議

 突如現れた俺の交代人格、レイ。俺と同等の力を持ち、そして彼は世界を滅ぼすと言った。


 レイの心は壊れてしまったのだろうか?

 レイは転生を繰り返す中で俺の壊れかけていた心を救うべく産まれたんだ。

 転生開始からスタンピードが起こるまでの最も辛い時間を俺の代わりに生きてきてくれた。


 最も辛い期間…… それは両親を含め、親しい人の死を見続けなければいけないだった。

 レイには感謝してもしきれない。レイは俺自身でもあるんだけどね。

 でもあいつは死を見つめ過ぎたみたいだな……


 さて、どうするか。ここで考えても答えは出ないだろう。

 みんなに相談しないとな。


 まずは俺の腕の中で気絶しているフィオナを起こさないと。

 フィオナの頬を軽く叩くと、ゆっくりと目を開けた。

 よかった、怪我は無いみたいだ。


「ライトさん……?」

「一度家に帰ろう。みんなに伝えないとな……」


「ライトさん…… 彼を…… レイ君を救ってあげましょ……」

「え? 倒すんじゃなくて?」


 救うだって? この時はフィオナの言った意味が分からなかった。

 俺の雰囲気を察したフィオナは言葉を続ける。


「レイ君はね…… 子供なんです。初めは彼の本心が分からずに敵として認識してしましまいました。でもね、あの子はとっても優しい子なんです。

 彼の近くに行って目を見たら分かりました。レイ君は小さい頃のライトさんなんだなって」


 フィオナは何を言っているのだろうか? よく分からん。


「ふふ、相変わらず鈍いですね。とりあえず帰りましょ。みんなにも伝えなくちゃいけませんから」

「分かった。行くよ」


 俺はフィオナを抱いたまま瞬間移動を発動する。



 シュンッ



 一瞬で俺の村に到着する。

 俺は家に帰り、両親とサクラを居間に集め、レイの話を始めた。



◇◆◇



「……ということなんだ」

「…………」


 みんな黙って俺の話を聞いている。

 初めに口を開いたのは父さんだった。


「そうか。精霊の泣き声の原因がそれだったのか。それにしても世界を滅ぼすことが救いになるとはな…… ずいぶんと狂った考え方だな」


 お代わりの紅茶を注いでまわる母さんが……


「そうかしら? でもそのレイって子もライトみたいなものなんでしょ? 私はとっても優しい考え方だと思うわよ。たしかに、ちょっとやり方が間違えてるとは思うけど」


 はは、母さんらしい考え方だ。世界が終わるかもしれないってのにさ。

 フィオナの隣で黙って話を聞いているサクラが心配そうな顔をしてるな。


「パパ…… 世界が無くなっちゃうの? そんなのやだ…… だって私……」


 大丈夫だよ。そんなことはさせない。お前が生きるこの世界を俺は守っていくよ。

 サクラの幸せのためにもな。


「だって私! まだ彼氏もいないのに! 誰とも付き合ったことないのに死ぬのなんて嫌!」


 そっちかよ!? 心配するとこが違うだろうが! 

 まったくもう……


 

 ―――パシッ



 フィオナが紅茶を飲みながらサクラの頭を軽く叩く。


「いたっ!? 何すんのよ!」

「サクラの話は置いといて…… ライトさん、さっきも言ったけどレイ君を救いましょ。お義母さんも言いました。優しい考えだって。

 レイ君は彼のやり方で世界を救おうといます。でもそれが少し間違ったやり方だってだけです」

「でもどうやって? 俺は意外と頑固だぞ。レイが説得に応じてくれるとは思えない。力尽くで言うことを聞かせるってのも無理だよな。あいつ俺と同じ力を持ってるし……」


「ふふ、そんなことないですよ。レイ君も言ってたでしょ? 力が拮抗してる時は勝つのは想いの強い方だって」


 想い…… 

 そうだな。俺は最初の世界で想いの差で最強の獣人、シーザー アトレイドを倒したんだ。

 でもレイの想いって俺が持っているそれとは比較にならないほど重い気がするんだよなぁ……


「大丈夫です。ライトさんは絶対に勝てます。ライトさんはレイ君とぶつかることになる。それは間違いないことです。

 それよりも勝った後にどうレイ君を助けるかを考えなくては」


 フィオナのこの自信は一体なんなのだろうか? 

 俺はレイと戦うことが心配でしょうがないのに。


 俺の心配を余所に母さんがフィオナのカップにお代わりのお茶を注ぐ。


「ふふ、レイちゃんを救うのは簡単よ。こうすればいいのよ……」

「ん? なるほど……」


 母さんがフィオナの耳元で囁く。

 俺と父さんはその様子を見守っていた。


「ねぇ父さん。女衆がなんか話してるけど……」

「ははは、こういう時は女に任せるのが一番なんだよ。それにな、ライトは世界の危機って思ってるかもしれないけど、どちらかといえばこれは家庭の問題だと思うぞ。

 レイってのはある意味俺達の家族だ。だってお前の分身みたいなもんだろ? そういう時は家族、いや、女の出番なんだよ」


 そんなもんなのかねぇ…… 

 どうやら話が終わったようだ。フィオナは笑顔に戻る。

 どんな話をしたのだろうか?


「さすがお義母さん! それでいきましょう!」

「ふふ、二人でレイちゃんを助けてあげましょうね」


 一体何が行われるのだろうか? 気になるな。

 何を話したか聞こうとしたが、少しだけフィオナは次の話に移る。

 

「レイ君は二週間後に王都に来るんですよね?」

「あぁ。そこで世界を滅ぼすって言ってたな」


「じゃあ出来ることをしましょう。王都に住む全員をその日までに避難させます」

「全員を? そんなこと出来るかな……?」


 王都は広い。市民、兵士を含めると百万人は住んでいる。

 それを非難させることになると……


「避難させるってどこにさ? あの数を受け入れられる町なんてどこにも無いぞ? 一番近い町のバルナだって王都から歩いて二週間はかかるだろうし」

「それは問題ありません。ライトさん、ハイエーテルをいっぱい作っておいてください。私達で王都の横に仮の都市を建設します。

 サクラはマナが使えるからいいけど、私とお義母さんはオドしか使えませんから。ハイエーテルがあれば魔力の心配はないでしょう」


 都市を建設? そんなこと畑違いなこと出来るわけが……


「あ、その顔を信じてませんね? 大丈夫です。都市と言っても仮住まいですから。

 二週間雨風をしのげる程度でいいんですよ。明日から取り掛かれば間に合うはずです」


 なるほど。仮住まいなら大丈夫かもな。

 だがフィオナはまだ話があるようだ。

 これ以上何をしろと言うのだろう?


「お義父さんとライトさんは王宮に行って、市民を避難させるよう言ってください」


 王宮に? 大丈夫かな? 

 仲が良かったナイオネル宰相閣下は引退して王宮にいないんだよな。最近王宮に顔を出してないし…… 

 話を聞いてくれるだろうか?

 

 不安に思う俺を察してか、父さんが声をかけてきた。


「はは、そんな心配そうな顔をするな。俺は会ったことはないが、今王都を治めてるのは王女様だよな?」


 王女…… そうだな。エスキシュヘル五世はとうに引退してる。その息子さんも病気で亡くなったんだ。

 今は王女のゼラセ、ゼノアがこの国の王として王都を治めてるはずだ。


「お前、王女様とは面識があるだろ? 他の誰かが同じことを言ったら追い出されるだけだがお前が行けば問題無いよ。

 俺も一緒に行く。ある程度ではあるが俺も名が売れているしな。俺とお前が行けば避難勧告にも応じてくれるさ」


 たしかに。父さんはこの村を治める中で、神官として精霊の声を村のみんなに伝えている。

 不思議な力を持つ領主がいると王都でも噂になっているのだ。

 実際、王宮に仕えないかと使者が来たこともある。父さんはあっさり断ってたけど。


「そういうことだ。じゃあ明日から行動開始だな!」


 父さんの言葉で家族会議は終わる。

 なんか心配してるのは俺だけみたいだな。


 各自、明日に備え早々に床に就く。

 だけど俺はなんだか眠れない…… 


 隣で横になっているフィオナが話しかけてきた。


「眠れないんですか……?」

「ごめん、起こしちゃったか。やっぱりレイのことを考えると心配でね」


「そうですね。レイ君は貴方の大事な人なんですね。でも、レイ君は私の大事な人でもあるんですよ。

 だって、あの子はライトさん自身なんです。世界を想い苦しんでいるライトさんを救いたいんです」

「フィオナ……」


 彼女の言葉を聞いて、少し感動してしまった。

 お礼にキスをしてから耳を噛んでやった。


「ひゃあんっ…… んふふ、駄目です…… 明日は早いんですよ……」


 はは、そんなこと言ってるけど、フィオナも俺の耳を噛み返してくる。

 キスをして耳を噛みあう内に気分が盛り上がってきてしまった。


「んふふ。しょうがない人ですね……」

「はは。すまん。なるべく早く終わらせるから……」


 一度だけ愛を確かめあってから眠ることにした。









 果てを迎え、安心したのか眠気が…… 


 最後にもう一度キスをする。


「ん…… ふふ、それじゃ明日から頑張りましょうね。お休みなさい……」

「あぁ、お休み。フィオナ……」


 さて明日から大仕事だ。レイ、待ってろよ。 

 必ずお前を助けてやるからな。


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