レイの想い
『だから…… 一度世界をリセットしてみようと思う……』
俺の交代人格、レイの言った言葉だ。
レイは俺を多くの哀しみから救ってくれた。
転生を繰り返す中で俺は親しい人の死を見続けてきて、心が壊れかけていた。
その時にレイは現れたんだよな。
転生の始まりからスタンピードが起こるまでレイが俺の体を管理することで俺の精神は保たれていた。
だが、それがレイの心を壊したというのか?
「レイ…… お前、自分が何を言っているのか分かってるのか?」
『うん、もちろんだよ。世界は哀しみで満ち溢れている。生ある限りその螺旋からは逃れられない。だから僕はみんなを救いたい。万人に一度等しい死を与える。それが救済に繋がるんだよ』
いやいや、その考えは間違ってるだろ。
死は救いではない。ただの終わりだ。
「世界を滅ぼして…… みんな死んじまったら何の救いにもならないじゃないか! お前は何を言ってるんだ!?」
『ううん。そんなことないんだよ。君には言ってなかったけどこんな世界もあったんだ。死が存在しない世界。その世界もイレギュラーなものだったけどね。特に魔法とか武術とか目欲しいものがなかったから君を起こさなかったんだ』
ん? 俺を起こさなかった?
おかしい…… 俺は通常の世界に転生しても二十歳の時には必ずレイに起こされたはずなのに。
『ははは、ごめんね。僕はその世界に興味があったからさ。一度だけ君をずっと眠ったままにしておいたんだ』
そんなことがあったのか。でも死が存在しない世界があったなんて。
「でもさ…… それが世界を滅ぼすことと、どう繋がるんだ?」
『この世は数多ある三千世界で構成されている。一度世界が亡びると、どこかで新しい世界が産まれる。どんな世界が産まれるかは全くのランダムだ。
でもね、いつかは死の存在しない世界が産まれるはずなんだ。僕は全ての世界を死の無い世界で構成したい。時間はかかるだろうけどね。
でも僕には無限の時間がある。君と同じ力を持ってるからね』
「そんなの…… そんなの救いではありません! ライ…… いや、レイ君! そんなこと思っちゃ駄目! 考え直してください!」
フィオナが叫ぶ。その体は震えていた……
『フィオナ、君も分かってるでしょ? 君は永遠の時間を生きなくてはいけない。ライトは神様になって君と共に生きることが出来る。
でもグリフ、グウィネ、他にも君と知り合った友達はみんな死んじゃうんだ。君はそれを見続けていかなければいけないんだよ』
「そんなこと分かってます!」
『じゃあチシャは? 君は愛しい我が子が死ぬ姿を見ることが出来るかい?』
「それは……」
フィオナは言葉を詰まらせる。意地悪な質問するなよ。
血は繋がってはなくてもチシャは大切な俺達の娘だ。死ぬところなんて想像することも出来ないだろう。
『ほらね、そう思うのは当然だろ? だからね、死という概念を取り払わなくてはならないんだ。
死から解き放たれた世界…… それはきっと心穏やかな平穏に満ちた世界になるだろうね』
レイの言いたいことは分かる。でもな……
「レイ…… やっぱりお前は間違えてるよ。仮にその世界が産まれたとしても、それはこの世界の死の上に築かれた世界だ。
そんな世界を俺は認めない。もしお前がこのまま、この世界を滅ぼそうとするなら……」
『はは、なら僕を殺すかい? 残念だけど僕は強いよ。力は君と全く一緒だからね。でも力が拮抗してる時はどっちが勝つんだっけ? フィオナ、君はその答えを知ってるよね?』
「想いの強い方です……」
『そうだね。ライトは世界に何を想う? 人に何を願う? 僕は世界を憂う。人を憐れむ。だからみんなを救いたいんだ。僕はその想いを曲げることはない』
レイは決意めいた表情を浮かべている。
不味いな。レイは俺と性格も一緒みたいだ。俺は何気に頑固なんだよね……
一度決意すれば、それを必ずやり遂げる。
その性格が裏目に出てるんだろうな。
「考え直せ……って言っても無駄なんだよな?」
『あはは。よく分かってるじゃないか。流石はライトだね。自分のことをよく分かってる』
「…………」
シュンッ
突如、俺の隣にいたフィオナが消える。瞬間移動か?
フィオナはレイの目の前に現れた。その手に短剣を持って……
「レイ君! ごめんなさい!」
殺す気だな。その判断は正しいかどうか分からない。
フィオナはレイのことを脅威として認識したのだろう。
だがレイはそれを許すことはなかった。
『謝るのは僕の方だよ』
パシィッ
レイはフィオナの刺突を捌き、そして掌打をフィオナの鳩尾に叩き込む。
ドスッ
「うっ!?」
「ごめんね」
バシッ
フィオナが意識を失う前にダメ押しの一発。手刀を首筋に撃ち込んだ……
ドサッ……
レイは倒れるフィオナを抱きとめ、優しく地面に寝かせる。
『はは、フィオナって怖いね。知らなかったよ。ライトはすごい人をお嫁さんにしたんだね』
レイは申し訳なさそうに笑う。俺の知るレイならばフィオナを殺すような真似はしないだろう。
今の攻撃だって意識を刈り取るだけのものだ。
「ああ、俺の嫁は怖いだろ? 俺も毎週怖い想いをしてるよ」
『そうか、君達は毎週特訓をしてるんだよね。ライトもすごいよ、フィオナの本気の攻撃を簡単に捌いてるんだから』
それを言ったらお前もだろ?
フィオナは強くなった。俺と出会った頃よりもずっと。
それを簡単にいなして、無力化するとは。
どうする? この場でレイを止めることが出来るだろうか?
彼は強い。俺の分身みたいなものだもんな。身体能力は俺そのものだ。
負けはしないだろうが、勝てる気もしない。
でもやるしかないか……
俺はダガーを抜いて……
『待って』
レイが先に声をかけてきた。
「ははは、どうした? 怖じ気づいたとか? 考えを改めてくれたんなら嬉しいけど」
『残念だけど違う。僕は考えを変える気はない。でもね、ライトに少し時間をあげるよ。僕がこの世界を消滅させるのはいつでも出来る。だからライトに時間をあげるんだ。君の愛しい人達に別れを告げる時間をね……』
そうか。これは俺にとって好都合と受け取った方がいいな。
お言葉に甘えるとしよう。
先ほども思ったことだがレイは強い。俺と同等の力を持っているはずだ。
今戦っても勝ちの目は見えてこない。作戦を練らなくちゃな……
「分かった…… 今は俺も引こう。でも時間ってどれくらいくれるんだ? 二日三日とかじゃ嫌だぞ? 別れを言う人はいっぱいいるし、フィオナと楽しむ時間も欲しいしさ」
『ははは、ライトったら変わらないね。そうだね…… じゃあ二週間。それだけあれば充分でしょ。その時が来たら……』
「お前は世界を壊すんだな? 分かった」
『うん。二週間後に…… そうだな、僕は王都に行くよ。そこを世界の終わりの始まりの地にする』
「おいおい、そんなこと俺に言っていいのか? 俺がお前を殺しに行くとは思わないのか?」
『あはは、どうせ千里眼を使われたら居場所がバレちゃうでしょ? なんにしたって君は僕のもとに来るさ。それじゃあね。そろそろ行くよ。ライト、ごめんね……』
シュンッ
そう言ってレイは瞬間移動を発動。その場から消え去った。
俺はフィオナに駆け寄って彼女を抱き起こす。
頬を軽く叩くと目を覚ました。
よかった、怪我は無いようだ。
「ライトさん……?」
「一度家に帰ろう。みんなに伝えなとな……」
でも何て伝えればいいのか?
世界が脅威にさらされている。ある意味俺のせいで……
胸に抱くフィオナが俺を見上げる。
「ライトさん…… 彼を…… レイ君を救ってあげましょ……」
救う? 倒すじゃなくて?
その時はフィオナの言っている意味が分からなかった。
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