袂を分かつ
『ライト、起きて……』
ん…… この声は……? レイか?
『うん。おはよ、ライト。あはは、君は寝てるから、おはようはちょっと違ったかな?』
はは、そうだな。レイに会えるのは夢の中だけだからな。それにしても久しぶりだね。一体どうしたんだ?
『ごめんね。今日はお別れを言いに来たんだ……』
お別れ? お前またそんなこと言って…… どうせまた会えるんだろ?
『うん、また会える…… それは間違いないけど、君が思ってるそれとはちょっと違うかもね』
何のことだ? 言ってる意味が分からないが……
『色々考えたんだ。世界の在り方とかね。そして僕は答えに辿り着いた。だから君とは袂を分かつことになる。また会えるけど…… ここでさよならだ……』
おい、一体何を言って……?
レイの姿が消えていく。
『ごめんね。僕は僕の信じる道を行くよ。ライト…… さようなら……』
おい! レイ! レイ……!
目の前が暗くなる。俺は一人暗闇に取り残されて……
『イトさん…… ライトさん……』
「レイ!」
「ライトさん!? 大丈夫ですか!?」
ん……? 夢か?
隣にいるフィオナは心配そうに俺を見積めていた。
あ、あれ? なんだ? 体が震えている……
そんな俺を見て、フィオナは優しく抱きしめてくれた。
「かわいそうに…… 悪い夢を見たんですね。大丈夫ですよ。そばにいてあげるますから……」
嗅ぎ慣れた優しい香りが俺を包む。
次第と胸の動悸が収まってきた。
「ありがと…… もう大丈夫……」
「ふふ、よかった…… どんな夢を見たんですか?」
レイの話はしたことが無かったな。少し長くなるけど……
俺は横になる。フィオナは俺の腕を枕にして、話を聞いてくれた。
「解離人格……? そのレイって子がライトさんのことを助けてくれてたんですね」
「あぁ。でも今日のレイは思いつめてる感じがしたんだ…… 何だか嫌な気分だ……」
チュッ
フィオナは軽くキスをしてくれた。
そしてもう一度俺を優しく抱きしめる
「もう寝ましょ。明日もお仕事ですから。貴方が寝るまで抱きしめてあげますからね……」
フィオナが温かく俺を包み込んでくれた。
そうして俺は再び眠りにつくことが出来た。
翌日、出勤前に家族で食卓を囲む。
母さんがいつも用意してくれているものだ。
「ほら、しっかり食べなさいね。朝ご飯は一日の基本ですからね! しっかり食べてお仕事頑張って!」
俺に大盛のスープをよそってくれるのだが……
こんなお肉こってりのスープを朝から食べられません……
チビチビとスープを飲んでいる横でフィオナはしっかり完食していた。すごい食欲だな。
「おばあちゃん! お代わり!」
サクラもだ。この胃袋怪獣め……
「あはは、すごいわね、二人共。ライト、あなたはどう?」
「いや結構です……」
「もう情けないわね。あ、そうだ。今朝ね、精霊に声が聞こえたの。みんなに言っておくわね。何だかいつもの声とは違ったの。
ほら、何か災害とかが起こる前って怖がってる声が聞こえたりするんだけどね。今回は…… みんなが泣いてる声がしたの。とっても悲しそうな声で…… これって何なのかな?」
母さんの話を聞いて父さんもそれに続く。
「母さんも聞こえたか!? そうなんだよ。世界中の子供達が泣いているような声だったな……
何か悪いことが起こる前兆なのかもな。ライト、お前は何か分からないのか?」
「いや、精霊の声を聞くことなら二人以上に詳しい人はいないでしょ。俺に聞かれても……」
「なんだ! 使えん神様だな!」
酷い! 神様だって万能じゃないの!
俺をフォローするようにフィオナが口を開く。
「精霊の声…… 確かに怯えではなくて、悲しくて泣いている声が聞こえますね」
そういえばトラベラーも人の理から外れた存在。女神だったり精霊だったりが見えたりするんだよな。
俺は見えないけど……
「ライトさん、もしかしたらお義父さんが言う通り、何か起こるかもしれません。一応注意しておいてください」
そうだな。何が起こるかは分からないけど、事前に覚悟があると無いとでは大違いだ。
「分かった。気を付けるよ。父さんと母さんも何か分かったら教えて」
「うん…… ライトも気を付けてね」
何だか暗い気持ちで食事を終える。
さて、仕事に行かなくちゃ。
俺とフィオナは家を出て瞬間移動で王都に向かう。
今日は家でゆっくりしたので王都の自宅に向かわず直接ギルドに向かうことにした。
ギルドに到着するといつもの朝の掃除から始まる。
一通りギルドを掃除すると今度は放置されたEランクの依頼をこなす。
今日は商店の店番か……
場所は王都に商業区の外れか。
そんなに遠くは無いので歩いて現地に向かう……
ん……?
なにか変だ。
視線を感じる。どこから?
空からだ。上を見上げると虹が架かっていた。
雨上がりでもないのに。これは啓示だ。
でも何か変だ。
だってその虹は……
色が逆だった。
紫から始まり、藍、青、緑、黄、橙、赤……
これはどういうことなんだろうか……?
「ライトさん!」
フィオナの声がする。俺を追ってきたのか? フィオナは息を荒げながら……
「はぁはぁ…… 精霊の泣き声が強くなりました! あの虹が出てからです! 何か大変なことが起こってるはずです!」
いつもだったら虹がクルスの出した目印になる。恐らく今回もそうなのだろう。
だが色が逆の虹が何を意味するのか? その時は理解していなかった……
「フィオナ! 一緒に来てくれるか!?」
「当たり前です!」
「じゃあ行くぞ! こっち来て! せーの!」
フィオナを抱きしめる! そして!
【転移!】
―――シュンッ
俺が転移した場所は虹の袂だ。
ここは王都からかなり離れた場所だな。
街道からも離れている。
何もない荒野……
そこに男が一人立っていた。
俺とフィオナは男に近付く。
「ライトさん…… 気を付けて。あの人、人間じゃありません。ものすごい量のオドを感じます……」
どれどれ? マナを取り込み分析を発動。
あれ? このステータスは……
種族:???
年齢:???
レベル:???
HP:1+12E MP:1+12E STR:1+12E INT:1+12E
能力:武の極み 魔の極み
特殊1:マナの剣 マナの矢
特殊2:千里眼 魔眼 理合い 分析
特殊3:混成魔法 超級魔法 神級魔法(黒洞)
特殊4:時空魔法 空間魔法 並列思考
特殊5:限界突破 指圧 医界の知識
付与効果:地母神の加護 地母神の祝福
俺と全く同じステータスだ。
この男、マナが使えるのか?
マナは大地の魔力。それを使える人物は未だかつて見たことがない。
そう、俺を除いては……
一体何者なんだ?
男は俺達に気付いたのか、振り向くとそこには……
俺がいた。
『遅かったね、ライト』
姿は俺そのもの。
だがその声色はどこかで聞いたことがある。
聞き慣れた優しい声。
間違いない。この男は……
「お前…… レイか?」
『…………』
男は黙って頷いた。
この男は俺の交代人格のレイだ……
「一体どういうことだ!? なんでお前がここに!? それにその姿は……」
『前に言ったよね? 僕は君と袂を分かつ。そして僕にしか成し遂げられないことをする』
フィオナが俺とレイを交互に見ている。そりゃ混乱もするよな。
「ラ、ライトさんが二人!? どういうことですか!?」
レイはちょっと微笑んでからフィオナに話しかける。
『ふふ。君のことはずっと知ってるけど、こうやって会うのは初めてだね。僕はレイ。ライト自身でもある。フィオナ、君に会えて嬉しいよ』
「あ…… は、初めまして…… お聞きします。貴方からはライトさんと同じオドを感じます。これってどういうことなんですか?」
『よく分からないんだ。ライトが神として力を手にしたことで僕の力も強くなったんだね。気付いたら肉体を得ていたんだよ』
全く理解出来ない。
だがレイが現れ、精霊が哀しみの声をあげ、そして色が逆さの虹が架かった。
何か悪いことが起こる。直観でそう思った。
「レイ…… お前が現れた理由、それを聞かせてくれるか?」
『うん…… それはね、僕は哀しみの全てを終わらせたい。僕は君を助けるために三万回以上愛する人の死を見続けてきた。それは僕が望んでやったことだから気にしないでね。
でもね…… やっぱり大好きな誰かが死ぬのってすごく辛いんだ。だから僕は哀しみの全てを終わらせる。僕にしか出来ないやり方で……』
「お前にしか出来ないやり方って?」
レイは悲しそうに俯いた後に頭を上げる。
『世界は一度滅びるべきなんだ。世界は死で満ち溢れている。生がある限り、死の螺旋からは逃れられない。
だから…… 一度世界をリセットしてみようと思う……』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます