約束の地から

 ―――カラカラカラカラ



 私は一人、糸車を回す…… 

 ふー、疲れました。ちょっと休憩にしましょう。


 魔法で作ったやかんに水を入れ、お湯を沸かします。


 今日はどんな茶葉を使おうか…… 

 手に取ったのは獣人の国サヴァント産のカモナミヒィル。


 沸騰したお湯をゆっくりと注ぎます……



 コポコポコポッ



 辺りに花の香りが立ち込める…… なんて芳しいのでしょうか。

 まぁ、私の好みは造物主たるマスターと同じという点は気に入りませんが、紅茶に罪はありませんからね。


 椅子に腰掛け、紅茶片手に糸車を見つめます。


 そこには空と地面が一体となったような幻想的な風景が広がります。

 まるで雨上がりの塩湖のよう…… なんて美しい……


 ここは約束の地。私ことクルスは世界の管理者として一人で糸車を回します。


 それが私の存在意義、存在理由。

 なので辛いとは思いません。むしろなんと充実した時間を過ごせることかと幸せを感じています。


 さぁ、休憩は終わりです。

 私は再び糸車の前に座ります。



 カラカラカラカラッ ガッ



 おや? 糸車が止まりました。

 糸がダマになっていますね。このダマの形は…… 


 恐らく飢饉ですね。

 これはいけない。私は急ぎ糸を解します。


 ふぅ、これでよし。あのまま放っておけば、人の世で災害が起きる。

 

 ふふ、皆様、どうぞご安心を。

 私がこの地にいる以上、あなた方を守って差し上げます。


 さぁ仕事の続きです。



 カラカラカラカラッ



 私は再び糸車を回します。  



 カラカラッ ガッ ガッ



 またですか…… 今日はこれで四回目です。

 まぁ私がいる以上、人の世に悪いことなど……?



 ガッ ガッ



 おかしい。ダマが解れません。

 それどころか糸が…… 糸の色が変わっていきます……


 白い糸はゆっくりと色を付けていき、そして禍々しい黒に変色しました。


 これは一体……


 

 ―――ゾクッ



 背筋に悪寒が走りました。

 不味い。マスターに知らせないと。


 私は地面に膝を着き、そして手をかざします。

 マスター…… どこにいるのですか?


 地面が人の世の光景を映し出します。

 マスターが住むグランという村から探し始めます。


 そこにある一件の大きめな家。

 中を覗いてみると、サクラお嬢様がラーメンをすすっている光景が。


 かわいい食べ姿を見ていたい気持ちもありますが、マスターを探さねば。


 いない…… アホのマイマスターはどこにいるのでしょう? 


 私は違う場所を探すことにしました。

 マスターがいる世界では朝の九時。仕事に向かっているのかもしれませんね。


 私は王都を探すことにしました。

 マスター、どこにいるのですか?


 するとマスターは奥様と手を繋いで歩いているのを見つけました。


 嘆かわしい…… 

 世界の危機だというのに、鼻の下なんぞ伸ばして……


 いえ、そんな場合ではありません。

 私は手をかざし空に虹を描きます。これでマスターも分かってくれるでしょう。


 マスター、急いで下さい。

 これは私では対処出来ません。

 この黒い糸が示す意味。



 これは【死】です。

 このままでは世界は死を迎えます。


 

 マスター…… 

 不本意ですが、世界をあなたに託します。



 世界を、そしてこの地に生きる全ての人を救って差し上げるのですよ……


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