ギルド登録

「金が無くなった……」


 しまった、やってしまった。

 俺は浮かれていたのだ。

 オリヴィアに勝つことが出来、更にフィオナに告白をした。

 正式なお付き合いとまではいかないが、現状より一歩前に進む権利を得たのに加え、フィオナに一日一回キスをすることも出来るようになった。


 今の今まで清い体で生きてきた俺にとって、これらは刺激が強すぎた。

 お祝いだと称してフィオナ、グリフとこの数週間、豪遊してしまった。

 酒に、風呂、ダンスなど楽しいことに時間と金を使ってしまったのだ。


 財布の中には一万オレンしかない。どうしよう……


「ギルド登録をすればいいんですよ。私達の本来の目的を忘れてませんか?」


 とフィオナが言う。ギルド登録?

 そうだ! 金を稼ぐ手段が近くにあったのだ! 

 というかこの半年近く、銀の乙女亭の女将ことバーバリアン……もといオリヴィアとの地獄の稽古をこなすのに精一杯でギルドのことをすっかり忘れていた。

 

 そう、俺は魔物を討伐してオドを得ること、さらに善行を積むことで加護の力を上げることを目的としていたのだった。


 この体たらくには女神様もお冠であろう。

 俺に加護を与えて下さった地母神様、サボっていてごめんなさい。


 冒険者ギルドに行こうと宿を出る前にオリヴィアが話しかけてくる。


「これからギルド行くんだろ!? ライトなら大丈夫さ! 最初は低ランクの仕事しか受けられないだろうけど、焦るんじゃないよ! あんたなら五年もすればBランクには上がれるさ!」

「はい! 行ってきま……? ん? 五年?」


 え!? 今なんて!?

 なんか今すごいこと言わなかったか、この人?


「あの…… 今五年って仰いました? いやー、オリヴィアさんとの稽古の後遺症が出たかな。最近耳がおかしくなったような……」

「いや、合ってるよ。どんなに実力のある奴でもBまでは五年はかかるもんさ。登録の時、職員から説明されると思うから聞いておくんだよ!」


 オリヴィアはそう言うといつものように俺の背中をバシバシ叩いて俺を見送ってくれた。

 フィオナ、後で回復をお願い……


 ギルドへの道中、オリヴィアの言葉を思い出す。

 Bに上がるまで五年だって!? そんなに時間がかかるものなのか? 


 俺はアモンを倒して村のみんなの仇を取るという目的がある。

 そのためには魔物からオドを奪って強くならねばいかんのだ。


 この半年で地力を上げる訓練は終わったように思う。

 そりゃこれからも上を目指すけどさ、でもこれからは神様から貰ったギフトの力を上げる必要がある。

 ゆっくりしている時間は無い。


 悩みながらも歩みを進めていく。

 少しすると冒険者ギルドに到着。


 中に入ると多くの冒険者がひしめき合っている。

 冒険者をかき分け中に進むと依頼掲示板があった。

 バルナでも見たな。あの中から仕事内容を決めるんだったな。


 カウンターは報酬受け取り、依頼受付と…… 

 あった! 登録受付カウンターだ! 


 五人程並んでいる。

 俺達は後ろに並びつつ、冒険者志望の連中を観察する。

 みんな若いな。十五歳前後っていうところだろうか。


 そうだよな。やっぱり高ランクを目指すならデビューは早いほうがいい。

 俺ってずいぶん遅咲きみたいだな。

 だって前に立ってる魔術師っぽい女の子が、あなたが新人なの?って目で見てるし……


 しばらく並んで待っていると俺の番が来た。

 受付は綺麗なお姉さんが定番だと聞く。

 グリフが言ってたもんな。


 受付のお姉さんは見た目麗しい金髪ロングの巨乳ちゃんだった……のだが、お昼休憩で席を外してしまった。

 代わりにやって来たのは厳つい顔の五十代、スキンヘッドの髭面だった。


 あぁ、お姉さん…… 

 貴女に受付をやって欲しかった……


「おい、あからさまにガッカリしてるんじゃねぇよ。俺だって傷付くぞ。全くこの忙しい中、あいつら有給取りやがって。お前もギルド長の俺が受付やってやるんだ! 嬉しく思え! 

 一応自己紹介な。俺はエスキシェヒル冒険者ギルドの責任者のアレキサンダーだ。よろしくな!」


 何!? ギルド長だと! 

 ここは幸運だと思おう。色々聞いておけばランクアップの秘訣と分かるかも知れないしな。


「まずはこの書類に必要事項記入な」


 どれどれ? 名前、出身、配偶者の有無、得意武器、攻撃魔法の使用の有無、死亡した際の財産分与などなど。

 俺のマナの矢って一般の魔法のカテゴリーに入るのか?   

 弓を触媒に使うから一応武器扱いにしておくか。


 必要事項を書き終え提出する。

 フィオナも書き終わったようだ。


「ライトにフィオナ…… ふん、弓使いか。珍しいな。となりのかわい子ちゃんは魔術師か。嬢ちゃんはともかくお前さんはちょっと辛いかな。今の武器じゃ他のパーティと合同でクエストをこなせないかもしれんぞ? 今からでも遅くない。武器を変えたほうがいいぞ」


 やはり…… 冒険者の間では弓使いは不遇職らしい。

 決定打に欠ける、命中率が悪い、矢が余計な荷物になると三拍子揃っている。

 いわゆる地雷職なのだ。

 まぁ実力を見せつければそんな偏見を覆せるだろ。


「いえ、このままでいきます。今から慣れない武器だと時間が余計にかかりそうですからね」

「そうか。まぁお前が決めることだ。後悔するなよ。じゃあ次はランクについて話すぞ。依頼の難易度によってAからEまで別けられる。

 新人はEからスタートだ。低級の魔物の討伐だったり薬草採取とかだな。他には商店の店番とか落とし物を探すなんてのもあるぞ。ランクが上がっていくに従って依頼内容も厳しくなってくる」


「質問なんですが、上級の魔物討伐はどのランクから可能ですか?」

「Bだな。とはいってもBでも上級のなかでも割と弱い奴が討伐対象となる。こちらも冒険者を死なせるわけにはいかんからな。本格的な上級討伐はAからだと思えばいい」


 Aからなの!? 

 本格的にやばくなってきたな。

 Bランクに上がるのに五年だろ? Aランクになるのに何年かかるんだよ……


「例えばですよ……? ランクが低くても上の依頼を受けることって出来ませんか?」

「ん? お前死にたいのか? 新人にそんなこと任せられる訳ないだろ。それにどんなに実力があろうとランクはそう簡単には上げられんぞ。かなり昔だが、実力が全てだった時代があってな。実力はあるが経験の浅い高ランカーがギルドの秩序を乱したのさ。

 当時のギルド長はこれを改めるため、実力がある者も下積みを積んで精神的にも研鑽させる今の制度が出来上がったのさ。

 まぁ、方法が無いわけではない。いわゆる寄生ってやつだ。高ランクパーティに潜りこむのさ。これは自己責任な。俺らはどうなっても知らん。お勧めはしない」


 うわ…… これは前途多難だ。

 なんとか上手い方法を考えねば。

 とりあえずEランク依頼のゴブリン退治と薬草採取を受けてギルドを出た。

 両方とも報酬は五千オレン。

 もうすぐ宿賃も払えなくなる。

 金を稼ぎつつ、高ランクの依頼が出来るよう考えねば……



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