束の間の休日 其の一
奇襲作戦は大成功に終わった。俺達は敵陣を引っ掻きまわして混乱を誘い、魔物の群れに大打撃を与えることが出来た。
何万体の魔物を殺すことが出来たんだろうか? 目の前には地面を埋め尽くすほどの躯が転がっている。
「ライトさん、やりましたね」
フィオナは俺の腕の中でニコニコしてる。ありがとね。君のおかげで勝つことが出来たよ。
それにしても強いな、この子。のフィオナ強さは俺が一番知っていると思っていたが、実際に共に剣を振るうのは初めてなんだよな。
華麗に槍を振るうその姿はどこぞの闘神のような姿だった。俺の嫁は本当にすごいな。
でも今は俺の腕の中で笑う一人のかわいい女の子だ。
よし、今夜はたっぷり可愛がってあげよう。そんな益体も無いことを考えていると、クロイツ将軍がこちらにやってくる。
「がははは! ライト殿! よくやった!」
いたた…… 嬉しいのは分かりますが、そんなバシバシ背中を叩かないでください。
すごい力だな。デュパに作ってもらった防具越しに衝撃が伝わってくるよ。
クロイツ将軍の顔が真顔に戻る。何か言いたげだ。
「王都に戻ったら私の天幕に来てくれ。話したいことがある」
あれ? せっかくの勝ったってのに、何か気になることでもあったのだろうか?
「戻りましょ」
「あ、あぁ」
フィオナが俺の手を引いてくれる。その前に……
「奇襲部隊! 速やかに王都に戻れ! 今日はよくやった! 王都に戻ったら各自休息を取るように!」
一応奇襲部隊の責任者だからね。指示を出しておかないと。
俺達は王都に向かう。道中、トラベラーの魔術師がアルメリア兵の指示で、地面に向かい魔法を放っているのが見えた。何してんのかな?
「あれって……」
「脱出通路を埋めてるんですよ。あれの存在が魔物にもバレましたから。今の内に埋めておかないと、逆に利用されかねないでしょ」
なるほど。そうだよな。魔物が脱出通路を使って、王都に侵入でもしたら…… 考えただけでも恐ろしい。
王都に到着すると、皆家に帰っていく。ご苦労様、ゆっくり休んでな。そうだ、俺はクロイツ将軍に呼ばれてたんだった。
天幕に行くとクロイツ将軍は椅子に座って紅茶を楽しんでいた。
メイドさんが俺達の分の紅茶を持ってきてくれる。美味いんだな、これが。
「座ってくれ。今日はよくやったな。だが一つ伝えておかなければいけないことがある。その前に体を温めてくれ」
紅茶を一口…… 冷えた体に温かい紅茶が染み渡る。
フィオナは一緒に出てきたお菓子を摘まんでいた。はは、食い意地はっちゃって。
「では話そう。奇襲作戦は成功した。魔物は隊を整えるため、しばらくは襲ってこないだろう。だがな……」
クロイツ将軍が言葉を詰まらせる。表情は暗い。
「次は総力戦になるだろう。しかも奇襲があった後だ。相手は一切油断はしないだろう。つまりは次魔物が襲ってくる時は今まで以上に苛烈な戦いがあるということだ」
「今まで以上……」
「その通り。こちらにも多大な被害が出るだろう。今のうちに覚悟しておいてほしい」
マジかよ…… クロイツ将軍の言葉に驚いている俺だが、フィオナは美味しそうにお茶を飲み干してから……
「ごめんなさい。お代わりを貰ってもいいですか?」
メイドさんにカップを渡す。ははは、余裕だね。今度はフィオナが質問する。
「クロイツ様。一つ聞きます。軍が被害を受け、軍を再編成し、再び戦線に赴くにはどれくらいかかりますか?」
「そうだな…… 被害を確認するのに一日。兵に休息を取らせ、編成に一日。出撃はその翌日だろうな。無理して兵を出せば、連携が取れず、被害は増すばかりだからな」
「つまりは二日後ですね。提案があります。南門の兵を減らして他にまわしてください。私が出ます」
「フィオナ!?」
何言ってんのよ! 確かに君は強いけどまだ魔法は使えないんだぞ!
「ライトさんの言いたいことは分かります。でも私、あと二日もすれば魔力が整うはずなんです。魔力枯渇症が治るはずです」
そういえば昨日の夜に言ってたか。でも数十万の魔物を相手にしなくちゃいけないんだ。計画的に魔法を使わないとまた魔力枯渇症になってしまうのではないだろうか?
「将軍。魔法部隊に支給されているマジックポーションの在庫はどれくらいありますか?」
マジックポーション…… そうか、そういう道具もあったのか。
俺はマナを取り込むことで無尽蔵に魔法を使うことが出来る。だから回復アイテムについては無頓着だった。
フィオナも内包している魔力は世界トップクラスだろう。オドを使い切るということはそう無かったはずだ。
俺が知る限り、アヴァリで聖滅光を使った時、そしてアルメリアでのスタンピードで二回目だ。
「個人で使う分には全く問題無い量の在庫は抱えているよ」
「分かりました。私は城壁の上から魔法で援護をします。マジックポーションがあれば超級魔法を連発しても問題無いでしょうから」
超級魔法で援護か。誤爆しないか心配だな。でもフィオナは魔法のエキスパートだ。大丈夫だろ! 多分……
「作戦は分かった。じゃあ俺は地上で今まで通り魔物を迎え撃てばいいんだよね?」
フィオナは顔を横に振る。違うの?
「ライトさんも私と一緒に城壁の上に来てください。弓で援護するんです」
「え? でも俺は今はマナの矢は使えないよ?」
使えない訳じゃないんだが、矢を創造するのに時間がかかり過ぎる。戦いに使用するには心もとないだろう。
「トラベラーに付与魔法が得意な者がいるはずです。アイシャを覚えてるでしょ? 彼女は弓が得意だっただけではありません。矢に魔力を付与して撃ち込んでいたんです。だからあれだけの威力を発揮出来たんですよ」
アイシャ…… エルフのトラベラーだ。俺を救うため、その命を差し出し異界へと旅立っていった。
たしかにアイシャの弓の威力は異常だった。一発がフィオナの超級魔法と一緒ぐらいの威力だったからな。
クロイツ将軍は腕組みをして何やら考え込んでいる。この作戦に賛成してくれるだろうか?
「理解した…… だが一日待って欲しい。今の我が軍の被害状況を確認し、各将軍に伝えておかねばならん。奇襲部隊には丸一日の休息を取らせる。ライト殿、フィオナ殿は明後日の朝一番にここに来て欲しい」
フィオナは二杯目の紅茶を飲み干す。
「分かりました。明後日でしたら私の魔力も回復するはずです。ライトさん、帰りましょ。あ、クロイツ様、このお菓子美味しいですね。どこで買えるんですか?」
「ははは! 君は本当にトラベラーかね!? 私のメイドが焼いてくれた焼き菓子だよ。お土産に持たせよう。ハンナ! 菓子を包んでやってくれ!」
メイドさんは裏から包みを持ってきてくれた。フィオナは嬉しそうにそれを受け取る。
はは、女だねぇ、甘いものに目がないんだから。
「ふふ、後で三人で食べましょ」
戦いの後とは思えないほどいい笑顔で天幕を出る。
ふー、今日は疲れたな…… しっかり休んで次の戦いに臨まないと。
降りしきる雪の中、俺達は手を繋いで帰路につく。まずは銀の乙女亭に行ってチシャのお迎えだな。
◇◆◇
「パパー! ママー! お帰りなさい! 大丈夫だった!? 怪我無かった!?」
銀の乙女亭に着くや否や、チシャがお出迎えをしてくれる。ごめんな、待たせちゃって。
「大丈夫だよ。怪我はかすり傷ぐらいだしね」
「でも血が……」
血? 俺達、そんな怪我してたかな? お互いの姿を確認すると……
ははは、こりゃ酷い。返り血でベッタリだ。
「これは魔物の血だね。ごめんな、酷い恰好で。でも俺達は平気だから」
「チシャ。帰りましょ。みんなでお風呂に入らない?」
「うん!」
三人で家に帰る。今日はご飯を作る気力が無かったのでオリヴィアに弁当を作ってもらった。
汚れた装備、上着を玄関で脱いでレムに渡す。チシャがタオルを持ってきてくれた。二人で汚れを軽く落とすと、タオルはすぐに真っ黒になってしまった。
「お風呂を沸かしてきます。ライトさんはゆっくりしててください」
暖炉に火を入れてソファーに腰をかける。次第と部屋が暖かくなり、眠気が襲ってくる。駄目だな。今夜は無しだ。
みんなで風呂に入って、ごはんを食べる。眠気が更に強くなる。
「ごめん…… 今日はもう寝るよ……」
「はい、私も疲れてしました」
三人でベッドに入る。
明日は休みだ…… 家族の時間を堪能する……か……
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