出張

 ドンドンドンドンッ



「エリナさん! 起きろ! ギルドに行くぞ!」


 乱暴にドアを叩いてエリナさんを起こす。

 村に泊まってた時も寝起き悪かったからな。

 彼女を起こすのも俺の仕事だった。

 ドアの向こうからくぐもった声がする。


『あと十分だけ寝かせて……』

「やかましい! ドアぶち破るぞ! ギルド長に報告に行くんだろうが!」


 突然バタバタと部屋の中から音がする。

 ははは、寝起きの悪さも変わってないみたいだな。

 少し待っているとエリナさんが部屋から出てくる。準備が終わったようだな。

 俺達はギルドに向かうことにした。


 冒険者ギルドに到着してすぐに、二階に上がりギルド長室に入る。

 ギルド長は落ち着いた様子で俺達を出迎えてくれた。


「ライトか。まぁ座れ」


 三人でソファーに腰を掛ける。 

 ギルド長も座ったところで……


「はい。では俺から昨日のことを報告させていただきます。森の王国でスタンピード発生です。ここにいるのは依頼主のエリナ。依頼内容はスタンピード鎮圧の協力要請です」


 やはり。といった雰囲気でため息をつくギルド長。


「話は分かった。危険な依頼だ。それなりの報酬を用意してもらう必要がある。あんた、エリナといったな。あんたにそれを払う手持ちはあるか?」

「これでどう?」


 エリナさんはカバンから袋を取り出し中身をテーブルに並べる。宝石だ。大きい…… 

 どれも見事に研磨された一級品だ。それが二十個はある。


「この品なら王都で五割引きで取引されたとしても全部で四十億オレンにはなるわ。これは前金よ。協力後に更に二十個出すわ」

「ふむ…… 金は問題無いようだな」


「こちらから質問。今王都にいて自由に動けるCランク以上の冒険者は何人いるの?」

「待て…… Cで四百人、Bで二百人前後、Aで三十人ってとこだろう。生憎Sランクは十年前に死んじまってな。今はいないんだ」


「少ないわね…… ならもう二十個宝石を出すわ。それで腕の立つ引退した冒険者を集めて欲しい。この際傭兵でもいいわ」


 俺はそのやり取りを黙って見ている。

 すごい金が動いてるな…… 未知の世界だ。

 それにしてもエリナさんは必死だ。


 この人は根っからの商売人で値切れるだけ値切るのが彼女のやり方だ。

 かなり強引でケンカになることも多い。その彼女が出し惜しみすること無く金を出す。

 それほど大森林はやばいことになっているんだな。

 

 ギルド長は手にしていた宝石をテーブルに置く。

 そして……


「金があるのは分かった。だが協力は出来ん」

「なっ!? ちょっと何でよ! 危険な依頼だけどそれに見合った報酬を用意出来るのよ! それにこっちは顧客なのよ!」


 エリナさんは激昂し、ギルド長に詰め寄る。

 だがギルド長は落ち着いた様子だ。

 正直俺も驚いている。

 何故だ? 何故断った?

 エリナさんが、恩人が助けを求めているんだ。

 それを断るだなんで!


「まぁみんな落ち着け。ライト、お前俺が昨日王宮に行ったこと知ってるよな。あれは政府から依頼を受けたのさ。最近各国でスタンピードが発生している。王都にもこないだワイバーンの大群が出ただろ? 国内でスタンピードが発生した際は速やかに鎮圧にあたれとさ。

 つまり、今遠出させられる冒険者はアルメリアには一人もいないってことだ。ギルドは独立した組織だが、国に所属するものだ。この国が無くなりゃギルドも存続出来ない。俺がどっちを優先すべきか分かるだろ?」


「そんな……」


 エリナさんは力無くへたり込み、顔からは血の気が引いていく。


 そうだよな。一縷の望みをかけてここまで来たのに、あっさりと断られたんだ。

 次は獣人の国サヴァントに協力を求めるか? 

 だめだ。物理的に距離が遠すぎる。行って帰ってくる間に大森林のエルフは全滅するだろう。


 くそ! どうにも出来ないのか!? 

 俺が行くか…… こうなりゃギルドを辞めてでもエリナさんを助ける! 

 

 今の俺がアモンにどこまで抵抗出来るか分からない。だけど恩師が…… 友人が助けを求めているんだ!

 何もせずに黙っていられるか!


「ギルド長!」

「座れ」


 ギルド長は俺を制した。どうするつもりだ?


「ライト、出張だ。ギルドの為、敵の情報を探ってこい。魔物の種類、数、被害状況、何でもいい。期限は無し。報酬は出張費のみだ。フィオナも連れていけ」

「ギルド長……」


「俺はここの責任者として冒険者を一人も送ることは出来ん。国にばれたら契約不履行でお縄になるからな。最悪縛り首だ。だからこそお前が行け。お前はあくまでギルド職員だ。お前一人ここからいなくなっても問題無いだろう。

 いや、お前がいなくなったらギルドが汚くなっちまうな。フィオナもだな。綺麗どころがいなくなってバカどもが寂しがるか。がははっ!」


 ギルド長…… もうこのハゲがイケメンにしか見えない。

 ギルド長は笑顔でエリナに話しかける。


「エリナさん。これで納得してくれ。あんたは知らんかもしれんがこいつらは強い。はっきり言ってしまえばSランク級だな。そうだな…… こいつの給料分として宝石を一つ貰っておくか」


 ギルド長はひょいっと宝石を懐に入れる。

 俺の給料? 後でくれるのかな? 覚えておこ…… 

 エリナさんは震える声でギルド長にお礼を伝える。


「なんと言っていいか…… 心から感謝します。それにしてもライト、あんたSランク級って…… 一体何があったの?」

「そのことは後で話すよ。ギルド長! ありがとうございます! 必ずここに戻ってきて報告しますので!」


「当たり前だ! さっさと帰ってこい! お前がいなくなったら誰がギルドを掃除すんだよ!」


 よっしゃ! これで大森林に行く大義名分も手に入った! 

 アモン、首洗って待ってろよ!   

 でも今の俺であいつに勝てるかな……?



 不安はあるがやってやるさ! 

 プラチナギルド職員をなめるなよ!



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