勝利の理由
俺の前には気を失ったシーザーが横たわっている。
身体強化術を解除すると、いつも通り一気に感情が戻ってくる。
勝った…… 勝った。勝った!
しかも誰も殺さずに勝利!
よかった…… 殺したくなかったんだ。
シーザーは予想以上にいい奴だった。
仕方無いとはいえ、この人を殺しては目覚めが悪いだろう。でも謀反人ってことで裁かれるんだろうな。
俺はこの国の人間ではないが温かい配慮を望む。後で王様にお願いしてみようかな?
「ライト! 大丈夫か!?」
おじさんがこちらに駆け付ける。
その手にはナイフが握られて……
「おじさん!? まさかシーザーを殺す気!?」
「当たり前だろ! 何のためにここまで来たと思ってるんだ!」
「いやいや! 話聞いてなかったの!? 負けた方は勝者に従うって! だからシーザーが目覚めたら投降してクーデターの解除をお願いするつもりなんだから!」
「え…… お前、いつの間にそんな約束したんだ? 全く聞こえなかったぞ」
「そうか。俺達、
「あ、あぁ…… それにしてもお前、どこまで強くなってんだよ。まさかシーザーに勝つとは思わなかったぞ」
「まさか、負けると思ってた?」
「いや、良くて引き分けだと思っていた。お前がシーザーに致命傷を負わせれば俺でも対応出来るとは思ってたけどな」
「ひでぇ!? 捨て駒扱いだ!」
「がはは! そう言うな! 勝ったんだから文句言うな!」
くそう、そんなことを思っていたとは…… お仕置きだな。後で生の玉ねぎを食わせてやる。
「あー、すまんが、そろそろ話に混ぜてくれんかの?」
白髪の犬が話しかけてきた。すっかり空気になっていたが俺はこの人を救いに来たんだった。シーザーのインパクトが強すぎて忘れていたよ。
「クヌート様ですね。俺…… 私はライトと申します。話は分かると思いますが、救出に参りました」
「ほっほっほ。これは重畳。人の子よ、ありがとうな。しかし、まだクーデターは終わってはおらん。お前はこれをどう解決する? まさかシーザーの言を信じるというのか?」
「はい。信じます。もしシーザーが目覚めて俺達を攻撃してくるようなら責任を持って俺がシーザーを殺します」
王様の目を見て言った。
「うむ。それならばよかろう。駄目だと言っても君の力には逆らえんのだろう?」
王は微笑みながら俺の提案を採用してくれた。よかった。
さて待っていても仕方ない。
シーザーを無理やり起こそう。猫の嫌がることはっと。
ペコッ
とりあえず耳を裏返してみた。そこに息を吹きかける。
「ふにゃぁぁぁ!?」
二メートル以上ある巨躯のシーザーから発せられたとは思えない可愛い鳴き声で目覚める! 意外と可愛らしいな。
「ここは……? そうか、私は負けたのか…… 仕方あるまい」
「シーザーさん、悪いんですけど…… さっきの約束のことですが」
「勿論だ。男に二言は無い。だが一つ聞かせてくれ。私が君に負けた理由だ」
「それですか。恐らく、想いの差だと思います。それが俺が勝った理由かと」
「私の国を憂う想いが君の想いに届かなかったというのか? それは納得出来ん。他にあるんじゃないか?」
シーザーが真剣な眼差しで俺を見てくる。
くそ、正直に言うしかないか。
「怒らないで聞いてください。俺は至って真剣です。俺の想い、もちろん俺に関わったみんなを救いたいって気持ちはあります。でも最後に浮かんだのは想い人の顔でした。その…… 俺は実は……」
うぅ…… 公衆の面前で言うことではない……
「なんなのだ!? 教えてくれ! 私が負けた理由を!」
「俺はその子と愛を確かめ合う約束をしておりまして…… あの…… その……」
駄目だ…… これ以上言えない…… だって恥ずかしいし。
「…………」
あれ? シーザーがワナワナ震えている。
怒らせてしまったか?
「ふ…… ふはは…… ははははは! これは愉快だ! 国を想う気持ちが女一人に負けたか! ライト! その女はどこにいる!? 是非見てみたい!
君の言葉から察するにライトは女を知らんな? 良かったら私が寝所を使ってくれ。あのベッドで多くの子を成したものだ!」
おじさんが俺の肩に手をかける。
「お前、まだだったんだな。ずいぶん遅いな。でもな、女一人に縛られるのは窮屈だぞ。俺なんか今も一人身だ。気楽なもんだぞ」
なんか王様も寄ってきた。
「そうかそうか。君は女を知らんのか。では可愛い獣人を紹介しようかの? 儂の孫娘なんかどうじゃ。毛並みは最高。尻尾のモフモフがたまらないと城では評判じゃ」
こいつら…… なんでちょっと憐れんだ目で俺を見てんだよ。別にいいだろ! 今まで好きな人が出来なかっただけなんだから!
だが先程での殺伐とした雰囲気は消え去り和やかな感じになっていた。ふふ、何だか嬉しい。
でもまだ気を抜くことは出来ない。これから大仕事が待っている。クーデターの解除だ。どのように行うのだろうか。
シーザーは立ち上がると玉座の横に垂れ下がっている紐を引いた。涼やかな鐘の音が聞こえる。
「今から警備の兵がやってくる。心配は無用。君達には一切手は出させん」
少し待つと、扉の外から足音が聞こえる。
『将軍! お呼びでしょうか!?』
シーザーは扉に向かって大声で指示を出す。
「各部隊隊長に伝えよ! 本日十四時をもって警戒態勢を解除する! この戦いに参加しているエセルバイド全員にラーデ中央広場に集まるよう伝えよ! もし街中でバルデシオン、ウィンダミアを見つけても殺してはならん! もし手出しするようなことがあれば厳罰に処す!」
『し、将軍!? 警戒態勢解除ですか!?』
「そうだ! 二度は言わん! さっさと行って伝えてこい!」
『り、了解いたしました!』
見張りの兵の足音が遠ざかる。するとシーザーは王様の前で跪いた。
「王よ。此度は無礼の数々、大変申し訳ございません。私は既に死を覚悟してあります。しかし今は少しだけ時間を頂くことをお許しください。そして謀反人は私のみ。従った兵には御温情をお願い致します」
「シーザーよ。それは今決める事ではない。然るべき時に司法がお前を裁くのみだ。その時を待つがよい。今はお前に出来ることをして来なさい」
王は微笑んだ。どうかシーザーにもご温情がありますように……
後は時間が来るのを待つだけ。十四時まで二時間あるな。それまでゆっくりするか。
窓を開けてからタバコを取り出す。火を着けようとした瞬間…… あれ? 何か忘れているような……?
―――ポロッ
咥えたタバコを落とす。
そ、そうだ! フィオナだ! フィオナとルージュがいないんだ!
俺はシーザーに駆け寄る!
「シーザーさん! 今俺達が城を歩き回ったら不味いですか!? 仲間がまだ城の中にいるんです!」
「なに!? 先程言った想い人のことか!? まだ君達のことは伝えていない。部下には危害を加えないよう言ったが、城内では身の安全は保証出来んぞ……」
くそ! いくらフィオナが不死の存在だとしても見殺しには出来ない! 外に出ようと扉に向かう!
―――バタンッ!
うお!? 扉が開いた!?
そこには投げナイフを構えたルージュが……
「ちょまっ!? ストップ! 解決したから! 投げちゃ駄目だから!」
手を広げてシーザーとの射線を塞ぐ!
だがルージュの目は殺気立っていた。超怖い……
「ルージュ! 待て!」
「…………!?」
おじさんの声にルージュがビクっとなった。そうそう、部下なんだからおじさんが止めないと。
「落ち着いて話を聞け。シーザーとの和解が成立した。十四時にクーデターは解除される。今は時を待て」
「閣下……? よかった…… 終わったんですね……」
ルージュは安心したようにナイフを戻す。
突然のことに驚いたが、ルージュはフィオナと行動していたはず……
「ルージュさん! フィオナは!? あいつはどこですか!?」
フィオナは獣人の男に背負われて玉座の間に入ってきた。
酷い顔だ。肩には包帯が巻かれており血が滲んでいた。辛い戦いがあったのだろう……
「君がライト君かね? フィオナさんはうわ言のように君の名前を呼んでいたぞ。君は幸せ者だな。こんなにも想われていて」
「は、はい、貴方は?」
「私はスースと言う。王の専属医師でね。フィオナさんとルージュに命を救ってもらったのさ」
スース? この人…… グウィネのお父さんだ!
よかった! これで二人とも救えた!
「スースさん! フィオナのこと助けてくれてありがとうございます! スースさんってグウィネのお父さんですよね!? 地下牢でノーマさんも保護してあります! 後でゆっくり話しませんか!?」
「グウィネ!? 君はグウィネを知っているのか! 一体何者だ!?」
スースが俺の肩を掴んでガクガクしてくる。
あー…… 酔っちゃう…… 止めて欲しい……
「お、落ち着いて! グウィネに頼まれたんですよ! ご両親に元気でやってると伝えて欲しいと! それとは別に伝えたいことがあるのですが、それはご両親揃ってからがいいと思います……」
「そうか…… グウィネの友達か…… あいつめ、王都でしっかりやってるんだな。うぅ…… いつまでも子供だと思っていたあの子が……」
スースが泣き始めてしまった。結婚の事を言うべきだろうか? 余計に泣かせてしまいそうで怖い。
俺はスースからフィオナを受け取る。
ありがとう、頑張ったんだな。こんなに傷だらけになるまで。
たまらずフィオナを抱きしめて、おでこにキスをした。
意識は無いと思うがフィオナは微笑んだ……ように見えた。
「ライト、その子が君の想い人か? 私はその子にも負けたんだな……」
「はい、彼女は最高に強い人ですから。俺も彼女には勝てませんよ」
フィオナのおかげで勝つことが出来たよ。ありがとう。
もうすぐこの戦いは終わる。もう少しゆっくり寝ててくれ。
フィオナの頭を俺の膝に置いて、彼女の頭を撫でる。
「んふふ……」
その顔は喜びに満ち溢れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます