ライトVSシーザー

「「勝負っ!」」



 俺達の剣が火花を散らす。

 シーザーとの闘いが始まった。

 俺も相手も短剣の二刀流だ。


 相手の出方を待つ……暇は無い! 

 さらに突っ込んできた! 

 速い! 速攻での連撃が始まった!



 シュッ シュシュッ ブンッ



 シーザーの右のダガーが俺の首を狙う。

 俺は左手でそれを捌く。  

 シーザーの手首を掴もうとするも、その前に左からの刺突が来た。

 右のダガーで何とか軌道を逸らせる。

 シーザーの攻撃を俺が捌く、その攻防が数十回は繰り返された。



 ―――ポロッ



 突如シーザーが左のダガーを落とす。これはフェイントだ。右からの突き上げが俺の喉を狙う。

 しめた! 距離を取るチャンス! 



 バッ クルンッ



 後ろ宙返りをしながら、シーザーの剣撃を避けて距離を取ることに成功。

 ふー、凄い連撃だったな。


「のっけから飛ばしてきますね」

「ははは! 涼しい顔をしている! あの連撃を躱したのは君が初めてだ! まったく素晴らしい! 殺すには惜しい! 君こそ負けを認めたら私に降るといい! 悪い様にはしないぞ!」


 ははは、こんなことを言われるなんて。この人には違う形で出会いたかった。


「では風呂とダンス、それといい給料。あと友人もこの国に招待してください。滞在費はそっち持ちで」

「ははは! 贅沢だな! まだ約束は出来んが出来る限りのことはしよう!」


 シーザーは笑いながら身体強化術を発動する。一回り筋肉が大きくなった。なら俺もだ!



 ―――メキィッ



 体に力が溢れてくる。視界から色が一つ消える。

 シーザーは不思議そうな顔で俺を見てるな。


「君は身体強化術が使えるのか!? 人族の身でありながら!」

「はい。高速回転クロックアップも使えますよ。一応最終段階も使えるのですが、あれはしばらく封印しておこうと思いましてね」


「は…… ははは! 世界は広い! 私はこんな逸材を見逃していたとは! ライト! 今日はとことん楽しもう!」


 この人バトルジャンキーだな。その手の人の趣味に付き合う気はないのだが。

 でも楽しんでくれれば投降してくれる……訳ないか! シーザーの剣撃の一発一発に殺気が籠っている! 先程とは比べものにならないほどの強撃だ!

 たまらずシーザーの一撃をダガーで受ける。



 ―――ピシッ



 やばい! ダガーにひびが入った! これ以上防御でダガーは使えない。ひびの入ったダガーを鞘に戻し構えを変える。

 急所を隠すよう正中線を横に向ける。左手を前に出しの右手のダガーを後ろに構える。


「どうした? 消極的な構えだな。それでは攻撃までの動きが長くなってしまうだろう。それを理解しての構えか?」

「はい、貴方の知らない戦い方を見せて差し上げようと思いまして」


「全く…… 言ってくれる! では私を楽しませてくれ!」


 シーザーは遠慮無く斬りかかってくる。一発目は左からの剣撃。逆手にナイフを持っている。首狙いだ。しゃがみで避ける! どうせ次はそのまま右の攻撃が…… 



 クルッ ブンッ



 来なかった!? そのまま一回転してまた左からの連撃! いつナイフを持ち換えたのか順手に構え直してある! 今度は刺突か!? 


 さっきは不意を突かれたが今度は違う! 左手でシーザーの腕を掴む! 

 腕が伸び切ったところ、肘に向かって蹴りを入れる! 上手くいけば腕一本取れる!   

 だがシーザーは俺に掴まれたまま前方宙返りで蹴りを避けた! 


 あの巨躯でなんて身軽な…… 

 さすがは猫氏族といったところか。関心している暇は無い。

 宙にいる間に一撃を繰り出してくる。あの体勢からか…… 

 センスの塊だな、この人。



 ―――ピッ



 シーザーの一撃が頬を掠る。

 この戦いが始まって初めて傷を負った。


 着地したシーザーは腕を押さえて笑っている。


「ははは! 筋が伸びきってしまった! 初めて見る攻撃だった! 名は何と言うのだ!?」

「自分もよく分かりません。でもフィオナ……俺の連れなんですけどね、理合いって言ってました」


「ほう! 是非会得したいものだな!」

「では負けを認めてくれませんか? そしたらじっくり教えてあげますよ」


「ははは! それは一本取られたな! しかしそのつもりはない! 戦いは始まったばかりではないか!」


 もうお腹いっぱいなんだけどな…… まぁそうも言ってられんか! 

 今度は俺からだ! 高速回転クロックアップを発動する!


 視界から完全に色が消え、脳が微振動を始める。シーザーもだ。 

 瞳が細かに揺れ、表情が無い。なるほど、人から見ると俺もこんな感じに見えるのか。


 俺もシーザーも高速回転を発動している。今までの戦いと変わらないってことか。

 これでマナが使えたら戦局も変わるんだろうな……


 お互いの剣撃を躱しながらもシーザーが俺に話しかける。


「ライト、その力を使って君は何を成し遂げようとする?」


 シーザーの刺突が俺の頬を掠める。


「仇討ちです。それだけのために俺は強くなりました」


 今度は俺の斬撃がシーザーの胸元を軽く斬り裂く。薄っすらと血が滲む。


「復讐は何も生まん。君は愚かではない。それを君は理解しているだろう。だが敢えて君は復讐の道を行くというのだな?」


 逆手に持った斬撃が魔道具の犬耳を斬り裂いた。クーデターが終わったら新しいのを買おう。


「いいえ、俺は愚か者なんです。連れにも言われましたよ。勝てない相手に挑んで蛮勇扱いされました」


 剣撃と会話は止まらない。


「ははは。蛮勇とはな。男の浪漫の一つだな。勝てない敵に挑むのも私は悪くはないと思うぞ。まったく、女は男心を理解しなくて困る。妻にもよく小言を言われるよ」


「まぁ、その蛮勇のおかげで想い人を守れました。確かに悪いものではありませんね」


「話が逸れてしまったな。して、その復讐の相手とはどのような奴なのだ?」


「恐らくはスタンピードの主、俺達はアモンと呼んでいます。あいつは俺の大切なもの全てを奪い去っていきました。俺は奴を倒さないと先には進めません」


「けじめか…… 否定はしないが復讐の道は覇道。辛い道となるぞ」


「いいえ、俺は王道を歩いているつもりです。復讐は通過点でしかありません。俺は両親に人のために尽くせと教えられました。貴方との闘いも人の為にしていることです。アルメリアの友人のため、この国の友人のため、この国で苦しむ人達のため、そして貴方を救うつもりでもあります」


「…………」


 シーザーの動きが止まる。攻撃するべきだろうか。

 いや、止めておこう。


「その台詞、二回目だな。先程は君の本音が解らず、その言葉を真摯に受け止めることが出来なかった。今は違う。君は嘘偽りなくそう思っている」


「すいません。伝わらなかったようで。自分では真面目に言ったつもりなんですが」



 ―――チャッ



 シーザーは両の短剣を鞘に戻す。

 どうするつもりだ?


「私達の力は拮抗している。これ以上は時間の無駄だろう。どうだ。勝負の方法を変えないか?」


「話し合いであれば乗ってあげたいところですが」


「ははは、ある意味正解だ。ただし言葉の代わりにこれを使う」


 シーザーは俺の頭ぐらいある拳を差し出した。殴り合いか。どこぞの青春活劇じゃないんだから。


「シーザーさん、それって俺に不利なんじゃありませんか?」


「馬鹿を言うな。私と互角に戦った君が言う台詞ではなかろう。勝敗はどちらかの意識が無くなったらでよいな。負けた方は勝者の決定に従う」


 これって望ましい状況になりつつあるのか? でも俺が負けたらこの人の部下になるんだろ? 

 まぁいいか。勝てばいいんだ。

 どちらの想いが強いか、それで勝敗が決まる。

 俺もダガーを鞘に戻す。


 俺達は無手のまま、対峙する。

 防御の構えは取らない。

 なるべくなら一撃で決める。

 狙いはよく分からん。 

 お互いの力が拮抗している以上急所のどこかに当たれば勝負が決まるだろう。


 シーザーも構えを取る。

 俺と同じ、防御を無視した攻撃特化の構え。

 俺と同じ考えか。一撃で決めるつもりだ。


 お互い右腕に力を込める。

 始まりの合図は無い。静かに時間が過ぎる。

 過ぎるっていっても高速回転を使ってるから実際の時間は一瞬なんだろうな。



 シーザーの動きを見つめる。


 大丈夫、俺は勝てる。


 俺は何の為にここに来た?


 最初はグウィネの為だった。


 リリアの町で多くの飢えた犬氏族を見かけた。


 彼らの為にこの依頼を成功させようと思った。


 おじさんに再会して助けてもらった。


 今度は俺が助ける番だ。


 ルージュに出会った。


 諜報部の責任者として俺達を助けてくれた。


 オセとの闘いで彼女は少女のように泣いていた。


 助けてあげようと思った。


 サヴァントの暗い歴史を知った。


 殺された人達を心から憐れんだ。


 俺がその場にいたら何かしてあげられただろうか。


 ノーマに会った。


 グウィネのお母さんだ。


 早く彼女を助けてグリフのことを言わなくっちゃ。


 シーザーに出会った。


 いい人だ。


 立派な考えの持ち主だ。


 時と場所が違えばこの人の下で働いてもいいと思っている。



 フィオナの顔が思い浮かんだ。



 そうだ。絶対この戦いに勝たなくてはいけない理由があった。



 様々な想いが浮かんでは消えていく。



 時間がまた流れる。



 シーザーが静かに息を飲んだ。



 来る。



 速い。



 動きは最小限。



 狙いは顔だ。



 ―――ズシャァッ



 シーザーの拳が俺の左側頭部を掠る。左耳の感覚が無い。



 突如熱を感じ、痛みが走る。耳を全部持ってかれたか。あとで回復しないとな。



 シーザーが打撃を放つと同時に俺もシーザーの顔目掛け拳を打ち込んだ。



 ―――バキィッ



 この戦いは想いの強い方が勝つ。



 フィオナの言った通りだったな。

 俺の拳がシーザーの顎を打ち抜き、意識を刈り取ることに成功した。



「…………」



 シーザーは顔から地面に吸い込まれるように倒れていった。



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