新しい力

 はー、気が重い。  

 今日はいい天気だが、俺の心は曇り空だ。  

 今にも涙の雨が降り出しそう。

 なぜならせっかくマナを使えるようになったのに、魔法がまったく使えないのだ。

 あれだけ練習したというのに……


 食料が残り少なくなってきたので今日は森で狩り、野草の採取に来た。

 少しは気分転換になるといいが。


 まずは野草や果物の採取だ。

 キノコやら木の実なんかを鞄に放り込む。

 狩人をしてると食べられる植物の知識が身に付く。

 迷うこと無く採取を続ける。


 色々食材はゲットしたので次は肉だ。

 ここら辺は魔素が低いようなので、獣しか出ない。

 簡単に兎を二羽狩ることが出来た。ふふん、俺にかかればこんなもんよ。

 そういえば兎ってなんで匹って数えないのかな?

 なんて益体も無いことを考えながら次の獲物を探す。後二日分は欲しいな。

 


 バササッ



 お? あそこにいるのは……

 雉がいたので狙いを定めるが、的が小さい。

 ここは確実に仕留めるべく、千里眼を使い矢を放つ……



 ヒュンッ ドシュッ



『ピィ……!?』


 よし、仕留めた。

 野草、キノコと一緒に煮込んで鍋にしよう。

 雉から矢を引き抜こうとすると……



 バキッ



 矢が折れてしまった。

 手持ちの矢も少なくなってきたから、作らなくちゃな。

 折れない矢があったらいいのに。

 威力を高めるため、鉄製の矢にすることも考えた。

 鉄製なら多少曲がっても直せるしな。

 でも荷物が重くなるし……


 ん……? ふと思い付く。


 折れない……


 威力の高い……


 重くない矢……


 イメージしてみる。

 持ち運ぶ必要の無いマナの矢を。


 魔術師が杖を使う理由。

 それは杖は体内のオドを魔法として放出する時の通り道として使う。

 狩人でいう弓と同じだよな。


 フィオナが言うには杖が無くても魔法は使えなくないが、あったほうが威力が高くなるらしい。

 エリナさんは杖は持ってなかったが指輪を通して魔法を使っていた。

 これも俺でいうところの弓だ。

 もしかしたら……


 弓だけを持ち、獲物を探す。



 ガササッ



 茂みが動く。あれは兎だな。

 よし、試してみるか。

 まずは…… 

 大地からマナを頂く。

 足元から熱を感じ、螺旋を描いて体内に入ってくる。



 集中……



 右手には矢を持っているイメージ……



 矢は鉄のように固く、曲がらず、しかも羽のように軽く……



 いつもと同じように獲物と俺の間に見えない糸を結ぶイメージ……



 ゆっくりと弓を構え、あるはずもない矢を放つ……



 ヒュンッ ドシュッ



『キッ……』


 兎は静かに鳴いて倒れる。

 つまりこれは……

 兎を貫いているのは薄っすら光る矢。

 驚いてしばらく動けなかった。

 矢は次第とその姿を消していく。

 まるで空気に溶けるようにして。


 成功だ…… 

 やった。出来た。出来た! 

 そうだよ、マナが使えるんだ。

 既存の魔法にこだわる必要なんてないんだよ! 

 弓を使ったこれが俺の魔法だ! 

 試したいことがあった。

 練習場として使っている広場に向かうことにした。


 試したいこと。

 それは魔法と同じようにマナの矢に属性を持たせることが出来るかだ。

 まずは火のイメージ。


 弓を構える。

 矢は炎を纏っている…… 

 命中と同時に対象を炎に包む…… 

 右手に矢の存在を感じる。



 それをつがえ…… 放つ!



 ヒュンッ ゴゥンッ



 命中すると轟音と共に的の岩が炎に包まれる。

 成功だ! 

 次は氷属性だ! 

 同じようにイメージ。矢を放つ。

 炎は消え、岩は霜に包まれる。

 この後も練習を続け、各属性の矢を作り出すことが出来るようになった。


 魔法が使える嬉しさで駆け回りたい気分だ! 

 フィオナに教えないと! 

 今夜はお祝いだ!



◇◆◇



 なんということでしょう。

 まさか我が主の才能がここまで無いとは…… 

 極まれに、極々まれにいるのです、まったくセンスがない者が。

 しかし、それが我が主とは…… 


 例えばmaltaηfremeaщ火球

 基本的な攻撃魔法です。

 オドと魔法適正さえ揃っていれば詠唱を唱えずとも発動する基礎中の基礎です。

 もはや奇跡としか言いようがない出来の悪さにかける言葉が見つかりませんでした。


 練習から三日目。ライトさんに回復魔法を教えることにしました。

 これは彼本人には効果があったようです。

 なるほど。自己消化する分には問題ないのですね。

 しかし他者を回復することは出来ませんでした。

 それどころか状態異常になってしまいます。

 くしゃみが止まらないだけで、まともに息が出来なくなるとは思いませんでした。


 どうやら、オド、マナを外に出すという一点のみに問題が生じているようです。

 ライトさんがまともに魔法を発動するには繰り返し練習するしかありません。

 しかし、時間がかかりすぎる。

 マリのように弾けるmaltaηfremeaщ火球、脇から射出するwaltaфwikima水寄せ

 これをどうやって矯正すればいいのですか?


 今日の練習は休みです。

 食料が尽きかけているので、彼は森へ狩りに出かけて行きました。

 この近辺は魔素溜まりもなく、魔物が出る心配はありません。

 気分転換にでもなればいいのですが。


 昼食の下ごしらえをしながら考えます。ライトさんは戦闘能力自体は高い。

 もう魔法にこだわらず、前衛として活躍してもらうべきだろうかと。

 しかし大地のマナを使えるのに、それを活かせないのは宝の持ち腐れ。

 どうすればよいのでしょうか……


 下ごしらえが終わる頃、彼は笑顔で帰ってきました。

 獲物は多いようですね。さすがです。

 しかしその笑顔は獲物が捕れたことに対するものではありませんでした。


「フィオナ、来てくれ! 俺も魔法が使えるようになったんだ!」


 彼は何を言っているのでしょう? 

 脇から雨を降らすようなライトさんにまともな魔法が撃てるわけがありません。

 ですが彼は笑顔を湛えたまま私の手を引いて平原へと向かいました。


「見ててくれ。これが俺の魔法だ」


 そう言うと彼は弓を構えます。

 数秒の集中の後、構えた弓に添えられた右手に矢が現れ…… 

 矢は炎を纏っています。

 すごい…… マナを使って矢を創造し、それに属性を加えるなんて。


 長いこと異界を旅していますが、初めて見る魔法です。

 やはりイレギュラーな世界に転移したのでしょうね。

 もっともこの魔法はライトさんしか使えないでしょうが。

 矢は放たれ、目標の岩は炎に包まれる……


 驚きました。

 威力はそこまで高くはありません。

 これは加護の力が上がれば威力も増すと思います。

 そう、驚いたのは威力ではなく、速さでした。

 魔法より圧倒的に速い。

 まるで矢を放った瞬間に命中したかのような速さです。


 これにライトさんの腕前が加われば…… 

 彼の弓の腕前は驚嘆すべきものです。


 何度か狩りに同行しましたが、一度たりとも獲物を逃したことがありません。

 器用なもので二本同時に矢を放ち、それを違う的に命中させる離れ業をもやってのける。

 命中精度の高い矢が知覚出来ない速度で飛んでくる。

 私でもこの魔法をレジスト出来ないでしょう。


 ライトさんは自慢げに自分の魔法を私に披露します。

 今夜はお祝いだと、とても喜んでいるようでした。

 夕食は豪華なものにすればいいのでしょうか? 

 ふふ、ではまたラーメンを作ってあげましょう。


 おめでとうございますライトさん。

 明日から王都への旅の続きですね。


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