王都
アルメリア王国、王都エスキシェヒル。
この国の政治、経済の中心地だ。
竜からこの国を守った王様の名前を付けたらしいが、言い辛いので皆王都と呼んでいる。
街は城壁で囲まれており幾度となく魔物の襲来を防いだそうだ。
犯罪防止の為、街に入るには正門で衛兵に監査を受ける必要がある。
俺たちは魔法修行を終え、無事に王都まで辿り着いた。
故郷から三ヶ月。色々あったな。
今日からここが俺の拠点になるのか。
「次の者!」
衛兵が居丈高に俺達を呼ぶ。
いばってんなぁ。そんな怒鳴らなくても聞こえてるよ。
全く、こういうところでしか威張れないなんてどうせ大した事ない奴なんだ。
ここは大人の対応といこう。
「氏名と出身地を述べよ! 入都理由もだ! それと証拠として戸籍謄本か人別長を提出せよ!」
むむ。やはり戸籍は必要だったか。
本当は持ってきたかったんだが、焼けてしまったんだ。
嘘ついても仕方ない。本当のことを言おう。
これで入都出来なかったらどうしよう……
こいつ見た感じ石頭そうだしな。
「ライトと申します。姓はありません。王都領、グランの出身です。村が魔物に襲われてしまい、路頭に迷っていた次第でございます。
入都理由は冒険者ギルドに登録をし、村の皆の仇を討つために力をつけにきました。戸籍謄本はスタンピードで焼失してしまいました。どうか暖かいご配慮をお願い致します。お願いいたします! 家族の仇を討たせてください! 私にはもうこれに賭けるしかないのです…… ヨヨヨ……」
こうなりゃ泣き落としだ! 別に嘘は言ってないんだ!
でもヨヨヨはなかったな。
自分で言って失敗したと思ってたら衛兵は……
ガバッ
俺を抱きしめてきた!
「辛かったな! 悔しいよな!? 本当は戸籍が無いと入都税取るんだが、お前から金は取れん! 心配するな! 俺が全責任を取る! お前泊まる所あるのか? 安い宿紹介してやろうか? なんなら俺の家に泊まってもいいぞ!」
「…………」
すごくいい奴だった。
大した事ない奴とか思ってすまん……
「いえいえ! 手持ちのお金は少しだけ余裕があるので大丈夫です! あ、でも安い宿を紹介していただけると助かるかも……」
「よし、任せろ! お前ライトといったな。俺はグリフレッドという。父が俺に英雄の名を付けてな…… 本名は名前負けして恥ずかしいのでグリフと呼んでくれると助かる!」
「よ、よろしくお願いいたします。グリフさん」
「グリフと呼んでくれ。そうだな…… 後一時間もすれば交代の時間だ。ここで待たせるのも悪い。街を見てこい。三時の鐘が鳴ったら中央に噴水広場に来てくれ。そこで待ち合わせしよう」
すげーいい人だ……
いや、むしろ衛兵に偏見を持っていた自分が恥ずかしい。
人伝に聞いた話で判断するんじゃなくて、自分の目で見て、耳で聞いて判断しなくちゃだな。
反省しよう。
待ち合わせの時間まで街を散策することにした。
ワイワイ
ガヤガヤ
キャッキャッ
すごい…… 石畳の道だ。
大通りには様々な露店がでて、活気に溢れている。
子供達が駆け回る傍らに、母親達だろうか、ご婦人達が井戸端会議をしている。
初めて見る施設もあった。
理髪店…… 髪を切ってもらえるのか。
あれは国営の公衆浴場…… 風呂か!
話には聞いたことがあるが、大量のお湯の中に入るんだったよな。
王都に留学に行った子が言っていた、最高だったって。
時間があったら行ってみよう。
「よう兄ちゃん! デートかい? うらやましいねぇ、ベッピンさん連れて! どうだい、串焼き五本で千オレンだ! 食ってかないかい?」
露店のおじさんが声をかけてきた。
ふふふ、俺の連れは美人だろう。人じゃないけどな。
串焼きを購入し、食べながら街を歩く。
すれ違う仲睦まじい男女の姿に目が行く。
デートか? 羨ましい……
そういえばフィオナに聞いておきたいことがあったんだ。
「さっきの人、フィオナのこと美人だって言ってたな。そういえば、トラベラーって誰かを好きになることってあるのか?」
「無いですね。そもそも恋愛感情というのは己が種を残すための生き物の本能。前に言いましたが、私達は死なないから種を残す必要がありません。恋愛感情を持つ必要も無いんです。だから理解出来ないのです」
「そうか……」
「どうしたんですか? 元気無いみたいですね」
予想通りの答えでちょっとへこんでしまう。
この三ヶ月の旅路の中で少しフィオナに対して恋心を抱いてしまったのだ。
そりゃキスまでしたからな。
今までの人生の中で、俺は異性を恋愛感情で見ることが出来なかった。
女性に興味はあった。告白してくれた物好きな女の子だっていた。
結局断っちゃったけど……
初めて好きになれそうな相手がトラベラーだったとは……
しかも相手はその手の話に全く興味無しか。
あーぁ、王都で恋人でも探すかな。
その前に……
「て、手を繋いでもいいか?」
「ん? いいですよ」
そっと俺の手を握ってくれる。
胸が熱くなる。
今はこれでいいや。
俺達は手を繋いだまま噴水広場に向かうことにした。
◇◆◇
時間を潰しながら町を歩いていると……
ゴーン ゴーン ゴーン
鐘の音。約束の時間か。
二人で中心にある噴水広場に向かうと、グリフは腕組みをして俺達を待っていた。
俺達に気付いたグリフは……
「時間通りだな! 俺も今来たところだ!」
グリフ。こいつは言葉は荒々しいが、性格は良いと思われる。
困っている人は放っておけないタイプだ。
俺と同じ空気を感じる。
彼とは上手くやっていけそうだ。
「グリフさん、色々助けて頂きありがとうございます」
「気にするな。それにグリフと呼んでくれ。さんは付ける必要はない。それにしてもお前のお連れさんは綺麗だな。嫁さんか? 王都は誘惑も多い。泣かせるんじゃないぞ!」
ん? グリフはフィオナがトラベラーだと気付いていないのか?
小声でフィオナに問いかける。
「フィオナのことバレてないみたいだな。どうしてかな?」
「普通の人は気付かないですよ。愛想の悪い人と思われるだけです。よほど勘のいい者、魔力適正の高い者、人を見る目に長けた者には分かってしまいますが。トラベラーは人にはあまり好かれていないから大人しくしておきますね」
そうなんだ。
俺は勘のいい部類に入ったのか。
一発でフィオナがトラベラーだって気付いたし。
なら安心して王都で暮らしていけそうだ。
「ありがとうグリフ。こっちは連れのフィオナ。嫁さんではないよ。俺の旅の手伝いをしてくれているんだ」
「そうか。よろしくな、フィオナ。今から二人に宿を紹介するが、そこそこ部屋数もあるところだ」
きた! 俺の密かな目標であることの一つ! プライベートな空間を得ること!
この三ヶ月、俺はフィオナと常に一緒だった。寝る時もだ。
たまに別行動はあったものの、基本ベッタリだ。
傍らには恋愛感情を持たないトラベラーのかわいこちゃん。生殺しにも程がある。
この状況の中で俺はどうやってハッスルしろというのだ。
幸い金には余裕がある。ここは自分の想いを押し通す!
「フィオ……」
「大部屋です。ここは譲りません」
被せてきやがった! お前、恨みでもあんのか!?
もう正直に俺が個室を取りたい理由を言うべきか……?
だめだ、恥ずかしくて言えるわけがない。
意気消沈している俺を見てグリフは話を続ける。
「まぁどっちの部屋を取るにしろ、まずは宿を見に行かないか? お勧めは商業区の外れにある銀の乙女亭だな。おかしな名前だが、引退した冒険者がやっていたパーティ名だそうだ。結婚を期に引退して宿屋を始めたとか。ギルドからは少し遠いからか、冒険者はあまり利用しないらしい。でも飯がうまいことで有名だな!」
銀の乙女…… すごく清楚なイメージだな。
引退した冒険者はそのパーティ名の如く美しい人なのだろうか。
しかし結婚で引退か。年上の綺麗な宿屋の女将さんとのロマンスは期待出来そうにないな。
ごはんが美味しいという所で良しとしよう。
歩くこと三十分。意外と遠かった。
でも宿の外観は小綺麗でそこそこ広い。
これは期待だな。後は綺麗な女将さんさえいれば!
「いらっしゃい! お客さんだね!」
身長二メートルぐらいのスキンヘッドのおっさんが出迎えてくれた。
腕とかスゲー太い。現役の冒険者なんじゃないのか、この人?
きっとこの人が宿屋の主人なのだろう。出だしで躓いてしまったが、女将さんはきっと銀の乙女の名に恥じない艶っぽい美人さんに違いないっ!
ドスゥッ! ドスゥッ!
な、なんだ? この地鳴りのような足音は?
足音の主は宿の厨房から現れた。
そ、その姿は……
「あんた! お客さんかい!? ようこそ銀の乙女亭へ!」
大声で出てきたのは旦那よりでかい筋骨隆々の女将さん……
銀の乙女感ゼロじゃねぇか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます